【病気】爬虫類の赤痢アメーバ

原因

爬虫類には多くの種類のアメーバが存在しますが、中でも臨床的に最も重大な種類はEntamoeba invadensで、潰瘍性腸炎および肝炎を伴う赤痢アメーバ症として深刻な原虫性疾患の一つです〔Donaldson et al.1975〕。E.invadensは赤痢アメーバ属に属し、人に寄生する法定伝染病であるEntamoeba histolyticaと近縁で、爬虫類においても人と同様に侵襲性疾患を引き起こし〔Ehrenkaufer et al.2013〕、形態や生活環も類似しています〔Sanchez et al.1994〕。E.invadensE.histolyticaの間には、遺伝子領域で74%の同一性、遺伝子間領域で50%の同一性が存在することが明らかになっています〔Rawat et al.2020〕。ライフサイクルには2つの明確な段階があり、1つ目は宿主の体外に伝播する耐性シスト期で、感染期とも呼ばれ、赤痢アメーバの種によって、シストは1核(ヨードアメーバ)、4核(赤痢アメーバ、小型アメーバ)、8核(大腸アメーバ)などがあります。 2つ目は運動性のある栄養体期で、宿主環境に導入された後にシストから放出され、病原性を呈する段階です〔Chia et al.2009.〕。形態は透明の流動体で、偽足を出してアメーバ運動をし、2分裂で増殖します。他の宿主に感染するために、シストを形成しなければなりませんが、シストは乾燥、熱、洗剤などの過酷な環境条件に対する耐性が付与され、次の宿主に摂取されるまで、極限環境下で長期間生存することができます〔Brenda 2017〕。シストが摂取されると、宿主の消化器系の影響を受けずに移動し、小腸に到達します。そこで、脱嚢を引き起こして8つの栄養体が出現し〔Brewer 2008〕、爬虫類の腸内の常在細菌に加え、大腸粘膜層を構成するムチン細胞を栄養源として利用します。栄養体はまた、粘膜層を破壊し続ける酵素を分泌し、この分解により、侵入部位に多くの細菌が集まり、栄養体の複製がさらに促進されます〔Daniel 2001〕。栄養体への栄養供給に加え、この過剰な細菌流入は二次的な細菌感染を引き起こし、寄生虫の全身分布を助長し、肝臓などの膿瘍を引き起こす要因になります〔Rivas et al.2014〕。

伝搬

主に汚染された糞便の摂取(糞口感染)によって、感染性のシストが摂取することで起こります。過密状態や不十分で汚染された水供給などの環境が容易に感染を成立させます〔Kojimoto et al.2001〕。

発生

多くの研究者は、低温気候に生息する爬虫類はキャリアとなる傾向があり、温暖な気候に生息する種は病原性を示すことが多いと指摘しています〔Rivas et al.2014〕。また、カメやワニは無症状のキャリアとなる傾向があるのに対し、ヘビやトカゲは死亡率が最も高いことも分かっています(特にヘビが重篤になります)〔Geiman et al.1937〕。しかし、E.invadensは草食のカメやトカゲの腸内ではシストを形成されやすく、無症状です〔Meerovitch 1958〕。しかし、幼い個体や何らかの原因で弱っていたり、他の病気にかかっていた場合には、まれにヘビと同じような重篤な腸炎や肝病変を形成することもあります。さらに、ヘビを用いた実験的感染において、E. invadens は 25°C では病気を引き起こしましたが、10°C や 30°C では引き起こしませんでした〔Barrow et al.1960〕。

症状

症状は、食欲不振、無気力、粘液性血便などで〔Rivas et al.2014〕、門脈を介した血行性播種によって肝炎や肝膿瘍も併発します〔Jacobson et al.1983〕。栄養体からアメーバポアと呼ばれる孔形成ポリペプチドが放出され、腸粘液と上皮バリアを破壊して組織への侵入を促進させます〔 Espinosa-Cantellano et al.2000〕。 栄養体は二次的に腸間膜循環に入り、肝臓や他の臓器に侵入し、腸管外病変を引き起こします〔Parshad et al.2002,Tetiker et al.1995〕。また、腸から肝臓へのアメーバの輸送経路として、胆道系を介した伸展も考えられています〔Jacobson et al.1983〕。

検査・診断

糞便検査で栄養体やシストを観察できます。運動性の寄生虫はアメーバ状で、ストレスを受けると丸みを帯びます。シストは栄養体よりも小さく、丸みを帯び、四核です〔Brenda 2017〕。しかし、栄養体の寿命が短く、他の赤痢アメーバ属との形態学的類似性があるため、診断は困難です。

治療

アメーバ駆除薬であるメトロニダゾールで治療できます〔Chia et al.2009.〕。臨床的には、抗原虫薬であるメトロニダゾールが、胃管を通して経口投与され、体重 1kg あたり 275 mg の用量で爬虫類アメーバ症の治療に使用されています〔Donaldson et al.1975〕。メトロニダゾールは栄養体に対して最も活性が高いものの、消化管腔からすべてのシストを除去するわけではありません。ただし、高用量では神経学的徴候を伴う肝毒性を引き起こす可能性があります。爬虫類におけるアメーバ感染症を予防するために、爬虫類飼育用のテラリウムでは厳格な衛生対策を適用する必要があります

予防

蔓延を防ぐため、汚染されたケージや器具はすべて厳重に衛生管理と消毒を行い、感染した動物は隔離する必要があります。アメーバには栄養体とシストという二つの形があり、感染源となるのは、糞に排泄されたシストです。そのため、飼育容器や水などがシストに汚染されないように気をつけ、万一汚染が分かった場合は熱湯や次亜塩素酸ナトリウムで消毒されることをご検討ください。

参考文献

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  • Brenda W.Flow cytometric characterization of encystation in Entamoeba invadens.Molecular and Biochemical Parasitology218:23‐27.2017
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  • Daniel E.Encystation in Parasitic Protozoa.Current Opinion in Microbiology4(4):421‐426.2001
  • Donaldson M,Heyneman D,Dempster R,Garcia L.Epizootic of fatal amebiasis among exhibited snakes: epidemiologic, pathologic, and chemotherapeutic considerations.Am J Vet Res36:808‐817.1975
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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。