カメの原虫(絨毛虫類と鞭毛虫類)

カメ類の糞便サンプルからは多種多様な原生動物が検出されており、一部の研究者は、すべてのカメが何らかの原虫を保有しており、自然状態ではこれらの生物が病原性を持つ可能性は低いと示唆しています〔Keymer 1981〕。特に繊毛虫類と鞭毛虫類の両方の原虫が頻繁に検出されますが、ほとんどの場合、宿主にほとんど影響をしめしません。しかしながら、飼育下では、原虫の大量存在に関連する疾患に関する様々な報告があり〔Scullion et al.2009〕、いくつかの例を挙げて考察します。

繊毛虫類

バランチディウム属(Balantidium sp.)とニクトテルス属(Nyctotherus sp.)は一般的に見られる繊毛虫類で、どちらもリクガメの消化管に常在し、セルロースの消化を助けると考えられています〔Frye 1991〕。胃腸障害時には個体数の増加が検出されることがあり、大腸炎を引き起こすことも、一部では示唆されていますが〔Bone 1992〕、多くの原生動物と同様に、バランチディウムが誘因となったのか、それとも腸疾患の結果として個体数が増加したのかは不明です。繊毛虫の生活環の詳細は不明ですが、感染性シストを介して感染すると考えられ、このシストは摂取され、小腸に移動して栄養体を形成します。栄養体は大腸に定着し、そこで増殖するだけでなく、新たな感染性のシストを形成します〔Bosschere et al.2012〕。バランチディウムの栄養体は、繊毛で囲まれた楕円形をした動きのあるもので、シストは丸い形状をしています。ニクトテルス属の栄養体はより大型ですが、シストは卵形で蓋があり、栄養体とほぼ同じ大きさです〔Barnard et al.1994〕。

鞭毛虫類

腸管の鞭毛虫類は、一般的にカメ類には病原性がないと考えられていますが、病気のカメ類の糞便中に多く見られると示唆されています〔Wilkinson 2004〕。一部の研究者は対照的に、鞭毛虫の過剰な数は食欲不振や下痢の原因となる可能性があることを示唆しています〔Bone 1992〕。カメ類の消化管には様々な種が存在する可能性がありますが、文献ではトリコモナス属が最も一般的で、片利共生をしていると考えられています〔Schneller & Pantchev 2008〕。他にもTrepomona spp.Trimitus spp.、 Chilomastix spp、Retortamonas spp.、Blastocystosis sppなど病原性がないと考えられていますが、あるいはその病原性が未だ不明です〔Scullion et al.2009,Pasmans et al.2009,Juan-Sallés et al.2014,Teow et al.1992〕。

ディプロモナス目Giardia ジアルジア
Spironucleus スピロノヌクレウス
Hexamita ヘキサミタ
Trepomonas トレポモナス
Trimitus トリミナス
オキシモナス目Monocercomonoides  モノセコモノイデス
プロテロモナス目Proteromonas プロトロモナス
レトルモナス目Chilomastix キロマスティックス
 Retortamonas レトロモナス
トリコモナス目Trichomonas  トリコモナス
Hexamastix       ヘキサミマステイックス
Hypotrichomonas ハイポトリコモナス  
Tritrichomonas  トリトリコモナス
Monocercomonas  モノセコモナス
Tetratrichomonas  テトラトリコモナス

対照的に、Hexamita parvaは、腎臓、膀胱、肝臓など、腸につながる臓器に向かって上昇する傾向があるため、病原性種とされています〔Zwart 1975〕。

Hexamita parva

鞭毛虫類の中でも、致命的な腎疾患を引き起こす可能性のあるHexamita parvaは鑑別することが重要になります。H.parvaは、ヨツユビリクガメやマルギナータリクガメなど様々な種類のリクガメで報告されています〔Zwart et al.1975〕。感染はおそらく感染性シストの摂取によって起こり、消化管を通過し、総排泄腔を経由して尿管を上昇し、腎臓に到達しますが、感染は尿を介して起こるという経路も考えられています。症状としては、食欲不振、体重減少、多飲などがあげられ、血尿および腎不全に移行することも考えられています。リクガメにおけるヘキサミタの感染は、重度の間質性腎炎、、尿細管壊死および石灰化ならびに痛風が引き起こされます〔Pasmans et al.2009,Zwart 1975〕。腎不全の症状として、異常に濃縮された尿を排泄することがあり、しばしば強いアンモニア臭を放ちます。重症の場合、尿に血が混じることもあります。続発的に脱水症状が見られ、過剰に水を飲み込むこともあります。

検査・診断

糞便検査で栄養体ならびにシストを検出します。最も一般的なのは直接塗抹標本で、通常、少量の糞便を同量の温めた生理食塩水と混合し、カバーガラスをかけます。この方法は、運動性原生動物の同定に特に有効です。しかし、古い糞便サンプルでは栄養体が活動していない可能性があり、新鮮なサンプルが最適です〔McArthur 2004〕。特に病原性のあるH. parvaの鑑別は重要で、特徴的な6本の鞭毛を持つ原虫が検出されることで本症が疑われる場合がありますが、トリコモナス属の英幼体との鑑別は困難です。トリコモナス属よりもはるかに小さく、典型的には8.03×4.79μmの大きさです〔Zwart et al.1975〕。また、尿中からも検出されることもあります。確定診断には、腎生検で寄生虫が検出される必要がありますが、侵襲が大きく臨床的には行われません。

治療

繊毛虫類と鞭毛虫類は必ずしも病原性があるわけではなく、むしろセルロース物質の消化を助ける有用な機能を持つ可能性があることを強調することが非常に重要です。多くの場合、治療せずに放置しても最終的には症状が治まり、絨毛虫や鞭毛虫の数は自然に正常に戻ります。しかし、下痢示した場合に治療が必要かどうかの判断は難しく、駆虫に使用するのはメトロニダゾールが一般的に報告され、様々な用量で使用されています〔Innis 2007〕。メトロニダゾールの抗菌作用による腸内細菌叢のさらなる破壊の可能性を考慮し、一方でメトロニダゾールによる嫌気性菌への作用が腸炎の原因ならびに二次的に原虫を増殖していた可能性があり、投薬の結果、下痢がおさまり、原虫が減少することもあります。したがって生菌製剤などの自然細菌叢の再生を促進するサプリメント投与といった穏やかな支持療法でも改善することがあります。治療が必要な場合、通常はメトロニダゾールを経口投与しますが、一部では薬剤により、消化管内のpHバランスが原因で嘔吐を引き起こす可能性があることが判明しています。メトロニダゾールの投与は様々な量が報告されています。Zwart (1987) は、25 mg/kg を 10 日間かけて投与することを推奨していますが、Jackson (1977) は、160 mg/kg を 24 時間ごとに 3 日間投与、Donaldson (1975) は、275 mg/kg の 1 回大量投与を推奨しています。。

参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。