概要と発生率
動脈瘤は動脈の壁が弱くなり、局所的に異常に膨隆した状態を指します。ヒトではよく知られた病態ですが、爬虫類全体での報告は稀です。しかし、フトアゴヒゲトカゲは、他の爬虫類と比較して動脈瘤の発生が過度に多いことが獣医学的に報告されています〔Furst et al.2020〕。ある心血管疾患に関する研究では、フトアゴヒゲトカゲの心血管疾患のうち、動脈瘤の発生率か高く、動脈瘤と診断された個体は心血管疾患による死亡リスクが極めて高いことが示されています。
原因と病態生理
フトアゴヒゲトカゲにおける動脈瘤の正確な発生原因は、多くの場合不明です 。遺伝、高血圧、銅欠乏、栄養性二次性上皮小体機能亢進症、感染症などが原因として推測されていますが、いずれも確証はありません〔BioOne 2025〕。
17例のフトアゴヒゲトカゲの動脈瘤を調査した研究〔Wünschmann et al.2019〕では、ほぼ全例で動脈壁の中膜と外膜のコラーゲン線維や弾性線維の重度な崩壊が認められました。正常な弾力性を失った血管壁は線維性の結合組織に置き換わり〔Reptiles Magazine 2016〕、動脈の圧力に耐えられなくなり膨隆します。また、血管壁の変性に伴い、血栓形成(54%)や解離性血腫(47%)、時には血管炎や石灰化、骨化も観察されています〔Wünschmann et al.2019〕。
発生部位
動脈瘤は体の様々な部位に発生する可能性がありますが、フトアゴヒゲトカゲでは全身に発生します。最も多く報告される部位は頭頸部で、大動脈弓やそこから分岐する総頸動脈、内頸動脈に由来することが多いとされ〔Barten et al.2006,BioOne 2025〕、頭頂部、側頭部(眼窩周囲)、下顎などに腫脹として現れます。ある研究では心臓周囲が最も多い発生部位とされています〔Wünschmann et al.2019〕。その他、尾動脈や、四肢や腸間膜などにも発生し得ます 〔Wünschmann et al.2019〕。
臨床症状
症状は、発生部位や破裂の有無によって大きく異なります。偶然、健康診断などで発見される場合があります〔Wünschmann et al.2019〕。頭頸部や尾、四肢などに、触ると硬い、あるいは波動感のある腫瘤が認められます〔Barten et al.2006〕。動脈瘤は極めて破裂しやすく、致死的な内出血を引き起こし、突然の虚弱や嗜眠が見られます。ある研究では、剖検時に94%が破裂していたと報告されていますので〔Wünschmann et al.2019〕、急死することも珍しくはありません。
診断
頭頸部や下顎などの腫瘤では、穿刺吸引で針を刺すと、鮮血が容易に吸引され、吸引後もすぐに腫脹が再発することが多く、強く疑う所見となります〔Barten et al.2006〕。腫瘤が血管構造であり、内部に拍動性の血流があることを確認するために腫瘤が血管構造であり、内部に拍動性の血流を確認するために超音波検査は不可欠です 。
治療
動脈瘤は破裂のリスクが非常に高いため、予後は一般的に不良です。アクセス可能な下顎や尾などであれば、流入する動脈を血管クリップや縫合糸で結紮し、動脈瘤自体を摘出する方法が試みられます〔Barten et al.2006〕。近年報告された高度な治療法では、CTと超音波ガイド下で、動脈瘤に直接穿刺し、N-ブチルシアノアクリレート(医療用接着剤)を注入して動脈瘤を内部から固めて閉塞させる治療法が報告されていま〔Di Girolamo et al.2025〕。
参考文献
- Barten SL,Wyneken J,Mader DR et al. Aneurysm in the dorsolateral neck of two bearded dragons (Pogona vitticeps). Proceedings of the Association of Reptilian and Amphibian Veterinarians.2006
- Di Girolamo N et al.Ultrasound-guided transcutaneous glue embolization resolved bilateral temporo-orbital aneurysms in a bearded dragon (Pogona vitticeps).Journal of the American Veterinary Medical Association (JAVMA).2025
- Furst B et al.Successful Surgical Repair of a Spontaneous Arterial Aneurysm in an Inland Bearded Dragon (Pogona vitticeps).Journal of Herpetological Medicine and Surgery. 2020
- Wünschmann A et al.Aneurysm Associated with Vascular Wall Degeneration in Bearded Dragons (Pogona vitticeps). Veterinary Pathology. 2019
- Reptiles Magazine.Bearded Dragon Aneurysms.2016
