背景
爬虫類の神経疾患は様々な原因があげられます。代表的なものとしては、代謝性骨疾患による神経症状、遺伝性およびモルフによる神経障害、そして感染症になります。しかし、軽度の神経症状様に見える異常行動や兆候は、ストレスによるものも考えられます。また爬虫類特有の行動、例えばトカゲに見られるボビングやアームウエイビンクなども神経症状と間違いやすいため、注意しないといけません。
症状
軽度な神経症状は微妙で、異常と気がつかないこともあります。脱力や麻痺(四肢の動きが鈍くい、立ち直り反射の消失(ひっくり返っても元に戻れない)、全く動かない)、痙攣(頭や全身を震わる、尾や四肢などの特定の部位がピクピクと動く、異常な動き(斜頸(首が傾く)、スターゲイジング(Stargazing/星空を観察するように頭を傾け仰ぎ見る行動)、後弓反張、体が曲がる、まっすぐ歩けない/泳げない、旋回運動(グルグルと回る))、見当意識害(自分が今どのにいるか分からなくなる)、または食欲不振、皮膚の変色、脱皮不全なども神経症状と併発することがあります。


検査と診断
飼育環境の聴取
詳細な病歴聴取は極めて重要で、多くの神経症状は慢性的な飼育環境の不備に起因する代謝性骨疾患やストレスなどの二次的なものです。特に重要な聴取項目には、温度勾配(至適温度帯範囲:POTZ)、UVB照明の供給(光源の種類、電球の使用期間、照射距離)、食餌(餌の種類、サプリメントの投与スケジュール)、そして飼育環境の複雑さが含まれます〔Bjornebo et al.2020〕。
視診
初期評価は、保定ストレスが神経学的反応を変化させる可能性があるため、動物に触れる前に行うべきです 。輸送用ケージ内または診察室内で動物を観察し、意識状態(明瞭、鈍麻、昏迷)、姿勢(斜頸、後弓反張、異常な頭部保持)、自発運動(運動失調、不全麻痺、旋回運動)などを評価します〔Mariani 2007,Hedley et al.2021〕 。
神経学的検査
神経学的検査は、哺乳類のアプローチと同様に、意識状態、姿勢・歩様、脳神経、姿勢反応、脊髄反射を体系的に評価します。しかし、その所見の解釈には種特有の視点が必要となり、爬虫類に精通していないと判断が難しいです。そして、哺乳類における神経学的検査をそのまま爬虫類に応用できるとは限らず、これらの検査技術はもちろんのこと、その解釈にも、種類や年齢、体温、個々の気質、ストレスレなど、様々な要因によって影響を受ける可能性があります。信頼性の高い少数の検査(例:立ち直り反射、逃避反射、顎の緊張)のみで評価し、病歴、自発的な行動の観察、そして補助診断を含めて判断しなければなりません〔Snow et al.2017,Warnefors et al.2019〕。
脳神経検査
基本的にトカゲで評価される検査ですが〔Tarbert et al.2022〕、一部はカメにも応用できます。
- CN I(嗅神経): 刺激性のない匂い(例:食物)またはアルコールのような軽度の刺激物に対する反応を、舌の出し入れ(タングフリッキング Tongue flicking)、頭部の後退、顔面の攣縮などを観察して評価しますが、固体の性格によって全く反応しません。
- CN II(視神経): 威嚇反射は、フトアゴヒゲトカゲやヒョウモントカゲモドキのような多くの健康なトカゲで一貫して認められないため、信頼性の低い検査となります 。視覚は、障害物を避けたり、獲物を追跡したりする様子を観察する方がより良く評価できます。瞳孔対光反射は評価可能ですが、虹彩には横紋筋が含まれるため〔Petritz et al.2020,Reger et al.1966〕、哺乳類よりも反応が遅く、随意的な側面がありますので、評価には不向きかもしれません。視神経の交差の仕方も種類によって大きく異なるため、間接対光反射はしばしば欠如するか不完全です。
- CN III, IV, VI(動眼、滑車、外転神経): 前庭動眼反射(生理的眼振)は信頼性の高い検査である。頭を左右に動かすと、共同性の眼球運動が誘発されるはずです。
- CN V(三叉神経): 顔面の感覚は、唇や顔を綿棒で触れることで検査し、頭部の後退や攣縮を観察できます 。顎の緊張は重要かつ一貫して存在する指標であり、穏やかに口を開けることで評価します。 注目すべきことに、爬虫類〔Hunt 2014,Mariani 2007,Wyneken 2007〕においてもイヌ〔Dewey et al.2015〕と同様に眼瞼反射は三叉神経と顔面神経を刺激すると考えられています。しかし、鳥類では、三叉神経は瞬きの求心性神経と遠心性神経の両方を担っている〔Orosz et al.2016〕。アゴヒゲトカゲにおける三叉神経と顔面神経の役割については、さらに調査する必要があります。トウブアゴヒゲトカゲの皮膚受容体の分布は、頭部の背側、特に唇と鼻の鱗に高い受容体密度を示すという報告がありますが〔Dujsebayeva et al.1987〕、顔面感覚反応は鈍いあるいは欠如しています〔Warnefors et al.2019〕。これは爬虫類の頭部の皮膚領域は十分に解明されておらず、解釈不能です。
- CN VII(顔面神経): 眼瞼反射は検査可能ですが、爬虫類では稀にしか見られない顔面の対称性も主要な評価項目となりえます。
- CN VIII(前庭蝸牛神経): 大きな拍手に対する聴覚反応は、多くは爬虫類では反応せず、聴覚の信頼できる指標ではなありません。前庭機能は、斜頸、眼振、平衡感覚の喪失を観察して評価します。
- CN IX, X, XII(舌咽、迷走、舌下神経): 嚥下と舌の動きは、給餌中または穏やかに口を開けることで観察できますが、評価が曖昧です。
姿勢反応と脊髄反射
甲羅を備えたカメ、四肢を欠くヘビは検査対象ではありません。トカゲでも脊髄反射の評価は多くが困難であり、解剖学的および技術的限界かもしれない。
- 立ち直り反射: 健康な爬虫類において基本的かつ一貫して存在する検査です。動物を背臥位に置くと、即座に正常な姿勢に戻ろうとするはずです。反応が遅いか欠如している場合は、全身性または神経系の疾患を示す重要な兆候といえます。
- 固有受容性位置覚: 特に後肢においてしばしば一貫性がなかったり、認められなかったりするため、信頼性か低いです。
- 逃避反射: 指先を穏やかにつまむと、四肢の素早い屈曲が誘発されるべきです。これは脊髄分節と末梢神経を評価するための信頼できる反射になります 。
- 皮膚躯幹筋反射: 皮膚や鱗か薄い一部の種で誘発可能ですが、鱗が厚い個体では検査は評価は不可です。
- 伸張反射: 膝蓋腱反射などの伸張反射は、あまり起こらず、評価は不可です。

補助的診断:病変部位の特定
血液検査
全血球計算(CBC)と血漿生化学検査は、低カルシウム血症、高リン血症、または低血糖症といった神経症状の代謝性原因を特定するために不可欠です 。白血球増加症は、IBDのような急性の感染を示唆することができます 。
画像診断
X線撮影
代謝性骨疾患が疑われる症例において、骨の脱灰、病的骨折、脊椎変形などを評価するために不可欠です。

CT・MRI検査
高度な画像診断は中枢神経系を可視化するためのゴールドスタンダードです。CTは骨(例:脊椎骨折)の評価に優れ、MRIは脳や脊髄の病変(膿瘍、腫瘍、炎症など)を特定するための優れた軟部組織の評価に役立ちます。

感染症検査
血液、スワブ(総排泄腔/口腔)、または組織生検を用いたPCR検査は、レプタレナウイルスやアデノウイルスのようなウイルス性病原体の生前診断に極めて重要です。 しかし、本邦では商業的検査施設では行っておらず、一般の動物病院では検査はできません。
組織病理学
生検(例:IBDのための肝臓、食道扁桃)または剖検は、特徴的な封入体や細胞の変化を特定することにより、多くの疾患の確定診断手段となります 。
検査 | 方法 | 正常(トカゲ) | 正常(ヘビ) | 臨床的意義 |
意識状態 | 遠隔から観察。環境への反応性を評価。 | 明瞭、周囲に注意を払う。 | 明瞭、警戒している。 | 鈍麻や昏迷は前脳または脳幹の病変を示唆する 。 |
姿勢 | 安静時の体の位置を観察。 | 頭を上げ、体を地面から持ち上げる。 | S字状に体を保持し、頭を持ち上げる。 | 斜頸、後弓反張、旋回は前庭系または脳の病変を示唆する 。 |
立ち直り反射 | 動物を背臥位に置く。 | 即座に、または数秒以内に正常位に戻る。 | 即座に、または数秒以内に正常位に戻る。 | 最も信頼性の高い検査の一つ。遅延または欠如は重篤な全身性または神経疾患を示す 。 |
逃避反射 | 四肢の指先を穏やかにつまむ。 | つままれた四肢を素早く屈曲させる。 | (適用外) | 脊髄分節および末梢神経の完全性を評価する信頼性の高い検査 。 |
顎の緊張 | 穏やかに口を開ける。 | 閉口に対して中程度の抵抗を示す。 | 閉口に対して中程度の抵抗を示す。 | 緊張の低下または非対称性は三叉神経(CN V)の機能不全を示唆する 。 |
威嚇反射 | 眼に向かって素早く手を動かす。 | 一貫して認められない。 | 瞬きまたは頭部の後退。 | トカゲでは信頼性が低い。ヘビではより一貫性があるが、ストレスで抑制されることがある 。 |
瞳孔対光反射 (PLR) | 暗所で目に光を当てる。 | 虹彩の横紋筋により、反応は遅く、不完全なことがある。間接反射はしばしば欠如。 | 虹彩の横紋筋により、反応は遅く、不完全なことがある。 | 反応の非対称性は視神経路または動眼神経の病変を示唆する可能性があるが、解釈には注意が必要 。 |
固有受容性位置覚 | 四肢の甲を地面につける。 | 一貫して認められないか、非常に遅い。 | (適用外) | トカゲでは信頼性が低く、正常でも欠如することがあるため、診断的価値は低い 。 |
膝蓋腱反射 | 膝蓋腱を軽く叩く。 | ほとんどの場合、認められない。 | (適用外) | 哺乳類とは異なり、臨床的に有用な反射ではない 。 |
神経疾患の原因
爬虫類の神経疾患は、感染症、栄養失調、外傷、代謝疾患、先天異常、中毒、腫瘍などによって引き起こされます〔Platt 2019,Stenglein et al.2012,Zimmerman et al.2009,Franchini et al.2016,Chrisman et al.1997,Di Giuseppe et al.2017,Széll et al.2001,Keller et al.2016〕。
感染症
細菌やウイルス、寄生虫などが原因で、神経症状が起こることがありますが、その原因が特定できるのは一部にすぎません。その理由は脳や脊髄のサンプルが採取できないことにあります。集団のウォータードラゴン において、全例で神経症状が見られ、死後の解剖で血栓形成ならびに脳軟化症の病理診断が下されましたが、ウイルス性または毒性のある病因とした診断できなかった報告があります〔Westmoreland et al.2016〕。臨床的に有名な感染性の神経疾患はヘビの封入体病とフトアゴヒゲトカゲのアデノウイルスです。しかし本邦では確定診断を下すことは、研究所でない限り難しいです。その他、爬虫類において神経症状を引き起こすウイルス感染症は、パラミクソウイルス、西ナイルウイルス、ヘルペスウイルス、レオウイルスなどがあります〔Jacobson et al.1992,Keeble 2004,Soares et al.2004,Jacobson et al.2005,Marschang 2011〕。細菌ではブドウ球菌、リステリア菌、結核菌など、ヘビにおいて原虫性神経疾患が報告されています。
ヘビの封入体病(IBD)
IBDは、Reptarenavirus属のウイルス感染によって引き起こされ、ニヒsキヘビでは通常、神経症状を主体とし、数週間で急速に進行し、重篤な経過をたどります 。神経細胞への感染と炎症が関連し、症状を示したヘビは予後不要です。ボアでの神経症状は軽微ですが、多くは数ヵ月から数年間、臨床的に健康に見えながら感染性を有する無症状キャリアであり得ます 。
フトアゴヒゲトカゲにおけるアタデノウイルス感染症
アガマアデノウイルス1(AgAdV-1)、Atadenovirus属の一員によって引き起こされ、糞口感染で伝播します。ウイルスは主に肝臓と消化管を標的とし、肝炎と腸炎を引き起こし、神経症状は、肝性脳症や重度の代謝異常など、全身性疾患に続発するものと考えられています 。臨床症状は、特に若齢個体においてしばしば曖昧で非特異的であり、食欲不振、体重減少、下痢、突然死などが含まれる 〔Doneley et al.2014〕 。
遺伝性およびモルフ関連神経症候群
特にヒョウモントカゲモドキは品種改良が進んでおり、繁殖家たちが原種同士の選別交配や突然変異個体の固定を行い、数多くモルフが作成されています。体色や模様、身体の大きさ以もちろんのこと、様々な目の色の個体が存在し、その美しい色や模様、特徴が魅力の人気の爬虫類です。その一方で、一部のモルフでは遺伝性疾患が発生し、その遺伝子を引き継いだモルフが問題となっています。ヒョウモントカゲモドキにおける「エニグマ症候群」とボールパイソンにおける「ワブル症候群」が神経疾患を起こすことで有名です 。モルフ関連神経症候群に対する治療法はありません 。管理は、ストレスを最小限に抑え、ケージはシンプルで安全なものにし、ぶつかったり、落下する可能性のある構造物は設置しないようにします 。
ヒョウモントカゲモドキにおけるエニグマ症候群
エニグマ(Enigma)は模様のモルフで、全身に薄紫や白、オレンジなどの色素が全身にランダムに散らばって現れています。エニグマとは「謎」「なぞなぞ」「パズル」のような意味があり、またこのランダムさは遺伝せず、個体によって表現が大きく異なります。本モルフには特異的な遺伝性疾患の潜在が指摘され、エニグマ症候群(Enigma syndrome:ES)と呼ばれています。症状は、斜頸や旋回運動、発作、スターゲイジング、獲物を捕まえられないなどの異常行動です。しかし、症状の発現や経過、重症度などに個人差があるようですが、ハンドリング、輸送、大きな音、または同居個体の存在といったストレスによって神経症状が進行し、慢性的になると自力で採食もできなくなります。ESは純粋なエニグマだけでなく、エニグマ遺伝子が関与する他の個体にも発症することがありますので、つまりエニグマ遺伝子を潜在的に備えている個体が、ヒョウモントカゲモドキ全体に蔓延する恐れもあります。その他、ホワイト&イエロー(White & Yellow:W&Y)症候群も神経症状と関連する別のモルフで、大半な軽微な症状で、重症にはならないと言われています。

ボールパイソンにおけるワブル症候群
ボールパイソンにおける模様のモルフのスパイダー(Spider)は、模様の面積が広がり、緑色を帯びた褐色の大柄な鞍掛模様が全身を覆っており、模様と模様の間を縦横に走る基調色部の黒くて細いラインが蜘蛛の巣のように見えることがモルフ名の由来となっています。本モルフには神経症状が多発し、頭部の左右またはねじれ、運動障害、スターゲイジング、獲物の攻撃や締め付けの困難を引き起こし、海外ではWobble(ぐらつき)という症状名で認知され、ワブル症候群(Wobble syndrome)と呼ばれています。成長に伴い症状が軽微になり、無症状になる個体もいます〔Rose et al.2014〕。近年の研究では、平衡感覚障害を起こす頭蓋骨の耳領域の詳細なCT検査が行われ、ノーマル個体と比べてスパイダーは、三半規管が変形し、鼓室胞が小さいことが特徴でした。これらの特徴には、個体間のかなりの変動が認められましたが、ワブル症候群と深く関連付けられる可能性が指摘されました〔Starck et al.2022〕。
外傷
落下、交通事故、ケージ内のレイアウト物との接触により、頭部に何らかの外力が加わり脳挫傷や脳内出血、また脊椎骨折を伴う脊髄損傷などが発生します。軽症で済むものから生命に関わる致命傷ものまでを含む幅広いです。頭部外傷においては、MRI検査による評価が、機械のスペック的にも小型種では限界もあり、麻酔を施すというデメリットもあり、現実的に制限されます。脊髄損傷はX線やCT検査において、脊椎骨折の状況から暫定的に判断することが多いです。運動障害ならびに排泄困難なミナミゾウガメの頸椎骨折の診断にCT検査が有用であった報告があります〔Yuschenkoff et al.2019〕。
代謝性および中毒性神経障害
原発性の中枢神経系病理ではなく、全身性の代謝異常や毒物への曝露の現れである神経疾患が起こります。これらは臨床現場で最も一般的に遭遇する症例の一部で、代謝性骨疾患ならびに低カルシウム血症が多発します。他にも魚食性の爬虫類ではチアミン欠乏症により神経症状が発生します。
代謝性骨疾患/低カルシウム血症
飼育下の爬虫類で最も一般的な代謝性疾患で、カルシウム恒常性の破綻が問題となります。これは、食事中のカルシウム不足、不適切なカルシウム対リン比(1.5:1から2:1であるべき)、食事中のビタミンD3不足、または内因性ビタミンD3合成に必要なUVB放射への不適切な曝露、という一つ以上の要因によって引き起こされます 。血液中のカルシウムが低下すると、上皮小体が上皮小体ホルモン(PTH)を放出し、血中濃度を維持するために骨からカルシウムを放出させますが、この代償機構が破綻すると、重篤な低カルシウム血症が生じ、神経症状が起こります。 骨の軟化や変形、病的骨折といった骨格系の兆候が典型的ですが、救急来院のきっかけとなるのはしばしば神経症状になります 。症状は四肢や尾の筋振戦、全身性発作、テタニー(硬直性筋痙攣)、不全麻痺または麻痺が含まれます。 発作やテタニーを呈する動物に対しては、血漿カルシウムを回復させることが直近の治療となり、カルシウムの注射が行われます。治療の根幹は、根本的な飼育環境の不備を是正することである 。これには、高品質のカルシウムサプリメントを添加した適切な食事の提供、正しいCa:P比の確保、そして適切なUVB光源の設置が含まれます 。経口カルシウムサプリメントも開始されます 。
中毒
動物の環境に関する徹底的な病歴聴取は、中毒症を診断する鍵となります潜在的な発生源には、殺虫剤、不適切な薬剤、有毒な植物や餌があげられます。有機リン化合物とカルバメート類は,コリンエステラーゼ活性を阻害する一般的な殺虫剤成分であり、この機序により流涎、攣縮や運動失調、死亡などのムスカリン様およびニコチン様症状を引き起こします〔Fitzgerald et al.2008〕 。 ホタルはフトアゴヒゲトカゲに対して毒性が高く、急速な死を引き起こすルシブファジンという毒性物質が原因です。北米に生息する約2,000種のホタルのうち数種は、ルシブファジンという非常に毒性の高い防御ステロイドを体内で生み出し、鳥類、両生類や爬虫類からの捕食から守ることができます。これらの毒素は潜在的に心毒性があり〔Budavari et al.1996〕、低濃度では吐き気や嘔吐を引き起こす可能性があります〔Kaiser et al.1958,Kelly et al.1996〕。また、低用量でも致死的となる可能性があります〔Kaiser et al.1958〕。米国南東部原産のトカゲ類(グリーンアノール、ナミハリトカゲ、オカダトカゲ)の中には、ホタルを避ける種があることが知られています〔Sexton 1960,1964,Sydow et al.1975〕。しかし、オーストラリアの原産地では、知られている限り、アゴヒゲトカゲはホタルに接触することはありません。しかし、Pogona属は無差別な摂食行動を示し、味覚によって忌避される傾向はないと言われ、ゴキブリやガなども喜んで食べます。しかし、キノン類を散布するオオカミキリムシを拒絶することが観察されています〔Aneshansley et al.1969〕。ペットショップで購入できるような、認可された昆虫のみを与えることが無難かもしれません。その他の外来種のトカゲもホタルの毒性の影響を受けやすい可能性があるため、注意が必要です。そして、寄生虫の駆除剤で使用されるイベルメクチンも、特にカメに対して毒性が高く、低用量でも不全麻痺、麻痺、死亡を引き起こすので、注意が必要です。
その他
腫瘍や膿瘍などの新生物、血圧が影響しての神経症状の発現もありえます。特にフトアゴヒゲトカゲでは、末梢神経鞘腫瘍〔Lemberger et al.2005〕、慢性動脈性高血圧に伴う脳症〔Schilliger et al.2019〕の報告もあります。
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