陸ガメの甲羅の角質板の中央にピラミッド(円錐)のように盛り上がり、背甲全体が凸凹になる現象がよくあります。インドホシガメやヤブガメ属を除き、この円錐状の甲羅の成長パターンは病的と考えられており、Pyramidal growth syndrome (PGS:錐体成長症候群/ピラミッド成長症候群)と呼ばれ、俗称で甲羅のピラミッティングあるいはピラミッド化とも呼ばれています。野生個体には起こらず、主に飼育下の陸ガメに見られ、アカアシガメやケヅメリクガメに好発します。
原因
1972年にPGSは異常であると指摘され、食事性タンパク質の過剰摂取、カルシウムとビタミンDの欠乏、カルシウムとリンの不適切な比率(Ca:P)といった栄養的要因などが関与していると考えられており〔Obst et al.1972〕、急速な甲羅の成長、運動不足、紫外線照射不足も発生要因とされています〔Frye 1991,Highfield 1996,McArthur 1996,Beyon et al.1997,Kirsche 1997,Walls 1997,Sassenburg 2000〕。しかし、PGSを代謝性骨疾患(MBD)との関連について詳細には検討されていませんが、一部では同じ原因によるものと、明示的または暗黙的に示唆されています〔Jackson et al.1981,Gabrisch et al.1995,Ko¨hler 1996,Kirsche 1997,Eggenschwiler 2000,Sassenburg 2000〕。なお、健常体の陸ガメにもPGSはしばしば見られるため、その真相解明は不可欠です。しかしながら、有力な原因として環境湿度の影響が示唆されました〔Weser 1988〕。食事中のタンパク質レベルと環境湿度が甲羅の錐体成長の程度に及ぼす影響の実験がなされ、乾燥環境と栄養価の高い食事による高い成長率の組み合わせがケヅメリクガメのPGSをもたらし、湿潤環境はPGSを著しく抑制し、食事性タンパク質レベルの低下はPGSの抑制効果について疑問視された結果がでています〔Weser 1988〕。
【病気】カメの代謝性骨疾患(MBD)(甲羅の変形・軟化)の詳細はコチラ
湿度が最有力?
異常な甲羅の錐体形成は、甲板間の溝下の組織の乾燥に起因し 、最終的には異常な骨化を引き起こすことで、角質甲板の間の継ぎ目が固定され、新しい甲板の成長は甲板の縁に沿って横方向に成長できずに、代わりに各甲板の下面にのみ堆積します 。角質甲板が積み重ねられて錐体を形成します〔Wiesner et al.2003〕。野生での湿気の多い季節(雨季)はカメは急速に成長する時期に対応し、栄養分に富んだ新芽の植物が豊富な時期になります。一方、乾期は餌が不足がちになり、カメの運動量も減少し、おそらく発育速度も遅くなります。成長の早い孵化したばかりの幼体も草が多い雨季に生まれて発育し、成体のカメでも乾期には、植物のはえている薮、地面を掘った窪みなどの湿度のある地面を選んで生活しています〔Vinke et al.2003〕 。これを考慮すると、飼育下では乾燥した飼育環境と持続的な高タンパク質の餌の異常な組み合わせが、多くの陸ガメに提供され、つまり、乾燥による脱水と高栄養による急速な成長がPGSにつながる可能性が高いとされています〔Wiesner et al.2003〕。
症状
健常体のカメの甲羅は水平に発達するはずですが、PGSは個々の甲羅が過度に上向きに錐体を形成して成長します。ピラミッド化は主に飼育下の亜成体の陸メに好生し、の甲羅に複数のピラミッドのような外貌になり(ピラミッディング/ピラミッド化)、凹凸のある見苦しい甲羅になっていますが、生体に対して必ずしも有害ではありません。極度の甲羅の変形が起これば肺機能に悪影響を与えたり、メスでは産卵できなくなることがあります。また、背甲の変形が脊髄周囲も変化をもたらし、脚麻痺を引き起こす可能もあります。急速な甲羅の成長と適切な骨の ミネラル化の欠如が組み合わさると、一部のカメでは甲羅の骨が多孔質で海綿状になることがあり〔Highfield1996〕、その結果、密度が低い、弱い骨甲板が形成されます。

予後
症状を早期に発見し、迅速に治療することが重要ですが、残念ながら一度ピラミッディングが始まると、甲羅の変形を元に戻すことはできません。角質甲板とその下の骨板は、正しい方法で永久に形成されるのと同じように、特定の方法で永久に形成されてしまいます。例え成長過程でピラミッド化が止まっても、完璧に戻ることはありませんが、その後の成長で多少は改善されることがあります。PGSを患うリクガメが成体になると、 成長速度は鈍化するうえ、錐体化含めて甲羅の外観はほぼ変化しません。 代謝性骨疾患を患っている場合 、甲羅は積層された状態で成長を続け、 甲羅は しばしば弱く多孔質になり、中央部が劣化して崩壊することがあります 。

予防
餌のタンパク質の過剰を予防し、カルシウムとビタミンDの量ならびにカルシウムとリンの適切な比率を考慮した栄養的要因を整えます。急速な甲羅の成長を控え、紫外線の十分な照射される環境を整備し、代謝性骨疾患を予防することはもちろんです。しかし、PGSを予防するポイントは湿度になります。陸ガメの飼育ケージ全体に非常に高い湿度を与えることは現実的ではなく、呼吸器系の問題を引き起こす可能性もあり、苔やカビの発生することもあります。ケージ内に皿に新鮮な水を常に用意しておいたり、定期的に温浴をさせます。 睡眠と休息の場として利用するシェルター内に湿度の高い領域を作り出す方法も得策で、シェルター内に湿らせたミズゴケを厚く敷いたり 、天板の裏側にスポンジを取り付けます。脱水は全身の組織に影響を及ぼし、特に腎機能にも悪影響を及ぼします。
参考文献
- Beyon P,Lawton PC,Cooper JC.Kompendium der Reptilienkrankheiten,Haltung,Diagnostik,Therapie.Schlu tersche,Hannover:p158.1997
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