はじめに
ヒョウモントカゲモドキの尾の付けの腫瘤の大半は、クロアカサックプラグと思われます。腫瘍ではなく、ヘミペニスが収納されているクロアカサック内に、何らかの原因で恥垢が精液と共に排泄されずに硬結して硬いプラグ(栓子)になり、蓄積することで膨らん見えます。発情したオスに好発すると思われています。
病名
飼育者によってクロアカサックのプラグ、または総排泄腔の詰まりとして認識される病態は、獣医学的には一般にヘミペニスプラ(Hemipenal plugs)、またはその構成要素から精液プラグ(Seminal plugs)、俗にスパームプラグ(Sperm plugs)と呼ばれる状態を指します〔Elliott 2014〕。
オスの生殖器解剖とプラグの形成
ヒョウモントカゲモドキを含む有鱗目の雄は、総排泄腔の尾側、尾の付け根の腹側にある一対の袋状の構造(クロアカサック)内に、反転した状態の一対のヘミペニス(半陰茎)を格納しています。クロアカサックプラグは、反転してクロアカサック内に収まっているヘミペニスの内腔に蓄積する物質の塊です。その構成要素は、正常な状態では濃縮した恥垢または精液と細胞残屑から成り、硬くワックス状の物質と定義されています。これらは哺乳類の包皮垢に類似した、ある程度は正常な生理的分泌物であると見なされています。したがって、プラグの形成自体は生理的な現象である可能性があります。本稿で言うクロアカサックプラグとは、これらが正常な脱皮や排泄の際に自然に排出されずに異常に硬化・固着し、腫脹、炎症、感染などの臨床症状を引き起こす病理的な状態を指します〔Rodríguez et al,2014〕。
要因と病態
クロアカサックプラグの固着は、偶発的に発生する疾患ではなく、その多くが飼育管理の不備、特に栄養と環境(湿度)の慢性的な失敗に起因する予防可能な人為的疾患です。その発生要因は低湿度環境とビタミンA欠乏症になり、プラグ固着において相乗的に作用します。ヒョウモントカゲモドキやカメレオンのような多くの食虫性爬虫類は、植物性飼料(例:野菜)に含まれるβカロテン(ビタミンA前駆体)を、生物学的に活性な形態であるプレフォームド・ビタミンA(レチノール)に変換する能力を持たないか、あるいは極めて低いことが知られています。したがって、これらの種は、飼育下において餌昆虫へのダスティング(サプリメント添加)を介して、プレフォームド・ビタミンAを餌から直接摂取する必要があります。正常な状態において、クロアカサックの内壁は粘膜上皮で覆われており、恥垢や精液の排出を助けるための潤滑液(粘液)を分泌しています。しかし、ビタミンA欠乏症が発生すると、サックを裏打ちするこの粘膜上皮が扁平上皮化生を起こし、剥がれ落ちたケラチン様残屑が過剰に産生されます。この結果、正常な生理的分泌物(恥垢や精液)が、異常なケラチン様残屑と混ざり合い、粘液による潤滑がない乾燥した環境で蓄積します。さらに、化生した上皮が分泌腺の開口部を物理的に閉塞させることもあります。これにより、本来排出されるべき物質が排出されず、異常に硬化した「固着性ヘミペニスプラグ」が形成されるのです。形成されたケラチン様で乾燥しやすい異常なプラグが、飼育環境の湿度の低さ(乾燥)によって、慢性的な亜臨床的脱水状態に陥った個体の体内で、さらに水分を奪われます 。この全身的な脱水状態が、クロアカサックの異常なプラグからさらに水分を奪い、プラグを濃縮させ、脱水したワックス状の物質へと変化させます。結果として、プラグは自力で排出不可能な、セメントのように硬く固着した異物へと変化します。
症状
最も一般的な所見は、総排泄腔の尾側に見られる、片側性または両側性の非対称的な腫脹です。進行すると、硬化したプラグの先端が総排泄腔の隙間から突出して視認されることがあります。この突出したプラグの先端には、尿酸や糞便が通過する際に付着し、一見すると小さな糞便の塊が総排泄腔に付着しているように見える場合があります。 プラグの固着を未治療のまま放置すると、物理的な圧迫と感染により、不可逆的な組織損傷を引き起こしす。


固着したプラグは死腔に蓄積し、局所的な炎症、組織損傷、および二次的な細菌感染を容易に引き起こします。これが進行すると、膿瘍を形成します。プラグによる不快感、炎症、または排泄時の過度ないきみが引き金となり、ヘミペニス自体がパウチから反転して体外に脱出するヘミペニス脱を引き起こすことがあります。

検査・診断
ヘミペニスプラグの診断は、特徴的な症状のため目視で可能です。触診により、腫脹の硬さ、可動性、片側性か両側性かを確認します。
治療
プラグの一部分が総排泄孔から露呈してる場合は、ピンセットなどを使って引っ張って除去します。用手で膨らみを押すとプラグが押し出されることもあります。プラグは固く付着していますので、医療用潤滑ゼリーなどの潤滑剤を、プラグとヘミペニスパウチの組織との間に注入したり、クロアカサックの基部(尾の付け根)を愛護的にマッサージし、プラグを徐々に緩めたりします。鎮静・麻酔なしでの除去は、個体に極度の痛みを与えます。無理な牽引は、この脆い組織を引き裂き、出血や深刻な感染を引き起こしますので、固着したプラグの除去は、鎮静または全身麻酔を施して実施されます。




プラグが非開放、あるいはクロアカサックに癒着している場合は、全身麻酔下で切開して除去します。切開創は基本的に開放にして、消毒や抗生物質の投与を行います。



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参考文献
- Elliott D.Reptile Reproductive Problems.World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings.2014
- Rodríguez CE,Pessier AP.Pathologic changes associated with suspected hypovitaminosis A in amphibians under managed care.ReviewZoo Biol33(6):508-15.2014

