【病気】爬虫類の膿瘍

膿瘍

膿瘍とは、一般的に細菌感染によって引き起こされる、組織内における膿の限局的な集積です。哺乳類では、この膿は液体状であるが、爬虫類においては固形状の被包化された塊として形成されます 。

乾酪様膿

具体的には、爬虫類における好中球に相当するヘテロフィルやマクロファージといった白血球、そして壊死した組織の残骸が集合し、その周囲を線維性の被膜が取り囲むことで膿瘍が構築されます。  理解すべき最も重要な点の一つは、爬虫類の膿が哺乳類のものとは根本的に異なる性状を持つことです。哺乳類の膿が液状であるのに対し、爬虫類の膿は固形で、厚みがあり、チーズに似た外観と硬度を持ちます(乾酪様)。   この特異的な性状は、爬虫類が哺乳類とは異なり、壊死組織や白血球を液化させる特定の酵素(リゾチームなど)を欠いていることに起因します。獣医師による臨床報告においても、膿瘍の内容物は一貫して「黄色いチーズのような膿」と表現されており 、この物理的特性が治療法を決定づける重要な要因となります。  生体は、この乾酪様の膿性物質の周囲に厚い線維性の壁を形成します。この被膜形成は、感染が周囲の健康な組織へ波及するのを防ぐための重要な防御機構ですが、同時に治療上の大きな障壁ともなります 。この特徴を強調するために、Fibrescesses(線維膿瘍)という用語が用いられることもあります。 

治療

爬虫類の膿瘍が持つこれらの物理的・生物学的特性は、治療プロトコル全体を規定する決定的な要因です。膿は固形であり、内部には血管が分布していないため、血流を介して投与される全身性の抗生物質は、被膜に阻まれて膿瘍の中心部にある感染巣に到達することができません。この病態生理学的な事実から、抗生物質の投与のみでは治癒が期待できず、感染の温床となっている固形の膿と被膜を物理的に除去する外科的介入が不可欠である、という臨床的な結論が導き出されます。単なる投薬ではなく、外科処置を第一選択となります。   

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。