【病気】陸ガメの鼻炎・肺炎(苦しそう)

はじめに

飼育下の爬虫類では呼吸器疾患が頻繁に診断され、罹患率と死亡率の主な原因となっています。すべての爬虫類種が罹患する可能性がありますが、特にカメは急性または慢性の呼吸器疾患を呈します。ほとんどの爬虫類種にとって、環境条件は非常に特殊であり、飼育下ではそれを満たすことがしばしば困難です。温度や湿度が高すぎる、または低すぎる、不適切な餌、慢性的なストレスといった不適切な環境条件は、動物の免疫不全につながります。ウイルス、細菌、真菌、寄生虫など、様々な感染性病原体が検出され、爬虫類の呼吸器疾患と関連付けられていますが、異物や外傷といった非感染性の原因も一般的です。

カメの解剖

空気は鼻孔から入り、嗅上皮と粘膜上皮で覆われた鼻腔を通過します〔Origgi et al.2000〕。声門は肉質の舌の基部に位置し、開口時にはしばしば視認できます。気管は完全な気管輪から構成され、胸郭入口で左右の分岐のない肺内気管支に分岐します。すべてのカメは、甲羅の下部に位置する一対の多室肺を有し、比較的硬く、尾側には腎臓の頭極まで伸びることがあります。よく発達した気管支は、肺胞組織に至る小さな気道に分岐します。

鼻水が出ている

陸ガメが呼吸器の感染を起こすと、鼻からの分泌物(鼻水)、呼吸の異常、食欲や活動性の低下が見られます。ただし、鼻からの分泌物は鼻汁ではなく、嘔吐(胃からの逆流)を区別しなければなりません。胃の逆流は、消化管内異物などで起こりやすいです。緑から茶色の唾液が鼻から出てくるので、鼻汁と間違いやすいです。そして爬虫類はもともと呼吸数が少ないので、呼吸の異常は分かりにくいのも特徴です。

呼吸器感染症

呼吸器の感染症は上部気道炎と下部気道炎に分けられますが、上部気道は鼻腔を始めとする口に近い部分を挿し、下部気道は気管や肺などの奥の部分を指します。鼻炎である上部気道炎と肺炎である下部気道炎の鑑別も、見た目での判断は難しいです。カメの呼吸器も1本の気管、二股に分かれた気管支、2つの肺があります。

原因

爬虫類の呼吸器疾患には、感染性および非感染性の両方の病原体が関連していることが知られています。細菌、特にグラム陰性細菌は、急性または慢性の呼吸器疾患を患う爬虫類から一般的に分離され、健康な動物にも存在する日和見細菌であることが多いです。しかし、低温飼育やビタミンA欠乏症など免疫不全の爬虫類など、特定の条件下では、これらの細菌が過剰に増殖し、主要な病原体となることがあります。

非感染

非感染では、脱皮不全、異物、ビタミンA欠乏症〔Jacobson et al.1991〕、アンモニア臭などが鼻炎や肺炎の発生要因となります。

  • 脱皮不全
  • 異物
  • ビタミンA欠乏
  • アンモニア臭

鼻の穴の周辺の脱皮した鱗や皮膚が鼻腔を塞いだり、床材や粉塵などの異物も鼻に入りこむこともあります。ビタミンA欠乏症が起こると、鼻腔や肺の粘膜が変性して感染を起こしやすくなります。掃除を怠ると排泄物のアンモニアが呼吸器に刺激を与えます。また、横隔膜で胸部と腹部を明確に分けられていない爬虫類では、腹膜炎あるいは腹水が肺に影響をして、呼吸の異常が起こります。消化管うっ滞や便秘によって拡張した消化管が肺の動きを抑えたり、メスだと卵黄が破裂して腹膜炎を起こし(卵黄性腹膜炎)、炎症が肺にまで及ぶ事例が多いです。

感染

爬虫類の呼吸器疾患においては、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫などの感染性病原体が検出され、関連付けられています。多くの場合、二次的な細菌感染が一次性ウイルス性肺炎の診断を複雑化させます。適切な抗菌療法を行っても臨床症状が一時的にしか改善しない患者では、マイコプラズマ、ウイルス、真菌、寄生虫病因を疑う必要があり、更なる検査が必要です。

  • 細菌
  • マイコプラズマ
  • 真菌
  • ウイルス
  • 寄生虫

細菌

飼育下の爬虫類では細菌性肺炎がしばしば診断され、呼吸器疾患を呈する爬虫類から分離される細菌のほとんどはグラム陰性で、常在菌叢や環境中に存在します。一般的に分離される細菌には、シュードモナス属、クレブシエラ属、プロテウス属、エロモナス属、サルモネラ属、ブドウ球菌などです。これらは健康な爬虫類の常在菌叢の一部であるが、呼吸器疾患を呈する爬虫類の気管洗浄液からこれらの細菌が分離されることは、細菌性肺炎の兆候といえます。

イコプラズマ

カメの鼻炎と肺炎の原因は、細菌とマイコプラズマが多いです。特に陸ガメではマイコプラズマ感染症が問題となり、Mycoplasma agassizii が主な原因と言われています〔Jacobson etal.2014〕。真菌は環境中に存在しているものが多く、免疫低下した際に発症する皮膚や甲羅に感染しますが、全身性感染ならびに鼻炎・肺炎まで引き起こします〔Murray 1996〕。また、カメは長くて折れたたみこまれた気管のために、肺が閉鎖的になりやすく、真菌性肺炎になりやすい解剖学的な特徴があります。

真菌

カメは他のの爬虫類よりも真菌感染症にかかりやすいとされ、カンジダ属、アスペルギルス属、、ペニシリウム属が呼吸器疾患を患ったカメ類から分離されていますJacobson1978〕。

ウイルス

カメのヘルペスウイルス感染は、口内炎、鼻炎、気管炎、肺炎と関連しています。水ガメやウミガメを含むさまざまなカメ目がヘルペスウイルス感染と診断されている。養殖された若いアオウミガメ ( Chelonia mydas )では、肺、眼、気管の疾患が報告されています。リクガメでは地中海沿岸に生息するギリシャリクガメやヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメなどでの感染で無症状のキャリアになりやすいことが問題とされ〔Origgi et al.2004〕、通常は口内炎くらいしか起こらないです〔Marschang et al.1997,Origgi et al.2004〕。ヘルペスウイルスは他の種類のカメへも感染することが知られ、ウイルスの種類の多様化も進んでいます。分類上ではそのウイルス名が混乱しており、Chelonivirus(カメウイルス)という新たな分類名も提案されています〔Bicknese et al.2010〕。

【病気】カメのヘルペスウイル感染症の詳細な解説はコチラ

ラナウイルス(イリドウイルス)はカエルに大量死をもたらすウイルスとして有名ですが〔Anonymous2008〕、カメにも肺炎と口内炎などを起こし、全身に蔓延して死亡することもあります〔Johnson et al.2008〕。カメのウイルス性肺炎では、マイコプラズマとの重複感染によって、症状がひどくなることもあります〔Johnson et al.2008〕。

寄生虫

陸ガメでは寄生虫である核内コクシジウムが全身に蔓延し、その結果肺炎も引き起こして死亡することも少なくはないです〔Garner et al.2006,五箇ら 2009-2010〕。回虫は、特に寄生虫量が多い重症感染症において、成長ステージの中で一時的に肺を通過するため、呼吸器疾患を引き起こすこともあります。

症状

鼻汁ならびに鼻炎、結膜炎は上気道疾患の一般的な臨床徴候です。陸ガメの鼻汁は、透明だと非感染性が疑え、感染が重篤になると黄色や緑色の膿性に変化し、湿った鼻の呼吸音が「ピーピー」と聴取されきます。慢性的に感染したカメでは、鼻孔の周りの皮膚のびらんや脱色素化がよく見られます。重度および慢性になると、口を開けて呼吸する場合があります(空気を吸おうとして首と前肢の小刻みに出し入れする動作が頻繁に見られます)。水ガメでは浮力の問題が見られることがあり、肺内の片側または両側のガスポケットの蓄積のために潜水ができなくなります。いずれにせよ進行することで中耳炎が併発することもあります。

検査

X線検査

カメでは肺炎を診断する際に非常に有用な診断ツールですが〔Schumacher et al.2001〕、重症になって初めて診断できます。ラテラル像、DV像、頭尾像の3方向からの撮影が必要で、頭尾方向からの撮影では、両肺野を観察でき、間質陰影と肺胞陰影を最もよく観察できます。異常を見極めるには、肺の位置や気嚢の範囲など、正常な解剖学に精通していることが不可欠です。下のX線像はX線透過性に見える肺に、不透過性が亢進しているため肺炎が疑えます。

下のX線像では向かって左側にはX線透過性の肺があり、含気していますが、右側には含気した肺は確認しておらず、無気肺の可能性があります。

CT検査

CT検査は爬虫類の呼吸器疾患の画像を取得するのに有用で、薄い断面画像を提供し、撮影も非侵襲的です〔Gumpenberger et al.2001〕。

菌・ウイルス分離

鼻汁などから細菌は分離できます。診断用サンプルは滅菌綿棒または鼻洗浄で採取できます。採取したサンプルは適切な培養培地に移し、微生物の増殖と同定を行います。気管炎、気管支炎、肺炎などの下気道疾患が疑われる場合は、気管洗浄または肺洗浄を実施する必要がありますが、カメでは、肉質の舌があるため、声門の視認性や滅菌カテーテルの通過が困難な場合が多くあります。口腔内の微生物がサンプルに混入すると、正確なサンプルが得られないため、無菌操作に従うことが重要です。研究所などではマイコプラズマ〔Brown et al.1995〕、ヘルペスウイルス〔Origgi et al.2000,2001〕などのPCR検査が行われていますが、商業検査センターでは残念ながら行われていません。

治療

鼻汁から細菌や真菌を検査し、抗生物質や抗真菌剤を投与します。ウイルスの検査は難しく、例え診断されても特効薬はありません。

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参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。