【病気】ウサギの肝疾患(肝リピドーシス)

ウサギの肝疾患も他の動物と同様に非特異的な症状を示し、食欲低下、体重減少や削痩、便の異常などがみられます。多くの病態が原発あるいは二次的に肝臓に発生します〔Anna Meredith et al.2000〕。肝臓は沈黙の臓器と言われるように、病態がある程度進行しないと症状が顕性しないことが特徴です。なお肝炎は慢性肝炎に移行したり、黄疸は末期でないと現れません。

黄疸尿

慢性の肝不全や重篤な肝機能低下により、肝性脳症による意識障害が起こります。

肝性脳症のウサギ

検査・診断

ウサギは肝疾患の診断ならびに鑑別が、犬や猫と比べて容易ではありません。

血液検査

血液検査における肝酵素の活性はイヌやネコよりも低く、臓器特異性も高くはないです〔Rosenthal 1997,Benson et al. 1999,McLaughlin et al. 1994,Jenkins 2000〕。病態が進行するまでは診断がつかない場合も珍しくなく〔McLaughlin et al. 1994〕、血液検査での肝臓の項目が上昇している場合は、すでに進行しているはずです。

病理検査

確定診断は穿刺あるいは生検による病理組織学的検査になりますが、ウサギにとって侵襲が大きく、一般的には推奨されません。

X線検査

肝疾患の鑑別には画像検査も併用するべきです。X線検査では、肝陰影の拡大や石灰化などが確認されます。しかし、ウサギの肝陰影のVD像は、胃と重なるために正確な肝臓の大きさが評価できないこともあります。

超音波検査

超音波検査では、消化管(特に膨満な胃)を避けるように肋間や右肋弓下からプローブをあてて、肝腫や肝実質の変性、腫瘤(膿瘍や腫瘍)、嚢胞、胆泥や胆嚢壁の肥厚または腹水などを確認します。

肝臓の腫脹と腹水の超音波像

CT検査

CT検査では腫瘤はもちろんのこと、詳細に肝臓や胆嚢の形状や性状が確認できます。CT値を測定することで、脂肪肝や肝硬変が診断できます。造影撮影をすることで、肝膿瘍および肝臓腫瘍が鑑別できます。

肝臓腫瘤のCT像

腹水検査

画像診断で腹水の貯留が確認されると、穿刺によって腹水検査をすることがあります。腹水の比重や蛋白質の含有量、細胞の存在について検し、炎症があれば培養および感受性試験を行います。

肝疾患の鑑別

ウサギの肝疾患は、脂肪変性(肝リピドーシス)やグリコーゲン(糖原)変性、嚢胞(肝嚢胞)、肝炎(カリシウイルスによるウサギウイルス性出血性疾患〔Ferreira et al.2006〕、胆管炎(Eimeria stiedae(肝コクシジウム)の寄生) 、膿瘍(肝膿瘍)、腫瘍(肝臓癌、子宮腺癌の転移)、中毒などで発生します。

細菌性肝炎

Salmonella spp.〔Lyer et al.1956〕、Bacillus piliformis(ティザー病)〔Cutlip et al. 1971〕、Listeria monocytogenes〔Paterson 1940〕、Escherichia coli〔Vetesi 1970)、Mycobacterium spp.や Paratuberculosis spp.〔Arrazuria et al.2017a〕などによる細菌感染が原因になります(主に門脈からの腸内感染の拡大)。

細菌性肝炎
細菌性肝炎の病理組織像
慢性経過の肝炎

肝臓腫瘍

肝臓癌や乳腺癌や子宮腺癌の転移腫瘍、胆管腺腫や腺癌〔Weisebroyh 1978〕などがみられますが、転移腫瘍が大半になります。

子宮腺癌の肝臓転移

中毒・薬剤

アセトアミノフェン〔Rahman et al.2002〕やステロイドなどの薬剤、エタノール〔Onyesom et al.2007〕、四塩化炭素(昔の冷却剤や消火器の薬剤に含有)〔Brandão et al.2000〕、観葉植物や鉛中毒、アフラトキシンによる肝毒性も報告があります。ステロイドによる肝障害は、脂質代謝異常による脂肪肝の誘発、胆汁うっ滞などが起こります〔Tennant et al.1981〕。鉛中毒は他の動物と同様にウサギにも肝毒性を示し、症状は、食欲不振、体重減少、抑鬱以外にも神経学症状がみられ、X線検査で消化管内に金属性の異物が発見されたり、血中鉛濃度の上昇、貧血、有核赤血球または好塩基性点斑が認められると鉛中毒が疑われます。治療はキレート剤の投与になります〔Jenkins 1999,Swartout et al.1987〕。アフラトキシンとは、カビ毒(マイコトキシン)の一種で、汚染食品は、トウモロコシ、落花生、豆類、木の実類で、主に肝毒性を示します〔小西 2010〕。アフラトキシンに対する肝毒性は多くの動物種において観察されていますが、特にウサギは感受性の高いです。

ウイルス性肝炎

近年報告されているのがウイルス性肝炎です。ウサギの肝炎ウイルスはE型肝炎ウイルス(Hepatitis E virus:HEV)で、 ヘペウイルス科ヘペウイルス属に属します。ヒトの肝炎ウイルスは、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎が多いですが、E型肝炎は発展途上国の一部で流行しているにすぎません。人から検出されたウイルスは遺伝子型が異なる4つのタイプがあり、その一部はブタやイノシシなどの動物にも感染する人獣共通感染症で、感染症の4類感染症になります〔李2014〕。伝搬は糞便経口経路によって感染します。最近、ヒト以外の多種動物から遺伝子的にヒト由来HEVと類似するHEV が続々と検出され、ウサギのE型肝炎ウイルウもその1つです。罹患したウサギは無症状であることが多く、抗体保有率は高いとい言われています。ヒトからウサギE型肝炎ウイルスも報告されていますが、その発生は稀であり、伝搬や感染性は不明です〔李2014,Abravanel et al.2017b,Purcell 2008、国立感染症研究所感染症疫学センターウイルス第二部 2016〕。

肝リピドーシス

ウサギの肝疾患で最も多いのが、肝リピドーシスになります。食欲不振になると、体内の脂肪をエネルギー源として利用しようとしますが、その過程で脂肪が肝臓に蓄積し(脂肪肝)、肝障害を示すことが肝リピドーシスで、特に肥満のウサギはリスクが高いとされています。

脂肪肝

肝リピドーシスは肝炎などに進展し、ヒトでは肝硬変や肝細胞癌などの悪性疾患を引き起こす可能性が示唆されています〔 Brunt 2004,Diehl 2002〕。ウサギでは肝細胞癌の発生は少ないですが、肝リピドーシスは肝機能低下を示し、ケトアシドーシスに移行すると致死的になります。ウサギギの食欲不振を示す歯科疾患や胃腸疾患に起因することが多く、採食が停止することで盲腸でのVFA産生が減少すると、エネルギーを蓄えるために脂肪組織での中性脂肪の分解が亢進し、脂肪酸が大量に肝臓へ流入され、肝臓で中性脂肪として蓄積されます。そして、肝臓では生体燃料としてケトン体が産生されますが、酸性物質であるケトン体が過剰になり、ケトアシドーシスを生じます。ケトアシドーシスは命に関わる状態で、体重減少と活動量の低下が見られ、血液が酸性になるのを防ぐために、呼吸が速く深くなることがあります。症状が悪化すると、意識がもうろうとしたり、昏睡状態になります。ウサギは他の動物と異なり、アシドーシスを中和する効果的な代謝経路を欠くため、死亡することが多いです。

肝リピドーシスにより削痩したウサギ

栄養過多による肥満個体では、すでに肝臓に中性脂肪が蓄積されており、特にケトアシドーシスに移行しやすくなります。高脂肪食を食べ続けたウサギを絶食させると、低脂肪食を与えたウサギより2倍多くケトーシスを発症する報告があります〔Jean-Blain et al.1985〕。ウサギは草食動物で、脂質代謝能が低く、高脂肪食は肝リピドーシスの急速な進行をもたらしやすいです。また、長期の食欲低下あるいは肥満のウサギでは、ストレスが脂肪代謝に変化を与えることが知られています。肥満のウサギでは、注射や静脈穿刺などの小さなストレスでも、即座に脂肪酸の上昇を引き起こす報告があります〔Lafontan et al.1979〕。このような脂肪酸の上昇は、痩せているウサギでは発生しません。肥満のウサギはストレスにより誘導されてインスリン抵抗性が起こります。インスリン抵抗性があると、筋肉や脂肪組織の糖取り込み能が低下し、肝臓での糖新生が抑えられなくなり、血糖値が上昇します。つまり、インスリンが十分に分泌されていても、体がインスリンの作用を受けにくくなる状態を指します。これにより、血糖値が正常に下がらなくなり、高血糖状態が続く可能性があります。ウサギでは真性糖尿病は少ないとされていますが、遺伝的にインスリン抵抗性を持つウサギ(PHTウサギ)が、メタボリックシンドロームの研究に適したモデル動物であることが示されています。つまり、ウサギにとって肥満は大きな問題で、肝リピドーシスがみられると、手術はもちろんのこと、疼痛やストレス、絶食などによってケトアシドーシスが起こりやすくなり、肥満のウサギが短命になる最大な理由といえます。肝リピドーシスは発生と発症は異なり、無症状でありながら病理組織学的検査で発見されることも多いです。重篤になって初めて血液検査や画像検査などで診断されますが、これらの検査で異常がみられないことも多いので、診断が難しいのも問題となっています。高脂血症は肝リピドーシスの可能性を示唆しますが、血液検査での脂肪パネルは、ウサギは食糞を行うために絶食での採血は容易ではなく、正確な測定値でなくなります。そして、ケトアシドーシスになると尿検査で尿pHの酸性化やケトンが検出されることがあります。X線像では肝陰影の拡大が認められ、肝臓実質の脂肪化を超音波検査で評価できますが、明確ではありません。なおCT検査では、脂肪肝になると肝臓CT値が正常よりも低くなることで診断ができます〔Kawata et al.1984〕。

脂肪肝のCT像

最終的に病理組織学的検査で、肝細胞に脂肪滴が沈着している組織像で診断されます。

脂肪肝の病理組織像

なお、脂肪に置換した肝臓は裂けやすいため、穿刺や生検には十分に注意しなければなりません。

肝葉捻転

ウサギは肝葉捻転の報告も多く〔Graham et al.2014, Wenger et al.2009〕、肝葉裂が深い特徴もあり、うっ滞や毛球症などでの胃の圧迫が発生に関与していると推測されます。急性の肝捻転が起こると、腹痛や腹水がみられ急性腹症が見られます。慢性的な肝捻転では、他の開腹手術やCT検査において、一部の肝葉が壊死しているのが偶発的に発見されることがあります。

肝葉捻転
肝葉捻転のCT像

胆石

 ペットのウサギでは胆石の発生はまれですが、胆泥はしばしば認められます。しかし、実験動物において高脂肪の餌をウサギに与え、胆石が形成され〔Hofmann et al.1968, Lee et al.1987〕、胆嚢炎も起こることが知られています〔Lee et al.1979〕。

               

参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。