【生理】カメレオンの寿命が短い理由

カメレオンが他の爬虫類と比較して短命である理由は、彼らの高回転なライフスタイルと特殊な進化的戦略にあります。​

はじめに

野生下での寿命が著しく短いのは、捕食圧、資源の季節的変動、および過酷な気候条件が原因です 。一方で、飼育下において寿命が延びる傾向にあることは、適切な環境管理によって一部の死因を回避できることを示唆していますが、それでもなお他のトカゲ類(例えば20年以上生きるアゴヒゲトカゲなど)に比べれば短命である事実は揺るがないです。 たとえ飼育下でも、カメレオンが短命である理由には、繁殖を最優先にした生活史ならびに高代謝素因、遺伝的素因なども考えられています。

繁殖優先

​カメレオンの多くは、不安定な環境において急速に個体数を増やすことに特化しました。特にマダガスカルのように雨季と乾季が極端に分かれた環境では、成体が過酷な乾季を生き延びる確率は極めて低いです。このような環境下では、エネルギーを自己の維持(長寿のための修復)に割くよりも、雨季の間に急速に成長し、全エネルギーを一度の繁殖に注ぎ込む戦略が進化的に有利となります〔Karsten et al.2008〕。カメレオンの場合、高い捕食率や環境の不安定さにより、長期的な生存が期待できないため、早期成熟と高い繁殖力と引き換えに、身体の修復能力(老化耐性)を放棄したと考えられます。その結果、​多くのカメレオン、特にエボシカメレオンやパンサーカメレオンなどは、厳しい環境下で生き残るために早く成長し、早く増えるという生存戦略をとっています。生後半年〜1年足らずで繁殖可能になり、​1回に数十個の卵を産み、エネルギーを繁殖に全振りします。​繁殖に膨大な代謝エネルギーを割くため、個体としての維持(長寿)が犠牲になります〔Divers et al.2018,Suvorov 2022〕。​繁殖に関わるために、メスはオスと比較して寿命が短い傾向にあります。これは、一度の産卵にかかるエネルギー負担が異常に大きいためです。

一回繁殖性のラボートカメレオン

​カメレオンの短命性の極致として挙げられるのがラボードカメレオンです。この種は四肢動物の中で最も短い寿命を持ち、その一生の大部分を卵として過ごします。 ​乾季の間、次世代は地中の卵の中で胚休眠の状態で生存します(卵期:8〜9ヵ月)。11月の雨季の始まりとともに一斉に孵化し、驚異的な速度で成長します​(2ヵ月)。オスは1日あたり体重が 4.1%、全長が 1.86%増加します。1月までに性成熟に達し、交尾と産卵を行った後、2~3月にかけて個体群全体が急激に衰弱し、死滅します(2〜3ヵ月)。 ​このセメルパリティ(Semelparity:一回繁殖性)に近い戦略は、過酷な環境に対する究極の適応ですが、同時に繁殖後の身体には一切の余力が残されていないことを意味しています〔Karsten et al.2008〕。

​高代謝

極めて高い代謝率​カメレオンは、変温動物でありながら非常に活発な代謝機構を持っています。​獲物を捕らえるための超高速な舌の動きや、複雑な眼球運動、体色変化は多くのエネルギーを消費します。高い代謝は体内で活性酸素(酸化ストレス)を生み出しやすく、細胞の老化を早める一因となります〔Divers et al.2018〕。

代謝理論によれば、小型で成長速度が速い生物ほど代謝率が高く、その副産物として生成される活性酸素種による酸化ストレスが蓄積しやすいです。カメレオン、特に活発に日光浴を行い代謝を最大化させる種では、高エネルギー代謝の結果として生じるDNAやタンパク質の損傷が修復能力を上回り、早期の臓器不全を引き起こす要因となっています〔Suvorov 2022〕。

細胞老化とテロメア

テロメアとは真核生物の染色体の末端にある構造で、遺伝子情報を保つDNAを保護する役割を担っています。細胞が分裂するたびに短くなり、細胞の寿命や老化に関与していると考えられています。短命なカメレオンの体内でおいて、​急速な成長の裏で​テロメアは細胞分裂のたびに短縮し、一定の限界に達すると細胞は分裂を停止して老化に至る可能性が示唆されました 。​研究によれば、寿命の長い近縁種 (Furcifer cf. nicosiai) は成長速度が緩やかであり、テロメアの短縮も抑制されているのに対し、ラボードカメレオンは初期成長段階でテロメアを使い果たすような動態を示しています。この細胞分裂のコストが、繁殖後の急激な全身的な老化症状の基盤となっていると考えられています〔Eckhardt et al.020〕。

環境変化への脆弱性

​飼育下での死因と短命性の要因​野生下の過酷な環境を除外してもなおカメレオンが短命である理由には、その特異な生理機能に起因する疾患の多さが関わっています。まず、カメレオンは非常に特殊化した動物で、環境のわずかな変化が致命的なストレスになります。​メスの卵つまりなどもストレスが大きな要因です。​​また、水分摂取を動く水からしか行わないカメレオンは、慢性的な脱水に陥りやすい傾向があります。これにより腎不全(痛風)が早期に進行することが多いです。​温度・湿度・紫外線の要求値がシビアで、飼育下では微細な設定ミスが代謝性骨疾患や内臓疾患を誘発します。​これらの疾患に、環境ストレスが拍車をかける形で現れます。​

参考文献

  • Divers SJ,Stahl SJ.Mader’s Reptile and Amphibian Medicine and Surgery.3rd ed.Elsevier.2018
  • Eckhardt F et al.Stress-related changes in leukocyte profiles and telomere shortening in the shortest-lived tetrapod, Furcifer labordi.BMC Evol Biol1;20:160.2020
  • Karsten KB,Andriamandimbiarisoa LN,Fox SF,Raxworthy CJ.A unique life history among tetrapods: An annual chameleon living mostly as an egg.Proc Natl Acad Sci USA105(26):8980–8984.2008 
  • Suvorov A.Modalities of aging in organisms with different strategies of resource allocation. Ageing Res Rev82:101770.2022

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。