【生物史】カメレオンの多様性

地理的分断

カメレオン科(Chamaeleonidae)は、その極めて特異な形態学的、生理学的適応により、有鱗目の中でも独特の進化を遂げたグループです。分子系統解析に基づく近年の研究では、カメレオン科の起源がアフリカ大陸にあることが強く支持されており、その歴史はゴンドワナ大陸の分裂後、古新世から始まっています 。かつてはマダガスカル起源説が有力でしたが、核およびミトコンドリアDNAを用いた大規模な系統樹構築により、アフリカ大陸からマダガスカル、さらには欧州、アジアへと海洋分散を通じて拡大したモデルが確立されました 。カメレオンが地域ごとに著しい多様性(種分化)を見せる最大の理由は、地域分断(地理的隔離)にあります。特にマダガスカル島のような限られた環境下では著しい種分化が遂げられました。

島の地理的隔離​

カメレオンは樹上生活に特化しており、開けた地面や川を渡って長距離を移動するのが苦手なため、カメレオンの約半数が生息するマダガスカル島は、巨大な進化の実験室と呼ばれています。​

​大陸での地理的隔離

アフリカ大陸においても、山脈、河川、乾燥地帯などが壁となり、集団が小さなエリアに閉じ込められます。分断された集団は、その地域の特定の微気候や植生に合わせて独自に進化(適応放散)し、数百万年かけて別個の種へと分かれます。平面的な距離だけでなく、標高による分断も重要です。​高山の頂上付近は、周囲の低地とは全く異なる気候(低温・多湿)になります。低地に降りられない高山種は、山ごとに孤島に取り残された状態になり、山頂ごとに異なる種が誕生します。低温の標高に適応した種は、体色変化の反応速度や代謝効率が低地の種とは異なる進化を遂げます。

アフリカ大陸における隔離

アフリカにおけるカメレオンの多様化を牽引した主要な進化的要因は、中新世から漸新世にかけての汎アフリカ森林の収縮と断片化、およびそれに伴うサバンナ、草地、ヒースランドといった開放的な環境の拡大です 。この大規模な植生変遷は、森林に依存する種群を島状の山岳森林や孤立した緑地に閉じ込める生息地の隔離を引き起こしました 。特に東アフリカの東部弧状山地や南アフリカのケープ地方における種分化は、更新世の気候変動による森林の拡大と後退が繰り返された結果、極めて複雑な系統と、それぞれの環境に特化した生理的特性を形成するに至りました 〔Giles et al.2022〕。

人による隔離

生息地の分断化は、かつて連続していた広大な生息環境が、都市化、農業拡大、森林伐採などの人間活動によって、より小さく、孤立したパッチ(断片)へと変化するプロセスを指します 。このプロセスは、カメレオンのような移動能力が比較的低く、特定の植生構造に高度に専門化した樹上性爬虫類にとって、極めて深刻な生存の脅威となります。

カメレオンの分散能力

カメレオンの分散能力は、その形態や種特有の行動特性に強く依存しています。ケープドワーフカメレオン(Bradypodion pumilum)の研究では、植生のない開けた空間が個体群を隔離する障壁として機能することが示されています。しかし、適切な植生の回廊が存在する場合、彼らは領土的な制約を強く受けずに移動することが可能であり、分断化の悪影響を緩和できる可能性があります〔Tolley et al.2010〕 。一方で、東部弧状山地に生息するフタヅノカメレオン属(Kinyongia boehmeiなど)のように、森林環境に厳格に依存し、サバンナのような開放地を通過できない種においては、山頂間の数㎞の距離が致命的な遺伝的隔離をもたらします。タイタ・ヒルズにおける研究によれば、わずか4kmしか離れていない山塊の間でも、更新世中期の乾燥化に伴う森林の断絶により、個体群が完全に分断され、独自の系統へと進化していることが確認されています〔Measey et al.2011〕。

都市化とマトリックスの質

分断されたパッチを取り囲むマトリックス(非生息地)の性質は、分断化の深刻度を決定づけています。マトリックスが完全に劣化している(例:舗装道路や広大な単一作物農場)場合、個体群間の遺伝子流動は停止し、近親交配や遺伝的浮動が加速します。また、森林の縁では、光度、風速、湿度が内部とは異なり、微気候が変化します。これは外温動物であるカメレオンの体温調節行動や、産卵に適した地面の湿度条件に直接的な影響を与えます。

【解剖・生理】カメレオンの解剖学的および生理学的特徴の解説はコチラ

参考文献

  • Giles SAW et al.Diversification dynamics of chameleons (Chamaeleonidae)WileyJournal of Zoology.2022
  • Measey GJ et al. Sequential Fragmentation of Pleistocene Forests in an East Africa Biodiversity Hotspot: Chameleons as a Model to Track Forest History.PLoS One6(10). 2011
  • Tolley K et al.Chameleons on the Move: Survival and Movement of the Cape Dwarf Chameleon, Bradypodion pumilum , within a Fragmented Urban Habitat.African Zoology 45(1):99-106.2010

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。