はじめに
ウサギの腸炎複合体(Enteritis Complex: EC)の主要な構成因子であるロタウイルスとアストロウイルスについて、そのウイルス学的特性、疫学、病態生理、診断、および管理戦略を詳細に解説します。
ロタウイルス(Rotavirus)
ロタウイルスは、セドレオウイルス科(Sedoreoviridae、旧レオウイルス科)ロタウイルス属に分類される、非エンベロープ型の 11 分節 2 本鎖RNAウイルスです。成熟した感染性ウイルス粒子は、直径約70~100nm の正二十面体構造を持ち、電子顕微鏡下で車輪のような形態を呈することからその名が付けられました。ゲノムの全長は約 18,500 塩基対であり、11 個の分節がそれぞれ特定のタンパク質をコードしています。これらのタンパク質は、6つの構造タンパク質(VP1-VP4, VP6, VP7)と 6つの非構造タンパク質(NSP1-NSP6)に分けられます。ロタウイルスは VP6 の抗原性に基づき A 群から J 群に分類されますが、ウサギにおいて最も臨床的に重要なのはA群ロタウイルスです〔LeClair et al.2025〕。
人にも感染するロタウイルス
ウサギロタウイルス(Lapine Rotavirus: LRV)の分類は、VP7(G型)とVP4(P型)に基づく二重分類システムが用いられています。長らくウサギではG3型が優勢であると考えられてきました。近年の全ゲノム解析により、ウサギ特有の遺伝子 constellation として G3-PおよびG3-Pが一般的であることが確認されています。しかし、韓国での研究(Rab1404 株)では、VP1-VP3 および VP7遺伝子がコウモリ由来株(LZHP2)に、NSP1-NSP4 遺伝子がシマウマ由来株(RRV)に類似している一方で、VP4, VP6, NSP5 遺伝子は従来のウサギ株に類似しているという、複雑な再集合の歴史が示唆されています。また、ウサギにおいて本来ヒトの遺伝子型である P を持つ G3P 株が検出される事例もあり、これは種を越えた伝播が自然界で発生している有力な証拠と見なされています。ウサギが汚染された食物や水を介してウイルス粒子に接触した、おそらく不適切な管理や衛生措置を伴う、種間伝播の事象に関連していると提案されています。ここで示された知見は、ヒトロタウイルス株間またはヒトとウサギの株間の遺伝子再集合の結果である可能性も考慮する必要があり、今後の研究が提案されます〔Reynoso-Utrera et al.2024〕。
疫学と伝播
ウサギロタウイルスは、世界中の商業的ウサギ飼育施設、実験動物施設、および野生個体群に広く蔓延しています。主な経路は糞口感染で、ウイルスは糞便中に大量に排出され、汚染された水や餌、ケージ、飼育者の手や衣服を介して急速に拡大します。離乳期前後(生後4~7週齢)の仔ウサギが最も高い感受性を示します。これは、母乳(Milk oil)に含まれる抗微生物性脂肪酸(オクタン酸やデカン酸)による保護効果が減退し、かつ受動免疫が低下する時期と一致します〔Huynh et al.2013〕。温帯地域では秋から冬にかけて発生率が高まる傾向にありますが、熱帯地域や管理された施設内では通年発生します。非エンベロープ型ウイルスであるため、環境中での安定性が非常に高く、適切な消毒が行われない環境では数週間から数ヵ月月にわたり感染性を維持します〔Pawłuszkiewicz et al.2025〕。
病態生理学
ロタウイルスによる下痢は単一の機序ではなく、複数の病理学的プロセスが組み合わさって発生します〔Pawłuszkiewicz et al.2025〕 。ロタウイルスは、小腸の絨毛先端部に存在する分化した成熟腸上皮細胞に選択的に感染します。ウイルスの複製により上皮細胞が破壊・脱落し、絨毛の萎縮と融合が生じ、微絨毛に存在する二糖類分解酵素(ラクターゼ等)が喪失し、栄養素の吸収面積が激減することで浸透圧性下痢が誘発されます。非構造タンパク質 NSP4 は、ウイルス由来のエンテロトキシンとして機能します。NSP4 は腸上皮細胞の小胞体からカルシウムイオンの放出を促進し、細胞内カルシウム濃度を上昇させます。これが塩化物イオンの分泌チャネルを活性化させ、管腔内への水分の異常な流出(分泌性下痢)を招きます。ロタウイルス感染は、腸管内の腸クロム親和性細胞を刺激し、セロトニン(5-HT)の放出を促します。放出されたセロトニンは迷走神経の下部を活性化し、脳幹の嘔吐中枢を刺激すると同時に、腸管運動を亢進させます。かつてロタウイルスは腸管局所のみの感染と考えられていましたたが、近年では血液中への抗原流出や、まれに中枢神経系への影響を示唆する知見も得られ、ウサギにおいても、重症例では全身状態の急激な悪化が起こります〔LeClair et al.2025〕。
アストロウイルス(Astrovirus)
アストロウイルスは、アストロウイルス科(Astroviridae)に属する、直径28~35nmの小形、非エンベロープ型、単鎖正鎖 RNAウイルスです。電子顕微鏡下で5本または6本の突起を持つ星型の形態を呈するのが特徴ですが、この星型構造が観察されるのはウイルス粒子の10~50%程度です。ママストロウイルス属(Mamastrovirus)に分類されるウサギアストロウイルスは、イタリアやカナダの研究で特定されており、他の哺乳類アストロウイルスと比較して遺伝的に独自性が高いことが示されています〔Martella et al.2011〕。
疫学と特異性
ウサギのアストロウイルス感染に関する情報は、ロタウイルスと比較すると限定的ですが、腸炎複合体における重要な役割が認識されつつあります。イタリアでの調査によれば、腸炎症状を示すウサギの 43%(10/23サンプル)からアストロウイルスが検出された一方で、無症状のウサギからも 18%(25/139サンプル)の割合で検出されています。これは、本ウイルスが亜臨床的な感染として環境中に定着していることを示唆しています〔Martella et al.2011〕。近年、アストロウイルスは単なる腸炎の病原体としてだけでなく、牛、豚、羊、そしてヒトにおいて致命的な脳炎や神経症状を引き起こす原因物質としても注目されています。種特異性が高いとされていますが、組換えや種を越えた伝播の可能性も指摘されており、野生動物やネズミなどがウイルスを媒介しているリスクがあります〔Mischenko et al.2024,Benedictis et al.2011〕。
病態生理
アストロウイルスは腸上皮細胞の密着結合に影響を与え、細胞間の透過性を亢進させることが知られています。これにより、水分の制御不能な移動が生じ、下痢が引き起こされます。 感染したウサギの組織では、絨毛の短縮、肥厚、粘膜固有層の毛細血管拡張、および出血斑が認められることがあります。アストロウイルス単独での病原性は比較的低いとされることが多いが、ロタウイルス、コロナウイルス、あるいは大腸菌等との混合感染により、死亡率が劇的に上昇します。
臨床症状
ウサギのロタウイルスおよびアストロウイルス感染症の臨床症状は、非常に類似しており、身体検査のみでこれらを区別することは不可能です。消化器症状として水様~軟便の下痢(ロタウイルスでより典型的)、粘液の排出、腹部膨満などが見られます。食欲不振、重度の脱水、嗜眠、被毛の粗造、沈鬱、体重減少が起こります。軽症から急死まで多様で、二次感染がある場合、24~48時間以内に死亡することが多いです。

検査・診断
確定診断には、ウイルスのELISAなどの直接検出またはPCRなどの遺伝子検出が必要です。現在、日本では商業的な検査センターではできません。そのため、症状や病理組織学(空腸および回腸における絨毛の萎縮、癒合、および上皮細胞の空胞化。粘膜固有層へのリンパ球や好中球の浸潤 )で暫定的診断するしかありません。
予防
非エンベロープ型ウイルスは物理化学的に極めて強固であり、不完全な清掃・消毒は持続的な感染源となります。ロタウイルスやアストロウイルスを確実に不活化できる薬剤は限られており、次亜塩素酸ナトリウム、ペルオキシ一硫酸カリウムなどが有効です。
参考文献
- Benedictis PD et al.Astrovirus infections in humans and animals–Molecular biology, genetic diversity, and interspecies transmissions.Infect Genet Evol11(7):1529-1544.2011
- Huynh M,Pignon C.Gastrointestinal Disease in Exotic Small Mammals.J Exot Pet Med22(2):118-131.2013
- Martella V et al.Astroviruses in Rabbits.Emerging Infectious Diseases • www.cdc.gov/eid17(12).2011
- Pawłuszkiewicz K et al.Rotavirus Infections: Pathophysiology, Symptoms,and Vaccination.Pathogens14(5):480.2025
- LeClair CE,McConnell KA.Rotavirus.Treasure Island (FL):StatPearls Publishing.2025
- Reynoso-Utrera E et al.New Genotype G3 P[8] of Rotavirus Identified in a Mexican Gastroenteric Rabbit.Viruses16(11):1729.2024
- Mischenko VA.,Mischenko AV,Nikeshina ТB,Petrova ОN.Astrovirus infection in animals (literature review). Veterinary Science Today13(4):322-329.2024
