【治療】ウサギの肝疾患に対する薬物療法

肝臓生理学と臨床的課題

ウサギはコンパニオンアニマルとして広く飼育されている一方で、その特異な生理学的特性により、犬や猫とは異なる獣医学的アプローチが必要とされる動物種です。特に肝臓は、代謝、解毒、免疫機能の中心的な役割を果たす臓器ですが、ウサギにおいてはストレスや食欲不振に対する脆弱性が極めて高く、短期間の絶食が致死的な肝リピドーシを引き起こすリスクを有しています。また、実験動物としての長い歴史から、渡辺遺伝性高脂血症(WHHL)ウサギに代表されるように、脂質代謝異常や動脈硬化症のモデル動物として豊富な薬理学的データが蓄積されている一方で、これらの知見が実際の臨床現場におけるペットのウサギの治療に十分に還元されていない現状もあります。

脂質代謝の特異性

ウサギの脂質代謝は、草食動物としての適応と、急速なエネルギー動員の必要性のバランスの上に成り立っています。特筆すべきは、脂肪組織からの遊離脂肪酸(NEFA)の動員が、カテコールアミンやコルチゾールなどのストレスホルモン、およびインスリン濃度の低下に対して極めて敏感である点です。消化管うっ滞や不正咬合、疼痛などにより摂食が停止すると、血糖値を維持するために脂肪分解が亢進し、大量のNEFAが肝臓へ流入します。他の動物種と比較して、ウサギの肝臓はトリグリセリドを極低密度リポタンパク質(VLDL)として血中に再分泌する能力(VLDL分泌能)が相対的に低く、これが肝細胞内への急速な脂質蓄積、すなわち脂肪肝の主因となります。したがって、薬物療法の戦略は、単なる肝細胞の保護にとどまらず、脂質代謝のフロー(流入、燃焼、排出)を正常化することに向けられなければなりません。

【病気】ウサギの肝リピドーシスの解説はコチラ

肝庇護薬および抗酸化療法

肝疾患の治療において、損傷した肝細胞の修復を促し、さらなる酸化障害を防ぐための支持療法は不可欠です。ウサギの臨床において最も頻繁に使用され、かつエビデンスが蓄積されつつあるのがシリマリン(Silymarin)とS-アデノシルメチオニン(SAMe)です。

シリマリン

シリマリンはキク科植物オオアザミの種子から抽出されるフラボノリグナン類の混合物で、主成分としてシリビニン、シリクリスチン、シリジアニンを含んでいます。これらは古くから肝疾患の治療に用いられてきましたが、近年ウサギにおける具体的な薬効評価が進んでいます。シリマリンの肝庇護作用の中核をなすのは、その強力な抗酸化能です。肝リピドーシスや中毒性肝障害の病態では、過剰な脂質過酸化や毒性代謝産物により活性酸素種が発生し、肝細胞膜やオルガネラを損傷します。シリマリンは脂質過酸化の連鎖反応を遮断する作用があります。細胞内の抗酸化物質である還元型グルタチオンの枯渇を防ぎ、酸化ストレスに対する肝細胞の防御能を維持します。ウサギを用いた実験では、シリマリン投与群において肝臓内の還元型グルタチオン濃度が有意に高く維持されることが確認されました〔Ghonaim et al.2022〕。​シリマリンは肝細胞膜の受容体に結合、あるいは膜構造自体に作用することで、細胞膜の透過性を調節します。これにより、循環血液中の毒素(例:アマニタ毒素、四塩化炭素など)が肝細胞内へ侵入することを物理的・化学的に阻止する作用もあります 。この膜安定化作用は、肝細胞が壊死に至る前の予防的な保護効果として特に重要です。さらにシリマリンの特筆すべき作用の一つに、肝細胞の再生促進があります。シリマリンは核内のRNAポリメラーゼA活性を刺激し、リボソームRNAの合成を増加させます 。これにより、細胞質の構造タンパク質や酵素タンパク質の合成が促進され、損傷した肝組織の修復と再生が加速されます。興味深いことに、この作用は損傷した肝細胞や切除後の肝臓においてのみ発現し、悪性腫瘍細胞の増殖を促進することはないとされるています。慢性肝炎から肝硬変への移行プロセスにおいて、肝星細胞の活性化によるコラーゲン沈着が中心的な役割を果たしています。シリマリンはクッパー細胞の活性化を抑制し、炎症性サイトカインやロイコトリエンの産生を阻害することで、肝臓の炎症反応も鎮静化します 。また、トランスフォーミング増殖因子-βなどの線維化シグナルを抑制する可能性も示唆されています。

ウサギにおけるエビデンス

ウサギにおけるシリマリンの具体的な効果を実証した研究として、抗コクシジウム薬であるサリノマイシンの過剰投与による肝毒性モデルを用いた試験があります。サリノマイシンは治療域が狭く、過剰投与により酸化ストレスを介した肝障害や筋障害を引き起こすことが知られています。ウサギにサリノマイシンを投与し、同時にシリマリンを低用量(6.5 mg/kg)または高用量(13mg/kg)で経口投与しました。サリノマイシン単独投与群ではAST、ALTが著しく上昇しましたが、シリマリン併用群(特に13mg/kg投与群)ではこれらの上昇が有意に抑制され、対照群に近いレベルに維持されました。脂質過酸化の指標であるマロンジアルデヒドの上昇が抑制され、抗酸化酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、およびグルタチオンの活性低下が防がれました。病理組織学的検査において、シリマリン投与群では肝細胞の変性や壊死が軽減されていました。この研究は、ウサギにおいてシリマリンが6.5~13mg/kgの用量で、酸化ストレス起因性の肝障害に対して明確な保護効果を持つことを示唆しています〔Ghonaim et al.2022〕。

Carpenter’s Exotic Animal Formularyやその他の臨床指針においても、ウサギの肝疾患に対するシリマリンの使用が支持され,4~15 mg/kg BID~TID POと記載されています〔Carpenter 2016〕。シリマリン単剤のほか、シリビニンとホスファチジルコリンを結合させてバイオアベイラビリティを高めた製剤やSAMeとの合剤(製品名:Denamarin, Marinなど)が利用可能です。シリマリンは消化管からの吸収率があまり高くないため、生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)を高めた製剤(ホスファチジルコリンとの複合体など、例:Siliphos®技術を用いた製品)が獣医領域では好まれる傾向にあります。基本的に食事の有無にかかわらず投与可能ですが、空腹時投与で嘔吐などの消化器症状が見られる場合は、少量の食事と共に投与することが推奨されています。効果の発現には数週間を要する場合があり、即効性を期待する救急薬としてではなく、中期~長期的な維持療法・保護療法として位置づけるべきです。

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​シリマリンは毒性が極めて低い物質として知られています。ウサギにおける半数致死量(LD50)は約300mg/kg以上と推定されており、治療域(4~15mg/kg)と比較して十分な安全域が確保されています。また、催奇形性も報告されていません。副作用は稀ですが、高用量投与時に軟便や下痢などの軽度の消化器症状が現れる可能性があります〔Radko et al.2007〕。

S-アデノシルメチオニン (SAMe)

S-アデノシルメチオニン(SAMe)は、メチオニンとATPから合成される内因性の生理活性物質で、肝臓の代謝恒常性維持において中心的な役割を果たします。肝機能が低下するとSAMe合成酵素(メチオニンアデノシルトランスフェラーゼ)の活性が阻害され、SAMe欠乏に陥りやすいため、外部からの補充が治療的に意義を持ちます。SAMeは以下の3つの代謝経路を通じて肝機能を支えます。SAMeは主要なメチル基供与体で、ホスファチジルコリンの合成に関与します。ホスファチジルコリンは細胞膜の主要構成成分であり、肝細胞膜の流動性を維持し、胆汁の分泌機能を正常に保つために不可欠です。膜の流動性低下は胆汁うっ滞を悪化させるため、SAMeによる膜環境の改善は重要です。SAMeはシステインの前駆体となり、最終的にグルタチオンの合成基質となります。前述の通り、グルタチオンは肝臓の解毒機能と抗酸化防御の要で、肝リピドーシスや薬物中毒時には急速に消費されます。SAMeの投与は、肝内グルタチオン濃度を回復させる最も効率的な手段の一つと考えられています。そして、ポリアミン(スペルミン、スペルミジン)の合成に関与します。ポリアミンはDNA合成、細胞増殖、組織再生に必須の因子であり、障害された肝組織の再生を促進します。

ウサギにおけるエビデンス

ウサギに多発する肝リピドーシスにおいて脂肪酸の過剰流入とVLDL分泌不全が生じるため、SAMeによるホスファチジルコリン合成の促進がVLDLの形成と分泌を助け、肝臓からの脂質排出を促進する可能性があります。また、脂質過酸化に対する抗酸化防御として機能します 。​さらに、薬物や環境毒素による肝障害に対し、解毒機構(抱合反応および抗酸化反応)をサポートします。​高齢の犬猫においてSAMeが認知機能低下の改善に寄与することが示されていますが、ウサギにおいても高齢個体の脳機能サポートとして応用されるケースがあります 。ウサギの肝疾患、特に肝リピドーシスや肝毒性物質(真菌毒素など)への曝露が疑われる場合、SAMeはシリマリンと併用されることが多い。明確なウサギ専用の用量設定に関する大規模試験は少ないですが、犬猫の用量(20 mg/kg/日)や、一部の文献で示唆される用量が適用されています。例えば、ラットを用いた実験では、チオアセトアミドによる肝障害に対しSAMeが保護的に働いた報告があり、これを外挿して使用されます。Carpenter’s Exotic Animal Formularyでは犬猫のデータや一部の実験動物データを参考に、サプリメントとしての使用が記載されています。

SAMeは吸湿性が高く不安定な物質で、また胃酸の影響を受けやすいため、腸溶性コーティングされた錠剤を空腹時に投与することが吸収率を高めるために推奨されています。ウサギにおいては、錠剤をそのまま投与するのが難しい場合がありますが、粉砕すると効果が減弱する可能性があるため、投与方法には工夫が必要になります(少量の水で流し込むなど)。

グルタチオン

グルタチオンは細胞内レドックス(酸化還元)バランスの維持に不可欠なトリペプチドです。ウサギの精液保存液にグルタチオンを添加した研究では、酸化ストレスによる精子の運動性低下や膜損傷が有意に抑制されました 。これは、ウサギの細胞膜に対するGSHの直接的な保護効果を示唆しています。また、肺の酸化障害モデルにおいて、グルタチオンの前駆体投与ではなく、酸化型グルタチオンの投与であっても、血漿中GSHレベルを回復させ、組織保護効果を示した報告があります〔Ahmad et al.2021〕 。 ​アフラトキシンB1中毒のウサギに対し、GSH前駆体であるシステインを投与することで、肝壊死を防ぎ生存率が100%に改善した(対照群は50%)という劇的なデータが存在します。急性の中毒性肝障害や重度の肝不全において、還元型グルタチオン製剤の静脈内投与やN-アセチルシステインの投与が検討されています。

タウリン

​タウリンは含硫アミノ酸の一種であり、胆汁酸の抱合(タウリン抱合)、抗酸化、細胞内カルシウム濃度の調節などに関与します。​虚血再灌流障害: ウサギの肝虚血再灌流モデルにおいて、タウリンの静脈内投与は、血清ALT/ASTの上昇を抑制し、肝組織中の過酸化脂質を減少させ、組織学的損傷を軽減しました 。これは手術時やショック時の一過性肝虚血からの回復にタウリンが有用であることを示唆します〔Tong et al.2006〕。 高脂肪食を与えられたウサギにおいて、タウリン投与は高ホモシステイン血症を改善し、冠動脈硬化の進行を抑制する効果が示されていまする。肝リピドーシスなどの脂質代謝異常を伴う病態において、肝臓の負担を軽減する可能性があります。猫のように必須栄養素ではありませんが、肝機能低下時には体内合成能が不足する可能性があるため、サプリメントとしての経口投与(500 mg/head/日)は安全かつ有益と考えられています 。

コルヒチン

​慢性肝疾患の終末像である肝線維化・肝硬変に対する治療は困難ですが、一部の薬剤に抗線維化作用が期待されています。​コルヒチンは微小管の重合を阻害し、コラーゲン分解酵素活性を高めるとされています。日本住血吸虫感染によるウサギ肝線維化モデルにおいて、コルヒチン(40 µg/kg/日)を7週間投与した結果、肝線維化の改善が認められた報告があります〔Jiang et al.1990〕 。犬の肝線維化やアミロイドーシスの治療に使用されていますが、副作用(消化器毒性、骨髄抑制)のリスクがあるため、ウサギでの臨床使用は実験的な段階に留まります。

ビタミンE

脂溶性ビタミンであり、細胞膜の脂質過酸化を防ぐ。SAMeやシリマリンと併用されることが多いです(製品名:Marinなど)。ただし、ビタミンKの吸収を阻害する可能性があるため、凝固障害がある場合は過剰投与に注意が必要です。

ウルソデオキシコール酸

ウサギにおける論争と禁忌​ウルソデオキシコール酸は、犬や猫の胆泥症、胆管肝炎、慢性肝疾患において広く使用される親水性胆汁酸ですが、ウサギへの使用に関しては、その生理学的特性ゆえに重大な禁忌あるいは極めて慎重な使用が求められる薬剤です。​ウルソデオキシコール酸は、胆汁分泌を促進(利胆作用)し、疎水性の高い毒性胆汁酸を置換することで肝細胞膜を保護します。また、免疫調節作用や抗アポトーシス作用も有しており、胆汁うっ滞性疾患において優れた治療効果を発揮します 。

​ウサギにおけるエビデンス

ウサギは「後腸発酵動物」であり、盲腸内に膨大な数の微生物を保有しています。経口投与されたウルソデオキシコール酸の多くは小腸で吸収されますが、吸収されずに盲腸に達した分画は、腸内細菌による脱水酸化反応(7α-dehydroxylation)を受けます。この反応により、リトコール酸へと変換されます 。リトコール酸は極めて疎水性が高く、強力な肝毒性を持つ二次胆汁酸であり、​肝細胞壊死および胆管上皮の損傷​発熱、関節痛などの全身性炎症反応(吸収された場合)​のような病理を引き起こすリスクがあります〔Schmassmann et al.1900〕。このため、多くの添付文書や薬剤モノグラフでは、ウサギ、モルモット、その他のげっ歯類には投与してはならないと明記されています〔Ursodiol.Plumbs drug〕 。

​一方で、全てのウルソデオキシコール酸の投与が直ちに毒性を示すわけではないとする研究もあります。1990年の研究 では、ウルソデオキシコール酸のアミノ酸抱合体(ウルソデオキシコリル-サルコシンやN-メチルタウリン抱合体)は、ウサギの腸管内で細菌による脱抱合や脱水酸化を受けにくく、リトコール酸の生成が抑制されることが示されました。これは、特定の化学修飾を受けたウルソデオキシコール酸であれば安全に使用できる可能性を示唆していますが、一般の動物病院で入手可能な製剤がこの条件を満たすとは限らさりません〔Schmassmann et al.1900〕。

現在の獣医学的コンセンサスとしては、ウサギへのルーチンな使用は推奨されません。特に、胆管閉塞(結石や腫瘍による完全閉塞)が疑われる場合は、利胆作用が胆管内圧を上昇させ、胆管破裂を招く恐れがあるため絶対禁忌です 。胆管肝炎などでどうしても使用を検討する場合は、シリマリンなどの安全な代替薬を優先し、使用する場合でも肝機能と全身状態を厳密にモニタリングする必要があります。

​ラクツロース

​​重度の肝不全(劇症肝炎、末期の肝リピドーシスなど)や先天的な脈管異常(門脈体循環シャント:PSS)が存在する場合、肝臓でのアンモニア解毒能(尿素サイクル)が低下し、高アンモニア血症による肝性脳症を発症するリスクがあります。臨床徴候としては、抑鬱、旋回運動、痙攣、昏睡などが挙げられます。​​ラクツロースは合成二糖類(ガラクトース+フルクトース)であり、哺乳類の小腸酵素では消化吸収されません。経口投与後、未消化のまま大腸(盲腸)に到達し、以下の機序で血中アンモニア濃度を低下させる作用があります。​盲腸内の細菌がラクツロースを分解し、乳酸、酢酸、ギ酸などの有機酸を産生し、これにより腸内pHが酸性化します。​アンモニア(NH₃)は脂溶性で腸壁を透過し血管へ吸収されます。​酸性環境下では、NH₃はプロトン(H⁺)を受け取りアンモニウムイオン(NH₄⁺)となり、​NH₄⁺は電荷を持つため脂質二重層を通過できず、腸管内に閉じ込められます。​結果として、血中へのアンモニア吸収が阻止され、便と共に排泄されます。

ラクツロースは腸管内の浸透圧を高め、水分を保持することで便を軟化させ、腸管通過時間を短縮します。これにより、アンモニア産生菌と接触する時間が減少し、毒素の産生・吸収が抑制されます。​また、酸性環境を好まないウレアーゼ産生菌(アンモニアを作る菌)の増殖を抑制し、非ウレアーゼ産生菌(乳酸菌など)を優位にすることで、長期的なアンモニア産生を減少させます。ウサギにおける投与量と安全性​ラクツロースは、マウス、ラット、ウサギを用いた毒性試験において、高用量(6~12 mL/kg/日)でも生殖能や胎子への悪影響が見られない比較的安全な薬剤です〔Lactulose〕 。一般的には肝性脳症の管理には、0.25~0.5mL/kg BID~TIDPOになります。

目標は1日2~3回の軟便(ソフトプディング状)である。水様性下痢になる場合は過量であり、脱水や電解質異常(低カリウム血症など)を引き起こし、逆に悪化させるリスクがあるため、減量が必要になります 。 ​投与初期にガス産生により腹部膨満や不快感が見られることがあります。ウサギは消化管うっ滞を起こしやすいため、腹部の状態を触診等で確認しながら使用します。

肝リピドーシスに対する代謝改善薬

ウサギの肝リピドーシスは、単なる脂肪の蓄積ではなく、代謝不全による多臓器不全への進行過程です。したがって、脂肪の代謝(β酸化)を促進し、肝臓からの脂質排出を助ける薬剤が治療の鍵となります。

L-カルニチン

L-カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリアのマトリックス内へ輸送するために必須のアミンです。脂肪酸はCoAと結合してアシルCoAとなるが、そのままではミトコンドリア内膜を通過できません。L-カルニチンはカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ酵素系を介して脂肪酸をカルニチンエステルとしてミトコンドリア内に運び込み、そこでβ酸化を受けてATPが産生されます。食欲不振により脂肪組織から大量の脂肪酸が動員されると、肝臓内でのカルニチン需要が急増し、相対的な欠乏状態に陥いりまし。これにより、脂肪酸がミトコンドリアに入ることができず、細胞質内でトリグリセリドとして再合成され、脂肪肝が悪化するという悪循環が生じます。L-カルニチンの補充はこのボトルネックを解消し、脂肪酸のエネルギー化を促進します。

ウサギにおけるエビデンス

ウサギを用いた複数の研究が、L-カルニチンの脂質代謝改善効果を裏付けています。コーン油とコレステロールを含む高脂肪食を与えたウサギに対し、L-カルニチンを170mg/kg/日で4週間投与した研究では、肝臓の脂肪変性の程度が軽減し、血漿総コレステロール、トリグリセリド、VLDL関連トリグリセリドが有意に低下しました。この研究では、L-カルニチン投与により肝臓内のカルニチンレベルが正常化し、肝臓のHMG-CoA還元酵素活性の低下が緩和されたことも報告されています〔Seccombe et al.1987〕。別の研究では、L-カルニチンとフィブラート系薬剤であるゲムフィブロジルを併用投与することで、高脂肪食負荷ウサギの腹腔内脂肪および肝脂肪沈着が顕著に減少したことが示されています。治療用量として、猫の肝リピドーシス治療(250~500mg/頭/日)に準じ、ウサギに対しても50~100mg/kg/日、あるいは飲水添加(500mg/L)などの用量が考慮されています〔Hassan et al.2024〕。

コバラミン(ビタミンB12)

肝リピドーシスに伴い、ビタミンB12の欠乏が生じることがあります。ビタミンB12はメチルマロニルCoAムターゼの補酵素として、プロピオン酸代謝やアミノ酸代謝に関与し、クエン酸回路への基質供給を助けます。L-カルニチンと同様に代謝をスムーズにするために補充が推奨される場合があります。

高脂血症および動脈硬化症に対する脂質低下薬

ペットのウサギにおいて、肥満や不適切な食事、あるいは遺伝的要因に高脂血症が持続する場合、動脈硬化や肝障害のリスクが高まります。ウサギは動脈硬化の研究モデルとして多用されているため、スタチンやフィブラート系薬剤に関するデータは豊富です。

スタチン系薬剤(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

スタチンはコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を競合的に阻害します。これにより肝細胞内のコレステロールプールが減少し、代償的にSREBP経路を介してLDL受容体の発現が亢進、血中LDLコレステロールの取り込みが増加して血清脂質が低下します。

アトルバスタチン

正常ウサギを用いた研究では、2.5~5mg/kg/日の経口投与が有効かつ安全な用量域であることが示唆されています〔Ito et al. 2009〕。3mg/kg/日の投与で血漿総コレステロールが約30%低下した報告もあります。10mg/kg/日以上の高用量では、食欲不振(摂食量75%減少)や肝毒性の兆候が認められたため、過剰投与は厳禁です。

シンバスタチン

2.5mg/kg/日の投与により、高脂肪食負荷ウサギにおいて血清コレステロールおよびLDLコレステロールを有意に低下させ、大動脈のアテローム性病変形成を予防しました〔Oikonomidis et al.2016〕。抗酸化作用や血管内皮機能の改善作用も報告されており、単なる脂質低下以上のメリットが期待されています。

ロバスタチン

WHHLウサギににおいて、5mg/kg 投与がLDLコレステロールを約43%低下させた報告があります〔Niimi et al.2020〕。

プラバスタチン

親水性スタチンであり、WHHLウサギにおいて強力な脂質低下作用と動脈硬化抑制効果が確認されています。

臨床獣医学において、ウサギへのスタチン投与は一般的ではないが、重度の高脂血症や、食事療法(低脂肪・高繊維食)のみでは管理できない遺伝性高脂血症が疑われる場合には選択肢となり得る。開始用量は低用量(例:アトルバスタチン 1-2 mg/kg q24h)からスタートし、肝酵素やCPK(クレアチンホスホキナーゼ)をモニタリングしながら慎重に行うべきである。

フィブラート系薬剤(PPARαアゴニスト)

フィブラートは、核内受容体であるPPARα(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α)を活性化し、リポタンパク質リパーゼ(LPL)の発現誘導、apo A-I/A-IIの合成促進、肝臓での脂肪酸β酸化の亢進を引き起こします。これにより、主にトリグリセリド(TG)の低下とHDLコレステロールの上昇をもたらします。

ゲムフィブロジル

前述の通り、L-カルニチンとの併用で高脂肪食誘発性の脂肪肝と肥満を抑制する効果が確認されています。高トリグリセリド血症を呈するウサギにおいて、脂肪酸代謝を改善する有用な薬剤です〔Çitil et al.2022〕。

フェノフィブラート

高コレステロール食を与えたウサギにおいて、血漿TGを低下させるだけでなく、動脈硬化プラーク内のコレステロール含量を減少させ、組織因子の発現を抑制することでプラークを安定化させる効果が報告されています〔Niimi et al.2020〕。

ベザフィブラート

汎用されるフィブラート薬であり、コレステロールとトリグリセリドの双方を低下させる作用があります。

コレスチラミン

陰イオン交換樹脂であり、腸管内で胆汁酸を吸着・結合して便中への排泄を促進させる査証があり、肝臓でのコレステロールから胆汁酸への異化が促進され、血中コレステロールが低下します。ウサギでは1g/kg/日の投与で血清コレステロールを約12%低下させた報告があります〔Qiu et al.2017〕。

薬剤分類薬剤投与量薬効備考
肝庇護薬シリマリン 6.5-13mg/kg PO SID- BID抗酸化、膜安定化、肝再生促進非常に安全性が高い/SAMeとの併用可
肝庇護薬S-アデノシルメチオニン (SAMe)犬猫用量 (約20mg/kg) を準用グルタチオン合成促進、メチル化空腹時投与推奨/吸湿性に注意
代謝改善薬L-カルニチン 50-100mg/kg PO SID/ 500mg/L 飲水脂肪酸燃焼促進((β酸化)、ケトーシス予防肝リピドーシス時に特に有効
脂質低下薬アトルバスタチン 2.5-5mg/kg PO SID血中コレステロール低下、動脈硬化抑制10mg/kg以上の高用量は肝毒性リスクあり
脂質低下薬ゲムフィブロジル 7.5mg/kg PO BID (他種参考) トリグリセリド低下、肝脂肪沈着抑制L-カルニチンとの併用で効果増強の報告あり
禁忌・注意ウルソデオキシコール酸使用非推奨(他種では利胆・肝庇護)ウサギではリトコール酸中毒のリスク大/原則禁忌
表:肝疾患に使用するウサギの薬剤

参考文献

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。