トカゲの保定(身体検査・X線検査・超音波検査・CT検査)

代表的3種

トカゲの中で、ヒョウモントカゲモドキ(Eublepharis macularius)、フトアゴヒゲトカゲ(Pogona vitticeps)、グリーンイグアナ(Iguana iguana)は、臨床現場で遭遇する頻度が最も高いトカゲ類の一部であり、これらの種は、分類学的に異なる科に属しており(それぞれトカゲモドキ科、アガマ科、イグアナ科)、その解剖学的構造、生理機能、および行動特性は著しく異なります。したがって、犬や猫で確立された画一的な保定法や画像診断プロトコルをそのまま適用することは、診断精度の低下を招くだけでなく、患者に対して不可逆的な損傷や過度なストレスを与えるリスクがでてきます。

トカゲの解剖生理学的特性と保定への影響

適切な保定と画像診断を行うためには、対象動物の生物学的特性を深く理解する必要があります。

外皮

トカゲ類の皮膚は、角質化した表皮と真皮からなり、強固な物理的防御壁を形成しています。多くの種において、真皮内には皮骨と呼ばれる骨質の板が存在し、これがX線透過性を低下させ、超音波の透過を阻害する主要な要因となります。

自切のメカニズム:ヒョウモントカゲモドキやイグアナ(特に幼体)を含む多くのトカゲは、捕食者から逃れるために尾を自ら切り離す能力を持っています。これは尾椎にある特定の自切面で発生し、周囲の筋肉が瞬時に収縮して出血を最小限に抑える高度な防御反応です。

攻撃・威嚇

グリーンイグアナは鋭利な爪と強力な尾を持ち、これらを鞭のように振るって攻撃します。フトアゴヒゲトカゲは、喉元の皮膚(Beard)を展開し、体色を黒く変化させることで威嚇を行います。これらの行動学的徴候を読み取り、攻撃に転じる前に対処することが、術者の安全確保には不可欠になります。

呼吸器

トカゲ類には哺乳類のような横隔膜が存在せず、胸腔と腹腔の境界がない単一の体腔を持つ5。肺換気は、肋間筋や体幹筋を用いた胸郭の能動的な拡張・収縮に依存しています。したがって、保定時に胸部を過度に圧迫すると、呼吸運動が物理的に制限され、急速に低酸素血症や高炭酸ガス血症に陥るリスクがあります。

トカゲをひっくりかえしてはいけない理由

獣医臨床の現場において、トカゲ類の保定は日常的な処置ですが、その際に観察される特徴的な行動反応として、立位(腹臥位)を崩された際の激しい抵抗が挙げられます。飼い主や経験の浅いハンドラーは、この反応を単なる不快感や嫌がっていると擬人化して解釈しがちです。しかし、この反応は単なる情動的な拒絶ではなく、生物学的な生存本能に直結した、極めて高度な神経生理学的および解剖学的防御反応といえます。

トカゲが体位変換に脆弱である最大の理由は、その体腔の基本的構造にあります。哺乳類との決定的な違いは、内臓を固定し区画化する隔壁の欠如と、重力に依存した臓器配置です。哺乳類では、横隔膜(Diaphragm)が胸腔と腹腔を物理的かつ圧力的に完全に遮断しています。これにより、逆立ちをしようが仰向けになろうが、肝臓や胃腸が肺を圧迫することは解剖学的に制限されています。しかし、トカゲ類を含む多くの爬虫類は、完全な筋性横隔膜を欠いていますので、トカゲの内臓は哺乳類に比べて可動性が高いです。トカゲを背臥位(仰向け)にすると、物理的法則により、比重の重い肝臓や消化管、特に食渣や水分を含んだ胃が、背側に位置する肺へと落下しま。これは肺実質を直接圧迫し、物理的に無気肺を引き起こす可能性が高くなります。トカゲが仰向けにされることを「嫌がる」第一の理由は、自分の内臓の重みによって肺が押し潰され、呼吸困難に陥るという物理的な苦痛にあります。

トカゲの心臓は一般に肩帯の直下に位置するが、その固定は比較的緩やかです。側臥位や背臥位への変更は、心臓の位置を偏位させ、心基部に出入りする大血管(大動脈弓や大静脈)に物理的な捻転や圧迫(Kを生じさせるリスクがあります。特に、肺動脈や肺静脈の走行が歪むことで、肺循環への血流抵抗が増大し、心拍出量の低下を招く可能性がでてきます。

横隔膜を持たないトカゲは、呼吸のすべてを肋骨の運動に依存しています。これを肋骨吸引ポンプと呼ばれています。外肋間筋が収縮し、肋骨を頭側かつ外側へ回転させることで体腔の容積を拡大し、その陰圧によって空気を肺に引き込まれます。もし保定者がトカゲの胸部を横から強く挟み込むように把持した場合、あるいはトカゲを側臥位にして床面に押し付けた場合、肋骨の物理的な拡張が阻害されます。窒息の生理学: 肋骨が動かせない状態では、トカゲは吸気が行えず、機能的残気量(FRC)のみで生存しなければならなりません。これが「横にされると暴れる」主要因の一つである。彼らは単に姿勢を変えられたのではなく、物理的に呼吸を止められている状態に近いストレスを感じています。

捕食者にひっくり返されることは、自然界では死を意味する。この姿勢の変化は、扁桃体相同部位を介して強烈な「恐怖」の情動を引き起こす。トカゲが暴れるのは、単なる反射だけでなく、この根源的な恐怖に突き動かされた行動でもあります。

種別ハンドリングと保定

各種の気質と体格に応じた適切な保定法の選択は、検査の成功率を左右します。腹臥位の維持が基本となります。いかなる処置においても、可能な限りトカゲの腹側を下に向けた自然な体位を維持します。

ヒョウモントカゲモドキ

ヒョウモントカゲモドキは動きが比較的緩慢な地上性ヤモリであるが、その皮膚は非常に薄く脆弱であり、強い摩擦や圧迫によって容易に裂傷が生じます。驚かせないよう、ゆっくりと低い位置から手を近づけます。興奮している個体や攻撃的な個体の場合、視界を遮るための小さなタオルを使用することが有効です。咬合力はそれほど強くないですが、一度噛み付くと離さない場合があるため、口元への指の接近は避けてください。

  1. 頭部の制御: 利き手の人差し指と親指で、顎関節の後ろ、頸部の付け根付近を優しく挟むように保持します。この際、気管を圧迫しないよう注意するべきです。
  2. 体幹の支持: 手のひら全体でトカゲの腹部を包み込み、残りの指(中指、薬指、小指)で胴体を軽く包みこみます。
  3. 尾の保護: 尾には一切触れない、あるいは触れるとしても支える程度にとどめます。尾を掴んで持ち上げたり、保定の支点にしたりすることは厳禁です。

フトアゴヒゲトカゲ

比較的温厚な性格の個体が多いですが、体表に棘状の鱗を持ち、興奮すると体を膨らませて防御姿勢をとります。人に慣れている個体は容易にハンドリングできますが、未馴致の個体は口を大きく開けて威嚇します。威嚇行動が見られる場合は、厚手のタオルを用いて頭部を覆い、視界を遮断してから保定に移ります。

  1. 前肢帯の固定: 一方の手で胸部を下から支え、人差し指と親指を前肢の脇(腋窩)に入れ、前肢を体側に引き寄せるようにして固定します。これにより、前肢による掻きむしりを防ぐことができます。
  2. 後肢と尾の制御: もう一方の手で骨盤部と尾の付け根を支持する。尾は比較的太く丈夫ですが、先端部分は自切や骨折のリスクがあるため、付け根以外は強く把持しないようにします。
  3. 体勢維持: 仰向け(背臥位)にすると不動化を示すことがありますがが、これは極度の恐怖反応である可能性があり、呼吸循環系への負担となるため、検査以外の目的で長時間維持することは避けるべきです。

グリーンイグアナ

成体では全長1.5m、体重5kgを超える大型種となり、保定には物理的な力と技術の両方が要求されます。鋭い爪による裂傷や、尾による打撲傷を防ぐため、術者は長袖の衣服や革製の手袋を着用することが推奨されます。ケージから取り出す際が最も危険になります。まず尾の動きを封じることが先決です。尾の付け根を掴むのではなく、尾の中間部を脇に挟むか、タオルで包み込んで動きを制限します。

  1. 上半身の固定: 利き手でイグアナの首の背側からアプローチし、親指と人差し指で首の付け根をしっかりと押さえます。同時に、その手のひらをイグアナの背中に密着させ、前肢を体側に押し付けるようにして固定します(片手で前肢帯全体を制御する技術)。
  2. 下半身の固定: もう一方の手で骨盤帯を同様に背側から把持し、後肢を体幹に沿わせて引き伸ばし、尾の付け根と共に握り込ませます。
  3. 体軸の制御: 大型個体の場合、イグアナの体を術者の前腕と体幹の間に挟み込むことで(フットボール抱え)、暴れる余地をなくすことができます。

迷走神経反射の応用

特にグリーンイグアナや大型トカゲにおいて、迷走神経反射(眼球心臓反射:Oculocardiac reflex)を利用した保定法は、非侵襲的な検査において極めて有効です。両方の眼球に対し、閉じた瞼の上から指先で穏やかかつ持続的な圧力を加える、あるいは眼球部分に柔らかいパッド(コットンボールなど)を当て、弾性包帯(Vetrapなど)で頭部を軽く巻く方法もあります。圧迫開始から20〜30秒程度で、副交感神経(迷走神経)の刺激により心拍数と血圧が低下し、動物は催眠状態または無気力状態に陥ります。この状態は、圧迫を解除した後も数分間持続することがありますがが、大きな音(ドアの開閉音、話し声)や疼痛刺激(注射など)が加わると、瞬時に覚醒し、逃避行動に移るため注意が必要です。

X線検査保定

爬虫類のレントゲン撮影では、基本的に背腹像(Dorsoventral: DV)側方像(Lateral)の2方向撮影を行います。

背腹像

最も基本的かつ容易な撮影法です。患者を腹這い(伏臥位)の状態でカセッテまたはテーブル上に置き、脊柱が一直線になり、頭部、体幹、尾がねじれないように整えます。四肢は自然な位置に置くか、可能であれば左右対称になるように配置します。意識下での撮影では、患者が動かないように工夫が必要です。プラスチック製の容器(タッパーウェア)やアクリルボックスに入れ、蓋をすることで動きを制限できなす。なお、容器はX線透過性である必要があります。暴れる個体では、弱粘着性の紙テープ(マイクロポアテープなど)を用いて、骨盤部や肩部をカセッテに固定することがあります。ただし、皮膚を傷つけないよう注意します。

側方像と水平ビーム

通常の側方像(患者を横倒しにする)は、内臓が重力で移動し、下になった肺が圧迫されて虚脱するため、解剖学的な位置関係が崩れるという欠点があります。爬虫類、特にイグアナやカメ類においては、患者を伏臥位のまま維持し、X線管球を水平方向に向けて横から撮影する水平ビーム撮影が推奨されています。患者を発泡スチロールなどの透過性台座の上に乗せ、カセッテを患者の側面に垂直に立てて配置します。X線管球を水平にし、側面から照射しますが、トカゲはカメと異なり、かなり暴れるために難しいかもしれません。そのため、短時間でトカゲを横にして側方像を撮影するしかありません。

超音波検査の保定

プローブの選択はトカゲの身体の大きさに合わせて選択します。小型種(ヒョウモントカゲモドキ、小型フトアゴヒゲトカゲ)では、高周波数(10~18MHz)のリニアプローブ、またはホッケースティック型プローブが適しています。接地面積(フットプリント)が小さいため、小さなアコースティックウィンドウからのアプローチが可能です。中型〜大型種(イグアナ、成体フトアゴヒゲトカゲ)では7.5~10MHzのマイクロコンベックスまたはリニアプローブを使用し、深部臓器(肝臓深部や巨大な卵胞塊の奥)を見る場合は5~7.5 MHzが必要になることもあります。体表直下の臓器を観察する場合や、鱗の凹凸による接触不良を防ぐために、ゲルパッドを使用するか、大量のゼリーを使用することで画質が向上します。

爬虫類の鱗や皮骨は超音波を反射・減衰させるため、適切な窓(Window)を見つけることが検査の鍵となります。腹部の鱗が比較的柔らかい種(ヒョウモントカゲモドキなど)では、正中線から肝臓、心臓、胃腸を観察できます。その他のトカゲでは後肢の付け根の前方や腋窩の皮膚は薄く、鱗が小さいため、超音波の透過性が良いです。ここからプローブを頭側や背側に向けて操作することで、腎臓、生殖腺(卵巣・精巣)、脂肪体を描出できます。

通常は背臥位(仰向け)は可能な限り避けて、立位で保定します。イグアナでは迷走神経反射を利用して不動化させるとスムーズに検査できる場合があります。

コンピュータ断層撮影(CT)検査の保定

近年、マルチスライスCTの高速化に伴い、無麻酔または軽い鎮静下での撮影が可能となっています。小型~中型のトカゲでは容器に入れて、隙間をティッシュやタオルで前後を挟んで動きを制限する方法が有効です。放射線透過性のアクリル板や硬質発泡スチロールの上に、紙テープで四肢と尾を固定することもあります。グリーンイグアナでは迷走神経反射を併用することもありますが、ガントリーの回転音や振動で覚醒する可能性があるため、完全な不動化は期待できません。麻酔に伴う呼吸抑制のリスクがない反面、体動によるモーションアーチファクトが発生しやすく、画質が低下する場合があります。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。