【生理】テグートカゲの知能(どれだけ賢いか)

知能トカゲ

テグーは知能が高く、人に馴れる爬虫類と言われています。その知能を論じる上で無視できないのが、その生態学的な戦略的ゼネラリストとしての側面かあることです。彼らは極めて多様な食性を持ち、果実、無脊椎動物、脊椎動物、卵、腐肉、キノコなど、利用可能なあらゆる資源を摂取します。このような広範な食性は、環境の季節的変化や生息地の移行に柔軟に対応するための高い認知能力を必要とする。例えば、ブラジルの都市公園における観察では、テグーが腐敗した魚を叩きつけて食べやすい大きさに解体したり、カメの卵を掘り出した後に器用に中身だけを吸い出したりする複雑な摂餌行動が記録されています〔Sazima et al.2013〕。これは物理的な対象の因果関係を理解し、目的を達成するための多段階の行動を計画できる能力を示唆しています。さらに、テグーはアメリカのフロリダ州やジョージア州において、ペット貿易を通じて流出した個体が深刻な侵略的外来種として定着しています。彼らが非自生環境において急速に分布を拡大できる要因の一つとして、新しい環境における資源の所在を迅速に学習し、罠を回避し、捕食者から逃れるための高度な空間認知能力が挙げられます〔Mcbrayer et al.2020〕。

神経解剖学的解析

テグーの脳は前脳、中脳、後脳の三部構成から成り、それぞれが高度に発達しています。終脳は、哺乳類の大脳皮質に相当する外套、底核などに相当する下外套に分かれています。外套はさらに内側皮質、背内側皮質、背側皮質、外側皮質という4つの主要な領域に区分されます〔Letícia et al。2023〕。これらの皮質構造は、哺乳類の海馬(空間記憶)や梨状皮質(嗅覚処理)と相同な機能を担っていると考えられています。テグーの嗅球は非常に大きく、主嗅球と副嗅球は6つの層構造で構成されています。彼らは二股の舌を用いて化学受容を行い、この情報を終脳で高度に処理することで、環境の化学的地図を作成しています〔Letícia et al。2023〕。テグーの認知機能が成体期を通じても維持、あるいは向上し続ける生物学的根拠の一つが、成体神経発生で、成体になっても広範な脳領域で新しいニューロンを生成し続ける能力が高いです〔González-Granero et al.2023〕。

伝統的な脳化指数による比較では、テグーを含む爬虫類は哺乳類よりも低い数値を示す傾向がありました。しかし、最新の細胞定量的研究によれば、脳の絶対的な大きさよりも外套におけるニューロンの総数が知能とより強く相関することが示唆され、テグーの脳は典型的には1,000万個未満のニューロンしか持っていませんが、外套と他の脳領域の比率において、哺乳類と肩を並べるくらいの脳化指数の可能性を示めしており、終脳依存の学習能力が高いです。これは、爬虫類が異なる進化の経路を辿りつつも同等の認知課題を解決可能な構造を備えていることを意味しています〔Herculano-Houzel 2025〕。

学習能力の実験報告

テグーの学習能力は、実験的なタスクにおいても証明されています。彼らは単なるパブロフ的な条件付けを超えた、空間的、社会的、および道具的な学習を行うことが可能です。

空間学習

迷路学習において、テグーは短期間で正確なルートを記憶する能力を示します。T字型迷路を用いた実験では、特定の方向に回転するバイアスを持つ個体は、最初の学習には時間がかかるものの、一度ルートを習得した後は極めて安定したパフォーマンスを示します。これは、脳の半球ごとに機能が分化しています〔Daniele Pellitteri-Rosa et al.2025〕。

社会的学習

トカゲ類における社会的学習(他の個体の行動を観察して学ぶ能力)についても研究が進んでいる。特定の種(Eulamprus quoyii)の研究では、若いオスが経験豊富な個体(デモンストレーター)を観察することで、新しい関連付けタスクをより迅速に学習することが確認されています。テグーにおいても、若齢期に親や他の個体との接触があることが、認知発達に好影響を与える可能性が示唆されています〔Noble et al.2014〕。

反転学習

テグーは反転学習(一度学習した正解のパターンが逆転した際に、古い習慣を捨てて新しい正解に適応する能力)においても、爬虫類の中でトップクラスの成績を収めています。これは、彼らが一度覚えたらそれしかできない硬直した本能の塊ではなく、状況の変化に応じて戦略をアップデートできる高い実行機能を持っていることを示しています〔Noble et al.2012〕。

飼育下における人間との相互作用

テグーは犬のようなトカゲと評されることが多いですが、これは単なる擬人化ではなく、彼らの持つ高度な社会的認知能力に基づいています。

個体識別と信頼関係の構築

テグーは飼い主と他の人間を明確に区別することができます。飼育現場からの報告によれば、テグーは特定の人物の声、匂い、視覚的特徴を記憶し、好意的な人物が近づくとケージの扉を叩いて外に出たいと要求したり、膝の上でリラックスしたりする行動を見せます。これは、トカゲが単なる動く物体として人間を見ているのではなく、特定の個体としてのアイデンティティを認識していることを示しています。

トレーニング

テグーは爬虫類の中でも特異的に訓練が容易であり、以下のタスクを習得できることが確認されています。音を合図に特定の動作(ターゲットへのタッチなど)を行うパブロフ的な条件付けの応用(クリッカートレーニング)、 自分の特定の呼びかけに反応してやってくる行動(名前の認識)、特定の場所で排泄するように学習できる(トイレトレーニング)などが行われています。

環境エンリッチメントの重要性

知能の高いデグーは、刺激のない環境で容易に退屈し、精神的な苦痛を感じます。ウェルフェア(福祉)を維持するためには、認知的エンリッチメントわ充たす策が練られています。餌を直接与えるのではなく、パズルボックスに入れたり、土の中に隠したりして、探索と問題解決の機会を与えます〔 Howard et al.2022〕。異なる匂いや質感の物体を導入し、好奇心を満たしたり、飼い主とのポジティブな相互作用(ハンドリングや遊び)を通じて、信頼関係を維持します〔Tiffani et al.2017〕。テグーはその認知能力の高さゆえに、不適切な飼育環境や不適切な取り扱いによるストレスを、より複雑な形で表現する可能性があります。彼らの行動の変化(食欲不振、過度な防衛行動、引きこもり)は、単なる生理的不調だけでなく、精神的なウェルフェアの低下を示唆する重要なサインかもしれません〔Howell et al.2017〕。

外来種としての成功

フロリダ州において、テグーは在来種の脅威となっています。テグーは罠の存在を迅速に察知し、学習することができます〔Sandfoss et al.2025〕。また、テグーはカプサイシン(唐辛子の成分(などの忌避剤を塗布した餌に対しても、最初は警戒するものの、すぐにそれが無害であることを学習し、再び罠に近づくことが確認されています〔Lance et al.2023〕。このような有害性の評価を迅速に行える能力が、駆除を難航させている要因になっています。

参考文献

  • Daniele Pellitteri-Rosa,Birgit Szabo, Andrea Gazzola.Lateralisation shapes spatial learning in lizards.Available via license.CC BY 4.0.2025
  • González-Granero Susana et al.Adult neurogenesis in the telencephalon of the lizard Podarcis liolepis.Front Neurosci 23;17.2023
  • Herculano-Houzel S.Mammals, birds and reptiles evolved with signature proportions of numbers of neurons across their brain structures.bioRxiv. 2025
  • Howard D et al.Overlooked and Under-Studied:A Review of Evidence-Based Enrichment in Varanidae.Journal of Zoological and Botanical Gardens3(1):32-43.2022
  • Howell T et al.Despite their best efforts, pet lizard owners in Victoria, Australia, are not fully compliant with lizard care guidelines and may not meet all lizard welfare needs.Journal of Veterinary Behavior 21.2017
  •  Lance D. McBrayer, Daniel Haro, Michael Brennan, Bryan G. Falk, Amy A. Yackel Adams.Capsaicin-treated bait is ineffective in deterring non-target mammals from trap disturbance during invasive lizard control.Neobiota87:103-120.2023
  • Letícia Menezes Freitas et al.Macro- and microscopic brain anatomy of the amazon lava lizard (Tropidurus torquatus) (WIED, 1820).Ciênc. anim. bras24.2023
  • Noble DWA,Byrne RW,Whiting MJ.Age-dependent social learning in a lizard.Biol Lett10(7).2014
  • Noble DWA,Carazo P,Whiting MJ.Learning outdoors: male lizards show flexible spatial learning under semi-natural conditions.Biol Lett17;8(6):946–948. 2012
  • Sandfoss M et al.An early detection rapid response case study of the Black and White Tegu (Salvator merianae) and implications for a broader framework.Management of Biological Invasions16(2):581-591.2025
  • Sazima I et al.Range of animal food types recorded for the tegu lizard (Salvator merianae) at an urban park in South-eastern Brazil.Herpetology Notes 6(1):427-430.2013
  • Tiffani Howel et al.Despite their best efforts, pet lizard owners in Victoria, Australia, are not fully compliant with lizard care guidelines and may not meet all lizard welfare needs.Journal of Veterinary Behavior21.2017

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。