二大疾病
アオジタトカゲに一般的に見られる二大疾病は、呼吸器感染症および脱皮不全です。これらは往々にして不適切な飼育環境が誘因として考えられています。
アオジタトカゲ属の概要と特異的病態
アオジタトカゲはオーストラリアおよびインドネシアに広く分布する大型のトカゲであり、飼育下では、その種の分類(例:乾燥を好むオーストラリア系T.scincoidesと湿潤を好むインドネシア系T.gigas)に応じた環境が求められます。低湿度は脱水を引き起こし、皮膚の適切な剥離を妨げ、脱皮不全の原因となります。一方で、ケージ内を常に高湿度に保つことも不適切であり、細菌や真菌の異常増殖を防ぐために、湿潤と乾燥のサイクルを設ける必要があり、特に続的な過剰加湿は真菌性肺炎や脱皮不全のリスクを高めます。
呼吸器感染症
原因
爬虫類の呼吸器疾患は肺炎として重症化することが多く、適切な診断と積極的な治療を必要とされます。原因菌は通常、単一の病原体ではなく、環境ストレスや免疫抑制、複数の病原体による複合的な関与によって発症します。細菌性感染が最も一般的であり、適切な抗生物質療法に反応することが多いです。主にグラム陰性菌が分離されますが、クラミジアやマイコプラズマなどの非定型細菌も関与することがあります。近年、アオジタトカゲ属を含むオーストラリアのトカゲ類において、ブルータングニドウイルス(例:Shingleback nidovirus-1)が呼吸器症候群と強く関連付けられています〔Hyndman 2023〕。このウイルスは飼育下で極めて伝染性が高いとされますが、単独で疾患を引き起こすという実験的証拠は限定的であり、多くはストレス、栄養不良、および既存の細菌・真菌感染と複合することで臨床疾患を発症させています。呼吸器感染症の治療抵抗性が示された場合、単なる環境是正の失敗や薬剤耐性菌の存在だけでなく、ニドウイルスや真菌などの非細菌性病原体が根本的な原因となっている可能性を考慮しなければなりません。
症状
初期症状は、鼻孔からの粘液や泡の排出、口元からの流涎、食欲不振、体重減少などです。よく、目から泡が出るという症状は鼻孔と目が管でつながっているために、目から泡が排泄されているのです。
重症化すると、鼻出血、開口呼吸や呼吸困難を軽減しようとして首を上に向ける異常な姿勢が観察されます。
診断・検査
肺炎の診断は、身体検査、画像診断、および病原体特定のための微生物学的検査の組み合わせによって行われます。肺炎の確定診断には、胸部X線撮影が必須ですが、アオジタトカゲの鱗はX線不透過性気味であり、他のトカゲと比べても評価しにくいという特徴があります。細菌および真菌の特定には、鼻汁や口内分泌物からのスワブ採取が行われ、培養および抗生物質感受性試験に供します。
治療
基本的に抗生物質を投与します。慢性的な鼻炎や粘膜病変が認められる場合、ビタミンA欠乏が疑われるため、ビタミンA療法が補助的に検討されることがあります。また、呼吸器の分泌物を軟化させ、排出を促すために、生理食塩水や気管支拡張薬、または全身投与と同じ抗生物質をネブライゼーション(噴霧治療)で局所的に投与することもあります。
脱皮不全
脱皮不全は、古い皮膚が完全に剥離できない状態であり、放置すると二次的な細菌・真菌感染症や、四肢の壊死につながる重篤な状態です。
原因
脱皮不全の原因は多岐にわたりますが、ほとんどが飼育環境の管理不良に起因します。最も一般的な原因は、環境湿度が低すぎることです。トカゲは脱皮時に一時的に高湿度な場所を求め、皮膚を柔らかくする必要があります。また、低温は皮膚代謝を遅延させ、脱皮プロセスに必要な酵素活性を低下させます。さらに、岩や粗い木の枝といった摩擦面がケージ内に不足していると、トカゲは自力で脱皮を開始し、完了することができません。環境要因が排除された後も発生が続く場合、全身性要因を考慮する。これには、脱水、外部寄生虫(ダニ)、全身感染症、ビタミンA欠乏などが含まれます。
治療
治療は皮膚の軟化と除去、および二次感染の管理からなります。軽度の脱皮不全は、清潔で温かい水または希釈したクロルヘキシジン液を用いた温浴によって対処できます。温浴後、優しく皮膚を擦ることで剥離を促します。除去が困難な部位には、二次感染予防のため、局所的な抗生物質軟膏を塗布することが推奨されます。眼窩、指趾、尾端に皮膚が環状に残存している重度のケースでは、組織損傷を避けるため、慎重な手技が必要となります。特に指趾の環状拘束は、その下の組織を壊死させる可能性があるため、速やかに解除しなければなりません。二次的な細菌性または真菌性皮膚感染症が発生している場合、皮膚のデブリドマンが求められ、局所的な消毒処置を頻繁に行います。感染が指趾の壊死や広範囲の皮膚炎を伴う場合、全身性抗生物質の投与が必須となります。
予防
アオジタトカゲの呼吸器感染症と脱皮不全は、本質的に予防可能な疾患です。その予防は、種別要件に基づいた厳格な環境管理に集約されます。
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参考文献
- Hyndman T.Identification of other blue-tongue nidoviruses in association with upper respiratortract disease.Personal communiction.2023
