爬虫類コクシジウム症の分類学的背景と発生学
コクシジウムは、爬虫類において非常に一般的な腸管内寄生性原虫であり、特にトカゲ種で頻繁に検出される内寄生虫群です。分類学的には、これらはアピコンプレックス門に属し、フトアゴヒゲトカゲにおいて臨床的に最も重要視される種は、Isospora amphiboluriとCholeoeimeria pogonaeになります。
Isospora amphiboluri
I.amphiboluriは1967年に初めて記載されて以来、飼育下にあるフトアゴヒゲトカゲの健康を脅かす重要な病原体として認知されてきました。しかし、無症候キャリアーが多く、環境中のオーシスト負荷を常に高い状態に保ちます〔Walden 2009〕。
宿主
本種はオーストラリアの野生トカゲの寄生虫として発見された後、国際的なペット取引の過程で飼育下のフトアゴヒゲトカゲにおいて蔓延しています。
伝播経路
感染した動物の糞便を介してオーシストとして排出され、汚染された糞便を摂取することで伝播します 。実験感染下でI.amphiboluriの感染サイクルを特徴づける研究が行われ、感染からオーシスト排出開始までの期間が15~22日の範囲であることが特定されました〔Walden 2009〕。
病態生理
フトアゴヒゲトカゲを実験的に感染させた病態生理学的研究では、I.amphiboluriの増殖は消化吸収の主要部位である十二指腸で開始し、その後、腸管全体に移動することが示されました〔Walde et al.2021〕。絨毛の萎縮や粘膜の炎症は栄養素の吸収能力を劇的に低下させます。
症状
成長期の幼若個体において、下痢や軟便、体重減少、発育不良、衰弱を引き起こす主要因となります。重症でなければ死亡率は低いのも特徴で、成体のフトアゴヒゲトカゲの多くは、無症候性キャリアとして機能します。

Choleoeimeria pogonae
Choleoeimeria pogonaeは、細胞内寄生性原虫であり、その病態生理学的な重要性は、一般的な腸管寄生性コクシジウム(例:Eimeria属やIsospora属)とは一線を画しています。C.pogonaeの最大の特徴は、胆道向性を示すことにあり、内因性発育が胆嚢および胆管の上皮に限定されます 。この特定の局在は、重篤な胆道病変、特異的な臨床症状、そして従来の治療薬に対する難治性を引き起こす主要因となっています。
分類
本種は当初、2009年にフトアゴヒゲトカゲから検出された際、形態学的特徴のみに基づいてEimeria pogonaeとして命名されました。 しかし、その後の研究により、本種のライフサイクルにおける内因性発育が腸管ではなく、胆嚢と胆管の上皮に限定されていることが確認されました 。この結果に基づき、本種は胆道に寄生する爬虫類のコクシジウムを収容するためにPaperna and Landsberg (1989) によって提唱された属であるCholeoeimeria属へと再分類され、Choleoeimeria pogonae comb. nov. と命名されました〔Szczepania et al.2016〕。
宿主
主な宿主は、フトアゴヒゲトカゲの仲間で、ヒガシ/セントラルフトアゴヒゲトカゲ、ローソンアゴヒゲトカゲ、ニシフトアゴヒゲトカゲなどです。ただし、他のトカゲ類(エリマキトカゲ、モニター、カメレオンなど)でもCholeoeimeria属の感染が報告されており、種特異性は比較的狭いものの、他の爬虫類にも影響を与える可能性が示唆されています〔Hallinger et al.2019,Stöhr et al.2021〕。
伝播経路
C.pogonaeは糞便中にオーシストが排出され、オーシストは他のトカゲが汚染された環境や餌などを摂取することにより経口的に感染が成立します〔Palma et al.2015〕。
病態生理
C.pogonae感染症の重篤性は、その特異な胆道局在に由来します。内因性発育によって胆嚢および胆管の上皮細胞が破壊され、広範な炎症と二次的な生化学的変化が引き起こされます。重度の感染例では、肉眼的に、胆嚢の腫大、胆嚢壁の局所的な肥厚が認められ、オーシストの集積や組織残渣の沈殿物により、胆嚢内に小さな胆石(コレリチア症)が形成されることがあり、これが胆管を閉塞させる要因となります。慢性の炎症と胆管閉塞が進行すると、胆汁うっ滞が発生し、最終的には肝機能障害や全身性の衰弱を招き、死亡に至るケースも報告されています〔Johnston et al.2021〕 。
症状
C.pogonaeの重度感染は、主に削痩が見られます。これは、胆汁の長期的な閉塞により、脂肪の消化・吸収に必要な胆汁酸の供給が途絶え、脂質吸収不良を引き起こすためです。感染が進行し、胆道病変が深刻化すると、衰弱を示し、最終的に致死的な経過をたどります〔Szczepaniak et al.2016〕 。

診断
コクシジウム感染の診断は、糞便浮遊法に依存してきましたが、この方法は相対的に感度が低く、精密性に欠けるという制約がありました 。そのため、近年はPCR検査が推奨されています 。なお、C.pogonaeのオーシストは、楕円形であり、腸内コクシジウムであるIsospora amphiboluriなど、他のフトアゴヒゲトカゲに寄生するコクシジウム種との形態学的鑑別が求められます 。しかし、C.pogonaeのオーシスト排出は胆道病変によって間欠的になる可能性が高く、糞便検査における感度が低いことが大きな問題です。
オーシストの形状
I.amphiboluriのオーシストは球形~準球形を呈し、サイズは 25.3×25.1(23-26×23-26)μⅿになります。内部構造は4つのスポロシストを含み、各スポロシストは2つのスポロゾイトを持ちます。スポロシストは卵形で、サイズは 17.0×11.4μⅿです〔McAllister et al.1995〕。

C.pogonaeオーシストはは楕円形で、サイズは28.4×16 μmになります〔Szczepania et al.2016〕 。成熟したオーシストには、ミクロパイルは欠如していおり、スポロシストの壁には、Choleoeimeria属の特性である縦方向の縫合線が観察されます。
治療
従来のサルファジメトキシを用いた初期の治療研究では、有意な改善は見られたものの、寄生虫を完全に排除するには至りませんでした〔Walden 2009〕 。なあ、フトアゴヒゲトカゲのコクシジウム症治療において、スルホンアミド系薬剤(サルファ剤)は致死的毒性を備えている可能性が示唆され、腎臓および肝臓の病変を引き起こすことが明確に報告されています。組織病理学的に、腎臓では広範な凝固壊死や間質性腎炎が確認されており、肝臓では細胞腫脹、びまん性脂肪変性、および壊死性肝細胞が確認されています〔Lai et al.2020〕。サルファ剤はフトアゴヒゲトカゲのコクシジウム症治療において絶対に使用を避けるべきと言う考えが強い。そこで、トリアジノン系薬剤薬であるポナズリルがI. amphiboluri感染に対する最も効果的な治療薬として認識されています 。経口で30 mg/kgを1回投与し、48時間後に2回目の投与するプロトコルは優れた治療効果を有します〔dvm360.com/view/infectious-diseases-captive-reptiles-proceedings〕。トルツラズリルもまた、ポナズリルと同じトリアジノン系薬剤で、代替治療薬として使用され、20~25mg/kgの経口投与、10mg/kg SID 3日間、7日後に再投与などのプロトコルが推奨されています。なお、胆嚢および胆管寄生のC.pogonaeは、血液循環から隔離された組織構造を持つため、経口投与された抗原虫薬が、腸管寄生性の原虫に対して有効な血中濃度に達したとしても、胆汁中や胆嚢壁組織内で原虫を殺滅するために必要な最小有効濃度を達成することが極めて困難となりますので。難治性であるとも言われています〔Stöhr et al.2021〕。
環境対策
治療成功のためには、厳格な環境衛生と消毒が不可欠です。消毒: p-クロロ-m-クレゾール (p-Chlor-m-Kresol) などのコクシジウムのオーシストに有効な消毒薬を用いたケージの徹底的な消毒が必要になります〔Stöhr et al.2021〕。
疫学データ
コクシジウム感染は、飼育下のフトアゴヒゲトカゲの集団において、特に繁殖コロニーで非常に高い有病率を示しています 。ある研究では、繁殖コロニーの成体の23%以上がI. amphiboluriのオーシストを排出していることが確認されました。無症候性の成体キャリアがコロニー内の感染維持の主要な駆動因子であることを強く示唆しています〔Walden et al.2012〕。ドイツの検査センターに提出されたトカゲ種全体の糞便サンプルを用いた検査では、1.5%がCholeoeimeriaのオーシストに陽性であることが確認されました〔Stöhr et al.2021〕。
参考文献
- dvm360.com/view/infectious-diseases-captive-reptiles-proceedings
- Hallinger MJ et al.Captive Agamid lizards in Germany: Prevalence, pathogenicity and therapy of gastrointestinal protozoan and helminth infections.2019
- Johnston AN et al.Choleoeimeria pogonae alters the bile acid composition of the central bearded dragon (Pogona vitticeps).J Herpetological Med Surg31:99-100.2021
- Lai O et al.Lethal Adverse Consequence of an Anticoccidial Therapy with Sulfa Drugs in Inland Bearded Dragon (Pogona vitticeps).Advances in Animal and Veterinary Sciences9(1).2020
- McAllister CT et al.A Description of Isospora amphiboluri (Apicomplexa: Eimeriidae) from the Inland Bearded Dragon, Pogona vitticeps (Sauria: Agamidae).Journal of Parasitology81(2):281-284.1995
- Palma RM et al.Phylogeny of the reptilian Eimeria: are Choleoeimeria and Acroeimeria valid generic names?Zoologica Scripta44(4):1-9.2015
- Szczepania KO et al.Reclassification of Eimeria pogonae Walden (2009) as Choleoeimeria pogonae comb. nov. (Apicomplexa: Eimeriidae).Parasitology Research.2016
- Stöhr A et al.Choleoeimeria spp. Prevalence in Captive Reptiles in Germany and a New Treatment Option in a Lawson’s Dragon (Pogona henrylawsoni). Journal of Herpetological Medicine and Surgery31(1):16-20.2021
- Walde M et al.Pathogenesis of Isospora amphiboluri in Bearded Dragons (Pogona vitticeps).Animals (Basel)Animals 8;11(2):438.2021
- Walden MR.Characterizing the epidemiology of Isospora amphiboluri in captive
189 bearded dragons (Pogona Vitticeps).Ph.D. thesis Louisiana State University.
190 LSU Doctoral Dissertations, Baton Rouge, etd-05292009-214931.2009 - Walden M et al.Evaluation of Three Treatment Modalities against Isospora amphiboluri in Inland Bearded Dragons (Pogona vitticeps).Journal of Exotic Pet Medicine 21(3):213–218.2012
- Stöhr AC et al.Choleoeimeria spp. Prevalence in Captive Reptiles in Germany and a New Treatment Option in a Lawson’s Dragon (Pogona henrylawsoni).J. of Herpetological Medicine and Surgery30(4):261-269.2021
