エリザベスカラー
手術や皮膚疾患で、体に傷を負った際に動物が傷を舐めないようにするために、円錐形の保護するものです。略してエリカラとも呼ばれます。エリザベスカラーという名前の由来は、16世紀のイギリスのエリザベス王朝時代の衣服で使われた襞襟に似ているからです。この装置は通常、そのまま首に装着するか、あるいはプラスチックの側面に開けられた穴に紐を通して動物の首輪に取り付けられます。ほとんどの動物はこれにかなり順応しますが、首輪を付けたまま食べたり飲んだりしないペットもいます。専用のカラーの商品以外にお手製で作成することもできます。最近の首輪は、快適性を高めるために縁に柔らかい布のトリムが付いていたり、脱着しやすいように着脱しやすいようにマジックテープがつていいます。

ウサギの装着
身体に負った傷を刺激したり、自分で毛づくろいをする際に手術の縫合糸を外したり、心因性脱毛や自傷などの習慣を抑制するために使用されす。また、静脈点滴のために管を装着したウサギの水から管を外すことを抑制するためにも使用できます。ウサギの消化器系は、常時摂取と盲腸発酵、そして盲腸便摂取という特異なリサイクルシステムに依存しており、エリザベスカラーの使用は、採食や飲水が上手くできないこと以外にも、ウサギが盲腸栄養物を食べるのを防ぐこともできます。盲腸栄養物は、アミノ酸とビタミンが豊富で、最適な栄養と創傷治癒に不可欠です。そして、ウサギの視覚・聴覚・触覚の感覚入力を変容させることで、強度な心理的ストレスを誘発します〔Harcourt-Brown 2009〕。また、エリザベスカラーを装着したウサギはパニックに陥ったり、ストレスにより食欲不振になったりすることがあります。カラーを装着したウサギでは、血糖値の大幅な上昇が認められています〔Knudtzon 1988〕。
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問題点
- ストレスやパニックになる
- 餌が食べにくい
- 水が飲みにくい
- 食糞ができなくなる
- 盲腸便がお尻にくっ付いて汚れる
カラーの種類
ウサギに使用されるエリザベスカラーは、歴史的には段ボールやX線フィルムを加工して自作されていましたが、現在は多種多様な既製品が流通しています。それぞれの材質と形状には明確なメリットとデメリットが存在し、症例のニーズに合わせて選択する必要があるでしょう。一般的にはハードタイプとソフトタイプに分けられます。サイズも体の大きさに合わせますが、もし肛門や臀部の患部をかんだり、なめたりしようにするなら大きめのカラーを使わないと口が届いてしまいます。
硬質プラスチック製カラー
ポリプロピレンやポリエチレンなどの硬質プラスチックシートを円錐状(コーン状)に形成するタイプです。透明、半透明、または不透明なプラスチック製で、多くの獣医用製品は、視界を確保するために透明な素材を採用しています。
メリット
最も高い防護能力を持ち、ウサギがカラーを押し曲げたり、破壊したりすることは困難であり、患部へのアクセスを確実に遮断できます。眼科手術後や、執拗な自傷行動が見られる場合には唯一の選択肢となることが多いです。プラスチック表面は非吸水性であるため、汚染物の拭き取りや消毒が容易で、餌や盲腸便が付着しても清潔を保ちやすいです。
デメリット
剛性が高いため、壁や床、ケージの格子に接触した際の衝撃が直接首に伝わります。また、環境音が増幅されて聞こえる(パラボラ効果)ため、聴覚過敏なウサギには大きなストレスとなります。硬い縁が床や食器に当たり、自力での採食や給水ボトルからの飲水を著しく困難にもします。
ソフトタイプ・カラー
ナイロン、ポリエステル、発泡素材、不織布、あるいは綿などの柔軟な素材で作られたカラーです。柔軟性がありながら軽量で、一部の製品は、ウサギ用に特化したサイズ展開をしています。
メリット
柔軟性があるため、ウサギが横になったり休んだりする際に形状が変化し、寝心地を妨げにくいです。壁にぶつかっても衝撃が少なく、音もしないため、精神的なストレスが軽減されます。カラーが柔軟に変形するため、食器へのアクセスが硬質カラーよりも容易な場合があります。
デメリット
柔軟であるがゆえに、ウサギがカラーを裏返したり、押しつぶして患部に口を届かせたりすることが可能です。特に、眼の保護や、顔面の手術創の保護には不適当とされています。布製カラーは通気性が悪い場合があり、また吸水性があるため、飲水や尿、盲腸便で濡れると不衛生になりやすく、皮膚炎の原因となるリスクがあります。
赤ちゃんのよだれ掛けのように胸の部分だけを隠す布製のカラーもあり、全周をカバーするのではないので、気にしないウサギが意外と多いです。意外とこのカラーを装着しただけでも患部を気にしなくなるウサギが多いです。しかし、カラーをかんで外したり、布を食べてしまうウサギもいるため、注意しましょう。


カップ麺カラー
カップ麺に穴を開けて自作するハードタイプのカラーです。ウサギにとって軽くて違和感もなく、自然に生活できるケースが多いです。耳を通す穴も別に開けると、さらにカラーも外れにくくなります。

餌が食べやすいように、カップの下の口の当たりは、少し切ってあげると良いですが、切り過ぎると口が届いてカラーの意味が無くなってしまいます。カラーをかじって崩壊するウサギもいますので、注意して下さい。

カラーのサイズ
不適切なサイズのカラーは、ウサギにパニックを引き起こし、顎がカラーに挟まる、前肢が中に入る、あるいは呼吸困難や眼球突出を招くなどの重大な事故につながります。適切なフィッティングには、首周りとカラーの深さの調整が必要となります。カラーの首輪部分とウサギの首の間には、指が1本(小型種)〜2本(大型種)入る程度のゆとりを持たせます。緩すぎると前肢が抜け出してカラーがたすき掛けの状態になり、窒息事故の原因となる。きつすぎると頸静脈を圧迫し、眼圧上昇や呼吸阻害を引き起こします。カラーの先端(外縁)は、ウサギの鼻先よりもわずかに長くあるべきです。鼻先がカラーから突出していると、体の柔軟なウサギは容易に患部(特に尾部や後肢)に到達してしまいます。逆に長すぎると、食器へのアクセスが完全に遮断され、床に鼻をつけることもできなくなります。
| ウサギのサイズ | 体重 | 首周り | カラーの深さ | 推奨製品サイズ |
| 超小型・幼若 | < 1.0kg | 10~14cm | 5.0~7.5cm | XS, 7.5cm |
| 小型 (ネザーランド等) | 1.0~2.0kg | 13~16cm | 7.5~10.0cm | S, 10cm |
| 中型 (ロップ等) | 2.0~3.5kg | 22~25cm | 10.0~12.5cm | M, 12.5cm |
| 大型 (レックス等) | 3.5~5.0kg | 25~30 cm | 12.5~15.0cm | L, 15cm |
| 超大型 (フレミッシュ等) | > 5.0 kg | > 30cm | 15.0~20.0cm | XL, 20cm |
カラー装着下の看護管理
エリザベスカラーの装着した場合、ウサギに対して餌や飲水対策、食糞対策、ブラッシング、ストレスならびに環境対策を行います。
採餌飲水対策
エリザベスカラーを装着していると深いボウルは使用できなくなるため、平皿を使用するか、野菜や牧草を少し高い位置(ヘイラックなど)に設置し、カラーが床に当たらずに食べられるよう工夫します。食べやすいように高つきの皿を使用するとよいです。場合によっては、飼い主が手で持って与えるハンドフィーディングが必要となることもあります。食欲が低下している場合、またはカラーが邪魔で十分に食べられない場合は、流動食のシリンジ給餌を行います。

食糞対策
最初に盲腸便がカラーによって食べれずに床に落ちているはずなので、それをウサギの口元に持っていって下さい。自ら口にするようであれば理想です。口にしない場合は、盲腸便の栄養を代わりにとらせるしかありません。主な栄養はアミノ酸とビタミンBなります。

アミノ酸対策
アミノ酸はタンパク質を構成するものですが、お肉やプロテインを与えるのではなく、良質なアミノ酸が豊富なマメ科の牧草 (アルファルファやクローバー) やアルファルファが主原料であるペレットが与えてください。今のエサに適当に加える程度でも構いません。
ビタミンB対策
ビタミンBを摂取させるにはサプリメントが最も効果的です。以下のビタミンサプリメントは動物病院用なのでお勧めです。甘いのでとても扱いやすいです。直接飲ませたり、ペレットに染み込ませたり、水入れ混ぜてもよいです。
ブラッシング
摂取されない盲腸便は肛門周囲に付着するため、温湯で湿らせたガーゼ等で清拭し、皮膚炎を予防します。自ら毛づくろいもできないので、毛並みが悪くなります。ブラッシングは毎日行って下さい。
ストレス対策
カラーすること自体がストレスですが、それ以外のことでストレスを与えないようにしてください。ケージから出してのへやんぽ等はいつもと同じに行い、玩具も可能な物を選んで与えてください。
環境対策・カラーフリー時間
カラーの幅を考慮し、ケージの出入り口を広くする、トンネルやハウスなどの障害物を撤去する、トイレの縁を低くするなどの対策を行います。 創傷の治癒や神経の回復に伴い、監視下で一時的にカラーを外すカラーフリー時間(off-collar time)を設け、グルーミングや盲腸便摂取を行わせることも行います。徐々に装着時間を減らし、完全に離脱する計画を立てます。
これがポイント
- ウサギはエリザベスカラーを嫌がる
- 傷に口が届かない大きさでないと意味がない
- カラーはソフトタイプとハードタイプがある
- ソフトタイプにはよだれ掛けタイプ、ハードタイプにはカップ麺タイプがあり、意外と好評
- 餌や水が口にできるかを確認
- 食糞対策をする
エリザベスカラーの装着を避けるために、外科手術における縫合で、皮下埋没縫合や外科用ステープルの使用などの工夫を優先することもあります〔Dobbins 2000〕。それでもウサギは患部を舐めることが多いです、また、ウサギ用の術後服も一部では販売されています。
まとめ
ウサギにおけるエリザベスカラーの使用は、解剖学的および生理学的特性、特に盲腸便摂取システムとストレスに対する脆弱性を考慮すると、極めて慎重な判断を要する医療介入です。エリザベスカラーは眼科手術や重度の自傷行為などにおいては不可欠な防御手段ですが、その副作用として消化管うっ滞、栄養障害、精神的苦痛を引き起こすリスクが高いです。獣医師は、カラーの装着という物理的処置単独で完結させるのではなく、以下の包括的なアプローチを採用すべきです。
- 適応の厳格化と代替案の優先: 可能な限り術後服(MPS)や、埋没縫合などの外科的工夫によってEカラーの使用を回避できるかもしれません。
- 適切なデバイス選択: 必要な場合は、ウサギの体格に合った適切なサイズと、可能な限りストレスの少ない材質(眼科以外でのソフトカラーの使用など)を選択します。
- 集学的管理の実践: Eカラー装着時は、鎮痛剤・運動促進剤の投与、盲腸便の補助給餌、食事介助、環境修正をセットにした「集中ケア」プロトコルを適用します。
この多面的なアプローチによってのみ、ウサギの福祉(Welfare)を損なうことなく、治療目的である患部の保護と全身状態の維持を両立させることが可能となります。
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参考文献
- Dobbins RM.The use of staples for skin closure following elective ovariohysterectomies in pet rabbits.Clinical Research Abstract.BSAVA Congress irmingham.2000
- Harcourt-Brown F.The rabbit consultation and clinical techniques.In Textbook of Rabbit Medicine:52–93.2009
- Knudtzon J.Plasma levels of glucagon,insulin,glucose and free fatty acids in rabbits during laboratory handling procedures.Z.Versuchstierk26:123-133.1988
