【病気】ウサギのバーバリング(心因性脱毛)/自咬症

定義

ウサギが被毛や皮膚を舐めたり、かんだり(バーバリング:Barbering)、抜いたり(ヘアーリング:Hair pulling)するような行為が見られます。これはストレスにおける異常行動の一つで、生活の中で何らかのストレスがある証拠です。

原因

原因は単一ではなく、多因子性であることが一般的です。遺伝的要因による脱毛や自咬もあり得ます〔Iglauer et al.1995〕。

食餌性要因(繊維質不足)

最も一般的な原因の一つで牧草(チモシーなど)の給餌量が不足し、ペレット主体の食餌になっている場合、咀嚼の欲求を満たすために被毛を齧ることがあります〔Meredith et al.2014〕。

環境ストレス(退屈)

ケージが狭い、隠れる場所がない、運動不足などのストレスが引き金となります〔Quesenberry et al.2020〕。同居ウサギとの不仲(あるいは単独飼育による孤独)、騒音、ケージの周りに嫌いな物があることもストレスになります。

疼痛

皮膚病変がなくても、関節炎、尿石症、歯科疾患などの深部痛がある場合、その部位または関連痛のある部位を執拗に舐めたり、かじったりして脱毛することがあります〔Harcourt-Brown 2002,Beyers et al.1991〕

内分泌・繁殖関連

偽妊娠のメスウサギは、巣作りのために自分の腹部や胸部の毛をむしることがあります。これは生理的な行動ですが、過度な場合は病的な脱毛となります。オスはマスターベーションとして玩具や人の足にしがみついて腰を振ります。

好発箇所

症状は口の届く範囲、つまり脇腹、腹部、四肢や趾、肉垂などに起こりやすいです。

症状

被毛をかんだり、かじったりするので、切断された被毛や脱毛が見られます。

毛が濡れているだけのこともあります。

ウサギ皮膚病

自咬症・自傷では、自分の皮膚を咬んで傷つけて出血が起こり、炎症にまで波及します。

肉垂の自傷は、特に肥満個体では口元に胸垂が近いこと、退屈な環境により発生しやすいです。

ウサギ自咬

診断アプローチ

心因性脱毛は「除外診断」によって確定されます。皮膚掻爬試験(Skin scraping)やテープストリップ法により、ウサギズツキダニ(Cheyletiella parasitovorax)やキュウセンヒゼンダニ(Psoroptes cuniculi)を除外します。真菌培養により皮膚糸状菌症を除外します。抜毛した毛を顕微鏡で観察します。心因性(自己グルーミング)の場合、毛幹が鋭利に破断されている(折れている)像が確認できます。一方、自然な脱毛や内分泌性脱毛では、毛根が休止期の状態であったり、毛先が尖っていたりします。X線検査や触診により、関節炎や脊椎疾患、尿路結石などの潜在的な疼痛源がないかを確認します。

治療と対策

治療の中心は、薬物療法ではなくストレスなどの環境改善です。ストレスの原因を見つけることはとても難しく、多くは特定できません。飼育環境の見直しをすることが最優先ですが、採食や環境、社会的エンリッチメントをしっかりと考えて下さい。

ウサギ毛づくろい

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エンリッチメント整備

採食エンリッチメント(牧草とフォージング)

ウサギにとって最大のストレス要因の一つは「採食時間の短縮」です。野生下では活動時間の多くを草を食むことに費やしますが、ペレット給餌のみでは短時間で満腹になり、余った時間が自傷行為に向けられます。Lidfors (1997) の研究では、単独飼育のウサギに対して牧草を与えた群と与えなかった群を比較しました。牧草を与えられたウサギは、与えられなかったウサギと比較して、過剰なグルーミング(自分の毛を舐める・むしる)やケージを齧るといった常同行動が有意に減少しました。牧草は単なる栄養源ではなく、齧りたいという欲求を満たす行動学的はけ口として機能し、心因性脱毛の予防・治療に最も効果的なエンリッチメントになります〔Lidfors 1997〕。

環境エンリッチメント

ウサギは被食者(捕食される側)であるため、隠れる場所がないことは強い不安と慢性ストレスを引き起こします。Hansen & Berthelsen (2000) は、実験用ウサギのケージに「隠れ家(ボックス)」と「かじり木」を導入し、行動変化を観察しました。隠れ家を設置されたウサギは、設置されていないウサギに比べて落ち着きのなさが有意に減少し、休息行動が増加しました。また、かじり木があることで、ケージのワイヤーを齧る頻度が減少しました。考察: 隠れ家による安全性の確保は、不安に起因する過剰グルーミング(心因性脱毛の一因)を緩和する生理的効果があります〔Hansen et al.2000〕。また、ウサギはかなり運動する動物ですが、ケージが狭い、部屋にも出してもらわえない、例え出しても十分な運動時間がないことが原因になります。

ウサギ

社会的エンリッチメント(ペア飼育)

ウサギは社会的な動物であり、単独飼育自体がストレス因子となり得ます。ただし、不適切なペアリングは闘争による怪我のリスクがあるため慎重に行う必要があります。 Chu et al. (2004) および Seaman et al. (2008) らの研究では、ペア飼育されているウサギと単独飼育のウサギの行動と選好性を比較しました。ウサギは食餌や広いスペースよりも他個体との接触(社会的相互作用)を優先して選択する傾向(モチベーションテストによる評価)が確認されました。また、ペア飼育されたウサギは、単独飼育個体に比べて異常行動の発現率が低いことが示されています。心因性脱毛が孤独によるストレスに起因する場合、避妊・去勢済みの相性の良い個体との同居が、最も強力なエンリッチメントとなる可能性があります〔Seaman et al.2008〕。

避妊・去勢手術

発情が原因として最も怪しい時は、避妊手術・去勢手術をすることで治まるかもしれません。

【治療】ウサギの避妊手術・去勢手術の解説はコチラ

エリザベスカラー装着

病気が原因の可能性があるか、動物病院で確認して下さい。病気の可能性が低い場合は飼育環境の見直しと脱毛やかんだ傷をそれ以上ひどくしないように、一時的にエリザベスカラーをします。

ウサギ脱毛

カラー前

ウサギ脱毛改善

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根本的な原因を探ることが重要ですが、見つからないことが多いです。環境要因の見直しとして、以下のことをしてみて下さい。

まとめ

原因はウサギに聞かないと分かりません。焦らずにじっくりとウサギと相談しながら、環境の見直しを一つ一つ行って、その反応を観察して下さい。

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参考文献

Hansen LT,Berthelsen H.The effect of environmental enrichment on the behaviour of caged rabbits.Applied Animal Behaviour Science, 68(2): 63-178.2000

Lidfors L.Behavioural effects of environmental enrichment for individually caged rabbits.Applied Animal Behaviour Science52(1-2):157-169.1997

Meredith A,Lord B eds.BSAVA Manual of Rabbit Medicine.BSAVA.2014

Quesenberry KE,Carpenter JW.Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery.4th ed. Elsevier.2020

Harcourt-Brown, F. (2002). Textbook of Rabbit Medicine. Butterworth-Heinemann.

Seaman SC et al.Animal economics: assessing the value of enrichment for laboratory rabbits.Animal Behaviour75:335-342.2008

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。