ウサギの尿検査の臨床的価値
ウサギの臨床において、尿検査は最小データベーの不可欠な要素で、腎臓や泌尿器系の疾患のみならず、全身性の代謝異常や内分泌疾患を評価するための強力な診断ツールです 。ウサギはイヌやネコなどの他の伴侶動物とは異なる独自のカルシウム代謝系を有しており、その代謝産物が直接的に尿の性状に反映されるため、検査結果の解釈には高度な専門的知見が求められます。
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腎不全は特に高齢のウサギにおいて多発する病態であり、慢性間質性腎炎は細菌感染、ウイルス感染、あるいはEncephalitozoon cuniculiなどの寄生虫感染によって引き起こされることが一般的です。しかし、初期の腎機能低下は臨床症状が極めて微妙であり、体重減少や活動性の低下、飲水量の変化といった非特異的な徴候に留まることが多いのが現状です。血清生化学検査におけるクレアチニン(CRE)や尿素窒素(BUN)の上昇は、機能的なネフロンの75%以上が消失した後に初めて顕著となるため、早期診断のためには尿比重(USG)、尿蛋白、および尿沈査の精密な定性的・定量的評価が鍵となります。
本報告書では、ウサギの尿検査における各検査項目の獣医学的解釈、沈査分析の技術的詳細、および臨床現場での鑑別診断に役立つ実践的なコツについて、最新の文献的知見に基づき詳述します。
採尿
ウサギの採尿の方法は自然排尿、膀胱圧迫排尿、カテーテル採尿、膀胱穿刺採尿などの方法がとられています。
自然排尿
ウサギにとって最もストレスが少ない方法です 。清潔なトイレに吸収性のない砂や裏返したペットシーツを敷いて採尿します。排尿中に容器を差し出す方法もありますが、デリケートなウサギは排尿をやめてしまうことがあります。この方法は糞便、細菌、残屑による汚染を受けやすく、微生物検査(細菌培養)には向きません。

膀胱圧迫排尿
経験豊富な獣医師が穏やかに行えば、良質なサンプルが得られる非侵襲的な方法です。しかし、過度な圧迫や尿道閉塞がある場合には、膀胱破裂のリスクを伴います。

カテーテル採尿
特にオスのウサギにおいて、培養および分析のための優れたサンプルを提供する無菌的な手技です。メスのウサギでは、尿道口が膣床に位置するため、技術的に難易度が高いです。外傷を避けるためには、熟練した技術と適切な潤滑が必要です。
膀胱穿刺採尿
細菌培養のための無菌サンプルを得るためのゴールドスタンダードで、超音波ガイド下で経皮的に膀胱に針を穿刺して尿を採取します〔Jalal et al.2013〕。
放置された尿サンプルの信頼性と保存の影響
尿は非常に動的なバイオ流体であり、採尿後の時間の経過とともにその診断的価値は急速に減退します。採尿から 30~60分以上経過したサンプルでは、以下の変化が進行します〔Parrah 2013〕 。
pH の上昇: 二酸化炭素の揮散や、ウレアーゼ産生菌によるアンモニア生成により、もともとアルカリ性のウサギ尿はさらにアルカリ化が進みます。これにより、円柱や細胞の溶解が加速されます。
細菌の増殖: 外部からの汚染菌が室温で急速に増殖し、真の感染かどうかの判別が困難になります 。
結晶の人工的形成: 温度変化により、生体内には存在しなかった炭酸カルシウムやストルバイトの結晶が新たに析出し、病的な結晶尿(Crystalluria)との区別がつかなくなります 。
化学項目の劣化: ビリルビンやケトン体は光や空気への露出により分解され、偽陰性となります 。
適切な保存と運搬
どうしても即時の検査が不可能な場合は、冷蔵して保管します。一般的に4℃が理想ですが、細菌増殖と細胞崩壊を遅らせることができますが、4~12時間が限界です。 冷蔵保存した尿は、検査前に必ず室温(20~25℃)に戻す必要があります。冷えたままの尿は、比重を偽高値にし、結晶のアーティファクトを増加させ、試験紙の酵素反応を阻害するためです。 滅菌された、遮光性の高い、密閉可能な容器を使用します。プラスチックチューブは微細な結晶アーティファクトを導入し、沈査検査に干渉することがあるため、可能な限りガラス製容器が推奨されます。

尿量
ウサギの尿量は、その個体の代謝率、環境温度、食事内容、および飲水量によって劇的に変動します。ウサギは比較的多飲な動物であり、正常な飲水量は 50~150mL/kg/日とされています〔Harcourt-Brown 2009〕。 ウサギが産生する1日あたりの尿量は、20~250mL/kgという極めて広い正常範囲を持ちますが、平均的な維持尿量は約130mL/kg/日と報告されています〔Harcourt-Brown 2009〕 。大型種ではさらに幅が広く、20~350mL/kg/日に達することもあります〔Hoefer 2001〕。
尿量の変化に伴う病態
多尿(Polyuria: PU)は、多飲(Polydipsia: PD)と密接に関連しており、腎不全、糖尿病、副腎皮質機能亢進症、あるいは肝不全などの全身性疾患の兆候である可能性があります。一方で、乏尿(Oliguria)や無尿(Anuria)は、重度の脱水、末期腎不全による濾過機能の喪失、または結石やスラッジによる尿路閉塞を示唆する緊急事態です 。ウサギはストレス下で腎血流量が容易に減少するため、環境変化による排尿行動の抑制にも注意を払う必要があります。
色彩
ウサギの尿の物理的外観は、飼い主が異常を訴えて来院する最も一般的な理由の一つですが、その多くは生理的な変動範囲内です。正常なウサギの尿の色は、淡黄色から琥珀色、さらにはオレンジ色、赤色、褐色まで多様な変化を示します 。この色彩の変化は、主に食事由来の植物色素(ウロクロム、ポルフィリン、カロテンなど)の排泄量に起因します 。特に、キャベツ、ブロッコリー、タンポポ、ニンジン、ホウレンソウなどの野菜を与えている場合や、松葉などを摂取した場合に赤色尿が誘発されることが知られています。 一部のポルフィリン色素は、ウッド灯(ピーク波長 365 nm)の下でサンゴ赤色やピンク色の蛍光を発し、暗所で尿にウッド灯を当て、蛍光が認められれば色素尿の可能性が高まります。

透明度
健康なウサギの尿は、排泄直後であっても通常は混濁しています。これは、ウサギが食事中のカルシウムを効率的に吸収し、余剰分を炭酸カルシウムの結晶として尿中に排泄するためです。炭酸カルシウムが豊富に含まれるため、乳白色からベージュ色の混濁を呈します。乾燥すると白い粉末状(チョーク状)の跡が残るのが特徴です。逆に、尿が常に完全に透明である場合は、カルシウム摂取不足、あるいは腎臓の排泄機能不全を示唆している可能性があるため、沈査の確認が必要です。 尿がペースト状や歯磨き粉のような粘稠度を持つ場合、これはスラッジ(Sludge)と呼ばれ、膀胱炎、尿石症、あるいは排尿困難の原因となります。


尿比重(USG)
尿比重は、腎臓の尿細管における濃縮および希釈能力を評価するための物理的指標です。屈折計を用いて測定することが標準であり、試験紙法は信頼性に欠けるため使用すべきではありません。ウサギの尿比重は1.003~1.036と非常に広い基準範囲を持つことが知られており、平均的には1.016前後です。近年の研究では、健康な個体群において1.010~1.057という範囲も報告されています〔Sze-Yu et al.2025〕 。イヌ(>1.030)やネコ(>1.035)と比較して、ウサギは常に高度に濃縮された尿を作るわけではないという生理的特性を理解しておくことが重要です。

なお、尿中の蛋白(1g/dLごとに比重が約 0.003上昇)やブドウ糖(1g/dLごとに比重が約0.004-0.005上昇)は、比重計の読みを偽高値にするため、解釈時に補正を考慮する必要があります。
尿試験紙検査
尿試験紙は簡便な化学分析ツールですが、ウサギの尿の化学的特性(強アルカリ性、高結晶性、色素含有)を考慮しないと誤診を招く恐れがあります。しかし、生理的なポルフィリン尿であると、色彩的に鮮血などが陽性を示すことがあり、尿色が赤褐色であると色反応の判定がつきにくくなることが欠点です。
pH
ウサギは草食動物であり、その尿pHは通常8.0~9.0の強いアルカリ性を示します(平均 8.2) 。 酸性尿 (<7.0)は、 代謝性アシドーシス、飢餓(拒食)、発熱、重度の下痢、あるいは肉食に近い高蛋白食を摂取している場合に認められます。 尿 pH は沈査中の有形成分(細胞、円柱)の安定性に大きく影響します。アルカリ性尿中では赤血球や白血球、円柱が急速に溶解するため、pH が高いサンプルの沈査検査は陰性であっても疾患を否定できません。
尿蛋白
ウサギの尿試験紙における蛋白反応は、テトラブロモフェノールブルーという指示薬がアルブミンと結合する原理に基づいています。 若いウサギや一部の健康な成体では、微量の蛋白が検出されることがあります(生理的蛋白尿)〔Sze-Yu et al.2025〕 。尿pHが9.0を超える場合、指示薬自体が反応してしまい、実際には蛋白がなくても陽性(偽陽性)となることが多々あります。また、クロルヘキシジンなどの消毒薬の混入も偽陽性を引き起こしますので注意してください。比重が低い(希釈尿)にもかかわらず蛋白が陽性である場合は、真の蛋白尿である可能性が高く、尿蛋白クレアチニン比(UPC)による精密検査が推奨されます。
尿糖
通常、健康なウサギの尿糖は陰性です。しかし、ウサギはストレスに対して極めて敏感であり、診察時の拘束や痛みによりカテコールアミンが放出され、血糖値が腎閾値を一時的に超えることで尿糖が出現することがあります。持続性糖尿: 糖尿病(Diabetes Mellitus)が疑われますが、ウサギでの発生頻度はイヌ・ネコほど高くありません。
ケトン体
ケトン尿は、脂質代謝の亢進を示唆します。糖尿病性ケトアシドーシスのほか、ウサギでは拒食や飢餓により数日間食事を摂っていない場合に肝リピドーシスも併発して、陽性となります 。また、妊娠中毒症に関連して認められることもあります。
潜血
試験紙の鮮血パッドは過酸化水素様の活性に反応し、赤血球(RBC)、ヘモグロビン(Hb)、ミオグロビンのすべてに感度を持ちます。指示薬上で斑点状に発色する場合、これは無傷の赤血球(血尿)の存在を示唆します。溶血によるヘモグロビン尿、あるいは筋肉損傷によるミオグロビン尿が考えられます。ウサギの色素尿(ポルフィリン尿)との差別化には、沈査での赤血球の確認が不可欠です。
尿沈査の顕微鏡検査
ウサギの尿は沈殿物が非常に多いため、適切な手順で処理を行わないと、重要な細胞成分を見落とす危険性があります。正確な沈査検査のためには、採尿後できるだけ新鮮な状態(30 分以内)で検査を開始することが理想的です。 よく攪拌した尿5mL(検体が少ない場合は1mL程度でも可)を遠心管に移し、1,500~2,000rpmで3~5分間遠心します。過度な回転速度は細胞や円柱を破壊するため注意が必要です。 遠心後、管を反転させて上清を捨てます。ウサギの尿は結晶が多いため沈殿の塊が強固に形成されますが、上清を0.5mLほど残し、再浮遊の溶媒として利用します。沈査を軽く指で叩いて均一に混ぜ、スライドガラスに1滴滴下し、カバーガラスを載せます。ウサギの尿沈査は、炭酸カルシウムの結晶で視野が埋め尽くされることがしばしばあります。
赤血球
正常では高倍率1視野(HPF)あたり5個未満です。これを超える場合は血尿(Hematuria)と定義されます。原因には、感染、結石による機械的損傷、外傷、腫瘍(移行上皮癌など)、あるいは非避妊メスでの子宮疾患(子宮腺癌、内膜増殖症)が含まれます。
白血球
正常では5個/HPF未満です。増加は、尿路感染症や無菌的な炎症(結石による刺激)を示唆します 。細菌が同時に見られない場合でも、腎盂腎炎などの上部尿路感染を否定することはできません。
上皮細胞
扁平上皮細胞
最も大きく、不規則な形をしています。遠位尿道や生殖器、あるいは採尿時の環境(床など)からの混入物であり、臨床的意義は限定的です。
移行上皮細胞
腎盂、尿管、膀胱、近位尿道に由来します。少数であれば正常ですが、塊状(Clusters)で出現したり、異型性(大きな核、多核)を示したりする場合は、移行上皮癌などの悪性腫瘍を強く疑います 。
腎尿細管上皮細胞
WBC よりわずかに大きく、丸い核を持ちます。これが認められる場合は、急性尿細管壊死(ATN)などの直接的な腎実質損傷の強力な証拠となります 。
結晶
ウサギの尿において、結晶の存在自体は必ずしも病態を意味しません。
炭酸カルシウム
ウサギの尿に特徴的な結晶で、球状(砂時計様、ダンベル様)で放射状の線条を持つ形態が典型的です。アルカリ性尿で大量に出現し、尿に白濁を与えます。
ストロバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)
棺桶の蓋状の形態をとり、ウレアーゼ産生菌(Staphylococcus 等)による尿路感染症に伴って形成されることがあります。

尿円柱
尿円柱は腎尿細管内で凝固した蛋白(タンム・ホースフォール粘蛋白)の鋳型であり、その出現は「腎実質内の障害」を直接的に示す極めて重要な所見です。ウサギにおいて、顆粒円柱や上皮円柱、あるいは蝋様円柱が1つでも見つかった場合、それは一時的な腎前性要因を超えた実質的な腎障害が進行していることを意味します 。特に等張尿とこれらの円柱が併せて認められる場合は、慢性腎不全や急性尿細管壊死の確定診断に向けた重要な根拠となります。


尿培養および感受性試験
膀胱穿刺により採取された無菌的な尿を用いて実施します 。
尿蛋白クレアチニン比(UPC)とバイオマーカー
従来の項目では不十分な場合、以下の高度な尿指標が早期腎疾患の検出に役立ちます。
尿蛋白クレアチニン比(UPC Ratio)
UPC は尿の濃縮度に左右されずに蛋白排泄量を評価できるため、ウサギの腎不全管理において極めて有用です 。 健康なウサギでは 0.11~0.40です。0.45 以上、特に1.0を超える値は、糸球体性または重度の尿細管性蛋白尿を示唆します〔Gallego-Agundez et al.2021〕。 潜血や明らかな膿尿がある場合、蛋白レベルがこれらに影響されるため、UPC の解釈は沈査が不活性である場合に限るべきです。
尿中 γ-グルタミルトランスフェラーゼ(uGGT)指数
uGGT 指数(uGGT / uCRE)は、尿細管損傷の早期マーカーとして注目されています。腎尿細管の刷子縁に局在する酵素であり、細胞が損傷を受けると血清中ではなく直接尿中へ放出されます。健康個体では 0.043~1.034とされています〔Gallego-Agundez et al.2021〕。 腎疾患を持つウサギではこの指数が有意に上昇することが示されており、アゾテミアが出現する前の潜在的な腎損傷をキャッチするためのツールとして期待されています。
結論
ウサギの尿検査は、単なる色や試験紙の結果に依存するのではなく、生理学的な特異性を踏まえた多角的な視点から解釈されるべきです。強アルカリ性尿による細胞成分の脆弱性、ポルフィリンによる色の変化、そして炭酸カルシウムの生理的排泄という三つの大きな柱を理解することが、診断ミスを防ぐための第一歩です。臨床医は、新鮮なサンプルを確保し、適切な遠心条件下で沈査を作製し、尿比重と併せて円柱や異常細胞を緻密に検索する姿勢が求められます。
参考文献
- Gallego-Agundez M et al.Evaluation of urine dipstick for proteinuria assessment in pet rabbits.Veterinary Record188(11).2021
- Harcourt-Brown F.The rabbit consultation and clinical techniques.Textbook of Rabbit Medicine:52–93.2009
- Hoefer HL.Small Mammal Behavior.Atlantic Coast Veterinary Conference 2001
- Jalal P et al.Importance of urinalysis in veterinary practice – A review.Veterinary World 6(9):640-646.2013
- Parrah J.Importance of urinalysis in veterinary practice – A review.Veterinary World 6(9):640-646.2013
- Sze-Yu Y et al.Urinary chemistry in healthy cross-bred pet rabbits (Oryctolagus cuniculus) and rabbits with suspected chronic kidney disease.Translational Animal Science9.2025
