背景
陸ガメにおいて、尿酸の膀胱結石が一般的に発生します。統計的にはケヅメリクガメやインドホシガメにおいて、他の種よりも結石形成のリスクが有意に高いことが判明しています。
総排泄孔および泌尿器の解剖
治療的アプローチ、特に総排泄孔を通じた処置を検討する際には、陸亀の複雑な下部尿路および総排泄孔の解剖学的区分を詳細に理解することが不可欠です。総排泄孔は、消化管、泌尿器、および生殖器の共通の出口であり、近位から遠位にかけて3つの主要な領域に分けられます。第一の領域である糞路は、大腸(結腸)が終末する部分で、糞便の貯留を行います。第二の領域である尿路は、解剖学的に最も複雑であり、輸尿管、輸精管(雄)、または輸卵管(雌)が開口します。膀胱への入り口である尿道口もこの尿路の腹側に位置しています。第三の領域である肛門路は、最も外側に位置し、陰茎や核などの生殖器官を収容するとともに、すべての排泄物が通過する最終経路となります。陸ガメの膀胱は、非常に拡張性に富んだ筋肉質の嚢状器官であり、個体の全体重の約30%に相当する水分を保持できることがあります。解剖学的には二葉を呈することが一般的ですが、その壁は驚くほど薄く透明であり、内視鏡(膀胱鏡)を用いた際には、膀胱壁越しに肝臓、消化管、生殖腺などの腹腔内器官を観察することも可能です〔Girolamo et al.2015〕。
結石の閉塞
膀胱内で成長した結石は、個体の歩行や膀胱の収縮によって移動します。結石が小さいうちは排泄が可能ですが、結石の直径が総排泄孔の骨盤狭窄部を超えると、排出が不可能となります 。特に結石が膀胱から尿路、さらには骨盤腔へと移動して嵌頓した場合、消化管を物理的に圧迫して排便困難を引き起こしたり、尿管を閉塞させて無尿や腎不全を招いたりします。このような閉塞状態は緊急性が高く、放置すれば窒素血症、高カリウム血症、そして最終的には多臓器不全による死を招くことになります。したがって、結石の物理的な摘出は単なる症状の緩和ではなく、個体の生命を維持するための必須処置となります。臨床症状は非特異的であることが多く、元気消失、食欲不振、後肢の跛行、排泄時の過度な努責などが観察されます〔Rickyawan et al.2025〕 。
画像診断
X線検査は、陸ガメの膀胱結石を診断するための第一選択肢です。尿酸結石の多くは放射線不透過性を示し、甲羅の陰影と重なりながらも、その層状構造を可視化することができます。診断の精度を高めるためには、背腹像、側方像、および頭尾像の3方向からの撮影が推奨されます。これにより、結石が膀胱内に浮遊しているのか、あるいは骨盤腔に嵌頓しているのかを判別します。CTは甲羅による画像への干渉を排除し、結石の 3 次元的な位置関係や、周囲の軟部組織への影響(膀胱壁の肥厚や癒着など)を極めて正確に描写します。
総排泄孔を通じた砕石処置
膀胱結石の摘出において、総排泄孔を通じたアプローチ)は、甲羅を損傷させない最も低侵襲な手法として位置づけられています。伝統的な甲羅切開術は、甲羅の骨をドリルで切り抜くため、術後の回復に数ヶ月から数年を要し、また切開部位の感染や骨不癒合といった重篤なリスクを伴います。これに対し、経総排泄孔的処置は、自然な開口部を利用するため、個体への負担が極めて少ないのが特徴です。処置の適応基準この手法が選択される主な基準は、結石の大きさと位置です。結石が骨盤腔を通過可能なサイズであるか、あるいは器具を用いて安全に破砕できる硬度であることが条件となります。結石摘出を行った症例の3/4がこの経総排泄孔的アプローチで成功を収めており、陸亀の結石治療における事実上の標準手法となりつつあります。
処置は厳格な麻酔管理下で行われますが、鎮静程度で対応できることもあります。術者が総排泄孔内を容易に観察できるよう、個体を背側臥位(仰向け)に固定します。これにより重力の影響で結石が総排泄孔側に移動しやすくなります。鼻鏡などを使用して総排泄孔を拡張します。内視鏡を使用しない場合でも、良好な視認性を確保することが重要で、安全に結石へアクセスできます。骨用ドリルビットや強力な止血鉗子を挿入し、結石に物理的な衝撃を加えて分割します。尿酸塩結石は乾燥すると非常に硬くなりますが、膀胱内では湿潤しており、適切なポイントに圧力をかけることで比較的容易に破砕可能です。破砕された破片を、止血鉗子を用いて一つずつ慎重に体外へ取り出します。鋭利な断片が粘膜を傷つけないよう注意してください。全ての大きな断片を取り出した後、生理食塩水を用いて膀胱内を繰り返し洗浄し、微細な砂状の残渣や尿酸の泥を完全に排出し、将来の再発リスクを低減させます。 術後にX線撮影を行い、結石の取り残しがないことを確認して処置を終了します。
近年、一部の専門病院で導入されているのが、ホルミウム:イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Ho:YAG)レーザーを用いた砕石術の報告もあります。これは機械的な力ではなく、レーザーエネルギーを利用して結石を「蒸発・粉砕」する手法になります。
鼠径部切開術
比較結石が総排泄孔を通過させるには大きすぎるが、甲羅を切開することは避けたい場合に選択されるのが、鼠径部切開術です。この手法では、後肢の前方の柔らかい皮膚を切開し、腹腔(体腔)にアクセスします。最新の知見では、個体を横向きに保持することで、重力を利用して結石を術野側に移動させる改良法が提案されています。この方法の利点は、皮膚と筋肉の切開のみで済むため、甲羅切開よりも回復が圧倒的に早く、かつ内視鏡下での直接的な破砕処置が容易である点にあります。
参考文献
- Girolamo ND et al.Clinical Applications of Cystoscopy in Chelonians.Veterinary Clinics of North America Exotic Animal Practice18(3):507-526.2015
- Rickyawan N et al.Elimination of Large Bladder Stone-Obstructing Pelvic Canal in African Spurred Tortoise (Centrochelys sulcata) with Per-Cloacal Bladder Stone Removal Method without Utilizing an Endoscope.Media Kedokteran Hewan36(1):68-76.2025
