【病気】ウサギの腎梗塞

解剖と発生

ウサギの腎臓は、その生理機能と構造において他の家畜や伴侶動物とは異なる独自の特性を有しています。腎梗塞とは腎動脈またはその分枝が血栓や塞栓によって閉塞し、その支配領域の腎実質が虚血性壊死 (主に凝固壊死) に陥る病態を指します。ウサギの腎臓は多機能な排泄器官であり、全心拍出量の15~20%が流入し、そのうち約70%が糸球体の存在する皮質部に供給されるという極めて高い灌流量を誇ります〔Harcourt-Brown 2013〕 。このような解剖学的特徴により、血管系の閉塞は速やかに広範な組織損傷を招くリスクを孕んでいます。ウサギの腎動脈は腎門部で分枝し、小葉間動脈、弓状動脈を経て、最終的に糸球体へと至る輸入細動脈へと細分化されます。ウサギの血管系は側副血行路が限定的であるため、一旦主要な動脈が閉塞すると、その領域の組織は救済されることなく梗塞へと進行しやすい傾向があります 。また、ウサギは神経性腎虚血を起こしやすいという生理的特徴もあり、ストレスやショックが腎血流に多大な影響を及ぼすことが知られています〔Harcourt-Brown 2013〕 。

発生率と疫学的動向

ウサギにおける腎梗塞の正確な発生率については、臨床現場での生前診断の難しさから、従来は過小評価されてきた側面があります。しかし、近年の高度診断機器の普及と大規模な回顧的調査により、その実態が定量的に示されつつあります。カリフォルニア州の4つの診断施設において10年間 (2013-2022年) にわたって実施された 2,583 例のウサギの剖検、バイオプシー、および細胞診症例の調査では、腎梗塞は重要な変性性疾患として特定されています。この調査において、最終的な診断に至った2,360例のうち、30例(1.27%)で腎梗塞が確認されました〔Oliver-Guimera 2024〕 。

ウサギの分類症例数梗塞確認数発生率
ペット用 2,241261.16%
食肉用 6011.67%
多目的用19031.58%
実験用 9200.00%
表:ウサギの腎臓の梗塞の発生率

このデータから、腎梗塞はペットとして飼育されているウサギにおいて臨床的に遭遇する頻度が高いことが示唆されます 。また別の小規模な研究では、尿路結石症を呈した120 例のウサギのうち 3 例 (2.5%) で、出血を伴う腎梗塞が診断されています〔Hassan 2012〕。これらの数値は、腎梗塞が単独で発生するよりも、他の泌尿器疾患や全身性疾患の合併症として発生する場合が多いことを反映しています。

年齢および性別との関連性

腎梗塞の発生率は、年齢とともに上昇する傾向が認められ、特に10ヵ月齢以上の個体において変性性病変としての検出率が高まり、高齢個体では動脈硬化症を基盤とした血栓形成が主要な要因となります。性別による明確な発生率の差は報告されていませんが、メスにおいては子宮腺癌や子宮静脈瘤などの生殖器疾患が血栓塞栓症のリスクを高める二次的な要因となり得ます。

原因

腎梗塞を引き起こす原因は多岐にわたり、心臓由来の塞栓、血管自体の病変、および全身性の凝固異常に分類されます。

塞栓性原因

腎臓は血流量が多いため、全身を循環する塞栓が捕捉されやすい臓器です。ウサギにおける腎梗塞の代表的な原因の一つに感染性心内膜炎があげられます。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの細菌感染によって心臓弁に形成された菌塊 が剥離し、敗血症性塞栓として腎動脈に停滞します。調査によれば、感染性心内膜炎に伴う腎病変のうち、約31%が局所的な梗塞であったと報告されています〔Majumdar et al.2000〕。重度の心筋症や弁膜症、心不全を呈するウサギでは、左心系で血栓が形成されやすく、これが剥離して腎塞栓を誘発します 。ウサギの三尖弁は他の種と異なり2尖であるといった解剖学的特異性も、血流動態に影響を与える可能性があります。

血栓性原因

腎血管内で直接血栓が形成されるケースです。ウサギ、特にニュージーランド・ホワイト種などは、自然発症的に大動脈や腎動脈に動脈硬化を起こしやすい傾向があります〔Harcourt-Brown 2013〕 。血管壁の石灰化や内膜の増殖は血流の乱流を引き起こし、血栓形成の温床となります。過剰なビタミンD摂取は血管壁の転移性石灰化を招き、腎動脈の狭窄と血栓性閉塞のリスクを増大させます。

物理的閉塞

腎細胞癌や近接する臓器からの腫瘍浸潤が血管を物理的に閉塞させる場合があります。

症状

ウサギは捕食される側の動物であるため、痛みを隠す本能が強く、症状が顕在化した時点では病態がかなり進行していることが少なくありません。腎梗塞の症状は、その範囲と急性度によって異なります。急性の血管閉塞は、激しい内臓痛を伴いますが、ウサギでは小さい梗塞が大半で、無症状であることが多いです。大きな梗塞であれば血尿なども理論的には発生します。多発性の小さな梗塞により、CT検査で腎臓が変形して発見されることが多いです。

検査・診断

腎梗塞の部位と範囲を特定する上で、画像診断は最も決定的な情報を与えます。

超音波検査

急性期には梗塞部位が低エコーの楔状領域として描出されますが、慢性化すると線維化により高エコー化し、腎臓表面の陥凹として観察されます。梗塞が疑われる領域への血流が消失していることをリアルタイムで確認できます。

CT検査

造影剤を用いたCT検査は、梗塞の詳細なマッピングに極めて有効です。梗塞は造影剤が流入しない楔状領域として確認されます。

参考文献

  • Hassan J.Comparative study on the radiographic and sonographic examination of the urinary tract in pet rabbits with urolithiasis.Wiener Tierarztliche Monatsschrift 99(5):134-144.2012
  • Harcourt-Brown FM.Diagnosis of renal disease in rabbits.Vet Clin North Am Exot Anim Pract16(1):145-74.2013
  • Oliver-Guimera A.Diseases of domestic rabbits by purpose;a retrospective study of 2,583 cases received at 4 diagnostic laboratories in California, USA, 2013–2022.J Vet Diagn Invest36(5):677‐694.2024
  • Majumdar A et al.Renal pathological findings in infective endocarditis.Nephrology Dialysis Transplantation15(11).2000

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。