はじめに
ウサギにおける画像診断は、近年のマルチスライスCTの普及により、従来の単純X線や超音波検査では到達し得なかった領域までその診断能を拡大させています。
麻酔・無麻酔選択
臨床現場において、全身麻酔下での撮影を行うか、リスクを抑えた無麻酔撮影を行うかの判断は、以下の要因を総合的に評価して決定されます。ウサギにおいても全身状態とリスク分類(ASAグレード)で判断することが重要です。ASAグレード3〜5(重度の全身疾患、生命の危険)では、麻酔による死亡率が跳ね上がるため、高齢個体や心不全、腎不全を抱える症例では無麻酔が選択されます。また、酔撮影の成否はウサギの協力性に大きく依存します。性格が穏やかで、保定具内で静止できる個体であるのか、激しく動いたり暴れたりする個体あるいはパニックを起こしやすい性格の場合、安全な撮影が困難なだけでなく、ストレスによるショック死のリスクが高まるため、適切な鎮静や麻酔が検討されます。
診断目的と必要とされる解像度にもより麻酔の有無が決まります。無麻酔推が奨されるケースは、迅速なスクリーニング(肺膿瘍や腫瘍の有無、胃内異物や毛球、肝葉捻転の診断など)や骨や歯の評価(骨折や関節炎、不整咬合など)、鼓室胞の評価(中耳炎)に絞られます。 麻酔が推奨されるケースは、呼吸の影響を受けやすい肺や肝臓の病変、微細な構造の評価やミリ単位の精度が求められる外科手術の術前計画、また組織生検を同時に行う場合は麻酔が不可欠です 。
無麻酔CT撮影
無麻酔での撮影を成功させるには、体動によるアーチファクトを最小限に抑えるための高度な撮像技術が必要です。現代の獣医学において主流となっている16列から80列、あるいはそれ以上の検出器を備えた装置は、一回転あたりのスキャン範囲が広く、ウサギの全身を数秒から数十秒で撮影することを可能にします。撮影時間の短縮は、自発呼吸による画像のブレを低減する上で決定的な役割を果たします。ウサギのような小型哺乳類の撮影では、高い空間分解能を得るために、スライス厚やボクセルサイズを微細に設定する必要があります。
CTは非常に高い空間分解能を持ちますが、数mm単位の動きでもモーション・アーチファクト(ブレ)が生じます。特に造影CTでは、血管や小臓器の微細な濃染を確認する必要があるため、完全な不動化が不可欠です。腹部の造影CTにおいて、呼吸による横隔膜の上下動は画像品質を著しく低下させます。麻酔下で一時的に呼吸を停止させる(無呼吸状態を作る)ことで、極めて鮮明な肝臓や膵臓の画像を得ることが可能になります。意識下での保定は、ウサギにとって過度なストレスとなり、心拍数の急激な変動を招きます。これは後述する造影タイミングの予測を困難にします 。また、造影剤注入時の熱感による不快感で動物が暴れるリスクも回避できます 。
無麻酔撮影保定器具
ウサギのサイズに合わせた透明あるいは半透明の箱とクッション材(タオルや発泡スチロール)を組み合わせて、隙間なく固定する手法が有効です 。この際、頭部を水平に保つために顎の下にタオルを敷くなどの細かな調整が、対称性の高い診断画像を得るために不可欠となります。
精神的鎮静
ウサギは周囲を布やネットで覆われると大人しくなる性質があります。これを応用し、タオルで包むバニー・ブリトー(Bunny burrito)の状態にしたり、暗い筒状の容器に入れたりすることで、薬剤を使わずに精神的な落ち着きを引き出すことができます。
造影CT撮影
造影CT検査は、腹腔内脂肪が乏しく軟部組織のコントラストが低いウサギにおいて、臓器実質の評価や血管走行の同定に不可欠な手法となっています。大人しい性格のウサギであれば、無麻酔での造影撮影も可能です。ウサギの造影CTプロトコルを策定する上で最も考慮すべき点は、その極めて高い代謝率と心拍数です。成体ウサギの正常な心拍数は150~300回/分に達し、これは犬や猫と比較しても有意に速い数値です。この生理学的背景は、静脈内に注入された造影剤が全身を循環する時間を著しく短縮させます。造影剤の薬物動態は、注入部位から右心、肺循環、左心を経て全身動脈へと至る一次循環と、その後の毛細血管から組織間質への拡散、そして静脈還流というプロセスを辿ります。ウサギのような小型哺乳類では、この一次循環が完了するまでの時間が極めて短いため、撮影タイミングのわずかな誤差が、診断に直結する造影効果の逸失を招くことになります。
造影剤としては、一般的に非イオン性ヨード造影剤(イオヘキソールやイオプロミドなど)が使用されます 。これらの薬剤は、血漿浸透圧(ウサギでは約301mOsm/kg)に近い低浸透圧性を有しており、高浸透圧性のイオン性造影剤と比較して、過敏症や循環器への負担が軽減されています。投与量はヨード含有量として600~800 mgI/kg程度が推奨され、パワーインジェクターを用いる場合は0.8~1.5mL/s程度の速度で注入されます。
撮影タイミング
造影CTにおける相とは、造影剤が血管内および組織内にどのように分布しているかを示す時間的断面を指します。ウサギの腹部診断においては、動脈相、門脈相、平衡相の三相を適切に捉えることが、病変の質的診断に極めて重要です 。
動脈相
動脈相は注入された造影剤が左心室から拍出され、主要動脈内に充満したタイミングを指します。ウサギにおける動脈相は、注入開始からわずか10~15秒程度でピークに達し、その後急速に減衰します。この相の主な目的は、血管自体の解剖学的評価(狭窄、断裂、動脈瘤など)や、肝動脈からの血流を主とする超多血性腫瘍(インスリノーマや血管肉腫、肝細胞癌など)の検出にあります 。また、肝葉捻転などの急性疾患において、特定の葉への動脈血流が遮断されていることを確認するためにも、このフェーズの画像は決定的な役割を果たします 。
門脈相
門脈相は、造影剤が毛細血管網を通過した後、門脈系に集まり、肝実質が最大限に濃染される段階です。肝臓は肝動脈(約25%)と門脈(約75%)の二重血流支配を受けているため、門脈相において肝臓のCT値は最高値を示します。ウサギにおける門脈相の撮影タイミングは、注入開始から25~40秒程度とされています 。研究によれば、ウサギのVX2肝腫瘍モデルにおいて、腹大動脈のCT値が100HUに達してから25秒後が、肝実質の濃染が最も強くなるタイミングであると報告されています〔Kim et al.2012〕。この相は、肝臓内の低吸収域病変(膿瘍、嚢胞、転移性腫瘍など)の検出に最も適しており、腹部CT検査の核となるフェーズです。
平衡相または遅延相
平衡相は血管内と細胞外間質の造影剤濃度が拡散によって平衡に達した段階を指します 。ウサギでは注入開始から90~180秒(3分)以降がこの相に該当します。このフェーズでは、組織の洗い出し(Wash-out)パターンの評価が行われます。例えば、多血性の悪性腫瘍は動脈相で強く濃染されますが、平衡相では周囲の正常組織よりも早く造影剤が消失する傾向があります。また、尿路排泄系の評価(腎盂、輸尿管、膀胱の可視化)もこの段階から顕著になります 。線維化を伴う病変(胆管細胞癌など)では、この相で遅延性の濃染が見られることもあります 。
| 相 | 注入開始からの時間 | 主な評価対象 | 獣医学的意義 |
| 単純相 | 0秒(注入前) | 結石、石灰化、脂肪 | 造影前後のCT値比較(定量的評価)の基準 |
| 動脈相 | 10 – 15秒 | 主要動脈、多血性腫瘍 | 血管奇形、肝葉捻転、血管肉腫の同定 |
| 門脈相 | 25 – 40秒 | 門脈、肝実質、脾臓 | 肝膿瘍、転移性腫瘍、門脈体循環シャント |
| 平衡相 | 90 – 180秒 | 腎実質、尿路、腫瘍被膜 | 腎機能評価、腫瘍の洗い出し特性の確認 |
血管部位による撮影タイミングへの影響と補正
ウサギの血管造影CT検査では、耳介静脈を使用することが多いです。しかし、この血管は非常に細く壁が脆いため、パワーインジェクターによる高圧注入時には血管破綻のリスクがあります。造影剤が周囲組織に漏出すると、浸透圧刺激によって耳介の広範な皮膚壊死を招く恐れがあるため、確実な留置と固定が必須です 。外側伏在静脈は耳介静脈よりも太い血管径を有しており、造影剤の大量投与にはむいています。しかし、肢を屈曲させるとカテーテルが折れ曲がり、注入が停止することがあります。撮影時は肢を伸展させた状態で固定するなどの工夫が必要です。頭橈側皮静脈も屈曲による閉塞が起こりやすいです。
なお、血管確保の場所によって撮影タイミングが変わります。一般的に注入開始から「〇〇秒後」と時間を固定して撮影する固定ディレイ法での撮影になるため、調整を検討すべきてす。耳介静脈は前大静脈に近く、伏在静脈は後大静脈を経て心臓に至ります。ウサギのような小型動物では、この経路の差による時間差は通常1~3秒程度です。しかし、心拍数が極めて速いため、このわずかな差が造影ピークの位相を微妙にずらす程度かもしれません 。伏在静脈からの注入は耳介静脈からの注入に比べて、動脈相の開始を1~2秒程度遅らせる設定が理論的に正しい調整となります 。しかし、それ以上に個体の心機能(心拍数や心拍出量)による影響の方がはるかに大きいため、ほとんど変わらないかもしれません。
血管部位ごとの特性比較(表2)
| 血管部位 | 推奨カテーテル径 | 注入速度の耐性 | 心臓までの距離 | 撮影タイミングへの影響 |
| 耳介後静脈 | 24 – 26G | 低(血管破綻注意) | 近い | 最も速い到達(基準) |
| 外側伏在静脈 | 22 – 24G | 中 – 高 | 遠い | 耳介より1 – 2秒遅延の可能性 |
| 頭橈側皮静脈 | 24 – 26G | 中 | 中間 | 耳介よりわずかに遅延 |
造影剤投与手段
手動注入では、注入速度を一定に保つことが困難であり、造影剤の塊が拡散してしまい、シャープな動脈相が得られにくいという欠点があります。自動注入器(パワーインジェクター)を使用することで、正確な流量制御が可能となり、再現性の高い造影画像が得られます。ウサギでは0.8~1.2mL/s程度の流速が、血管への負担と造影効果のバランスが良いとされています。無麻酔撮影では、造影剤注入時の熱感による不快感でウサギが暴れことがあります。
ボラストラッキングの最適化
ボラストラッキングを行う際、ROIは一般的に腹大動脈(横隔膜レベル)に設定します。ウサギの腹大動脈は細いため、ROIの配置が不適切だとトリガーが作動しないことがあります 。トリガーの閾値は、単純相のCT値に50-100HUを加えた値(あるいは絶対値として100-150HU)に設定するのが一般的です 。
造影剤注入パラメータ(体重3kgのウサギの例)
| パラメータ | 設定値の目安 | 備考 |
| 造影剤濃度 | 300 – 370 mgI/mL | 高濃度ほど少容量で済む |
| 総投与量 | 2.0 – 2.5 mL/kg | ヨード量換算で600-800 mgI/kg |
| 注入流速 | 1.0 mL/s | カテーテルサイズにより調整 |
| 生理食塩水フラッシュ | 1.5 – 2.0 mL | 造影剤を押し込み、デッドスペースを無くす |
| トリガーレベル | 100 HU (in Aorta) | プレモニタリングスキャンによる監視 |
参考文献
- Kim KW et al.CT Color Mapping of the Arterial Enhancement Fraction of VX2 Carcinoma Implanted in Rabbit Liver: Comparison With Perfusion CT.American Journal of Roentgenology196(1),2012
