【病気】カメレオンの喉袋浮腫

背景

カメレオン科において、喉袋領域に認められる浮腫(Gular edema)は、特定の単一疾患を指すものではなく、全身性の生理的不全、代謝性疾患、あるいは重篤な臓器機能障害を示唆する重要な臨床徴候です。この病態は飼育下にあるカメレオンにおいて比較的一般的に観察されますが、その背景には栄養管理の不備、不適切な環境設定、加齢に伴う臓器変性などが複雑に絡み合っています。

症状

浮腫によってこの空間に液体が貯留することは、こうした生理的な通信機能の阻害を招くだけでなく、周囲の筋肉群(加速筋や舌骨筋)への物理的圧迫を引き起こし、捕食行動に支障をきたす可能性があります。

喉袋の形態学的分類

多くのカメレオンは気管の腹側から拡張した喉嚢(Gular pouch)と呼ばれる構造を有しています。この解剖学的構造は、属や種によって異なる形態を示すことが近年の研究で明らかにされています。特にエボシカメレオンにおいては、この喉嚢が性的二型を示し、オスの方がメスよりも有意に大きな幅と容積を持つことが示されています。この構造は単なる解剖学的な突出ではなく、基質伝導音の増幅器として機能し、コミュニケーションにも寄与していると考えられています〔Huskey et al.2020〕。

形態分類解剖学的特徴代表的な種類
モルフ1 喉頭と気管の接合部における軟部組織の単一の拡張 Bradypodion属, Chamaeleo属, Trioceros goetzei
モルフ2 連続する透明軟骨輪間の軟部組織の拡張による複数の嚢 Furcifer oustaleti, Furcifer verrucosus
混合型両モルフの特徴を併せ持つ個体が存在するTrioceros melleri
表:カメレオンの喉袋の形態学的分類

原因

浮腫の原因は様々な原因が考えらえ、多くの場合、その原因を特定するのは容易ではありません。

代謝性・栄養性要因

喉袋浮腫の発生には、栄養学的な因子、特に脂溶性ビタミンの不均衡が深く関与しています。

ビタミンA欠乏症

食虫性のカメレオンは、食事から直接レチノール(ビタミンA)を摂取する必要があり、植物由来のベータカロテンをビタミンAに変換する能力が限定的である可能性が指摘されています。ビタミンAは上皮細胞の正常な分化と維持に不可欠であり、その欠乏は扁平上皮化生を引き起こします。扁平上皮化生が生じると、本来は分泌能を持つ粘膜上皮が、角化した扁平上皮に置き換わり、この角化細胞が剥離して導管を閉塞させ、その背後に分泌液や細胞破片が貯留しますす。パンサーカメレオンにおいて、ビタミンA欠乏が喉部の腫脹と眼瞼痙攣を引き起こした例が報告されており、これは腺組織の閉塞に伴う周囲組織の炎症と浮腫が原因であると考えられています〔Ferguson et al.1996〕。またビタミンA欠乏による化生は腎臓の尿細管にも及び、これが尿酸の排泄障害を招き、内臓痛風や全身性浮腫を二次的に誘発する悪循環を形成します。

ビタミンA過剰症

サプリメントの過度な投与は、逆にビタミンA過剰症を引き起こします。過剰なビタミンAは肝臓および腎臓に対して直接的な毒性を示し、臓器機能不全の臨床徴候として喉袋浮腫が現れます 。さらに過剰なビタミンAはビタミンD3の代謝を競合的に阻害することが知られており、これがカルシウムの吸収不全を招き、結果として代謝性骨疾患と喉袋浮腫が併発する病態を呈することがあります。

ビタミンD3およびカルシウム代謝異常

ビタミンD3の過剰摂取もまた危険です。カルシウムサプリメントと併用された過剰なビタミンD3は、転移性石灰化や痛風を引き起こしますす。血管壁や腎組織が石灰化することで、血圧の上昇と腎機能の低下が同時に起こり、これが喉袋浮腫の発生基盤となります。また、エボシカメレオンにおいては、高濃度のビタミンD3とカルシウムを与え、かつビタミンAを制限した環境下で偽痛風(リン酸カルシウム沈着)が発生し、関節や組織の腫脹が認められた例もあります。

内臓疾患と循環器疾患

組織間隙への液体の漏出は、毛細血管静水圧の上昇、血漿膠質浸透圧の低下、あるいは血管透過性の亢進によって起こり、腎不全や心不全などの内臓疾患により、体内の水分排泄や循環が物理的に停滞することで浮腫が発生します。

腎不全

爬虫類は尿酸を排泄しますが、慢性的な脱水や不適切な栄養により腎機能が低下すると、タンパク漏出性疾患や、血漿浸透圧を維持するアルブミンの合成・保持能力が低下します。結果としてコロイド浸透圧が下がり、血管外へ水分が漏出します。

心不全

心臓機能の低下は、全身の血行動態に重大な影響を及ぼす。カメレオンにおける鬱血性心不全は、頭部、頸部、前肢に対称的な、非疼痛性の圧痕性浮腫を引き起こすことが報告されています〔Oliveri et al.2022〕。これは哺乳類における右心不全の徴候と類似しており、静脈系の圧力が上昇することで、頸静脈および喉部周辺の微小血管から液体が漏出する結果です。また、心疾患に伴う心嚢液貯留も、静脈還流をさらに物理的に阻害し、浮腫を悪化させる二次的要因となります。

リンパ疾患

爬虫類は哺乳類と比較して、静脈系よりもリンパ系が高度に発達しているという生理的特性を持っています。カメレオンを含む有鱗目においては、リンパ節を欠く代わりに、広範な網状のリンパ管ネットワークと、大規模なリンパ液貯留部位である乳糜槽が全身に分布しています。特に注目すべきはリンパ心臓の存在です。これはカメレオンを含む爬虫類全般に認められる構造で、通常は腰椎の末端から仙椎近傍のリンパ心臓腔に位置しています。リンパ心臓は横紋筋を備え、能動的に収縮することでリンパ液を静脈系へと還流させる役割を担っており、カメレオンのように樹上生活に適応し、垂直方向の移動が多い動物において、リンパ液の還流は重力の影響を強く受けるため、この還流メカニズムが疾患や加齢により減退すると、体位的に下位になりやすい喉部や頸部に浮腫が生じやすくなります。カメ類においては、首の付け根にリンパリングが存在し、これが浮腫の好発部位となることが知られていますが、カメレオンにおいても同様のリンパネットワークの集中が喉袋周辺に認められます〔Jacobson et al.2020〕 。

免疫・炎症性反応

慢性的な炎症・感染症

口内炎(マウスロット)や呼吸器に感染がある場合、局所のリンパ液の流れが阻害されたり、炎症性滲出液が喉嚢に蓄積したりすることがあります。

舌骨装置の異常

カメレオン特有の舌を射出するための舌骨やその周囲の筋肉に負担がかかり、微細な炎症が続くことで浮腫を誘発するケースも報告されています。

その他

特に雌のカメレオンにおいて、繁殖サイクルは全身の代謝に多大な影響を及ぼし、喉袋浮腫の誘因となり得ます。また、過度の給餌による肥満は、体腔内の脂肪体が卵管や消化管、さらには大血管を圧迫し、静脈還流を阻害して浮腫を誘発する物理的要因ともなります。

検査・診断

臨床現場では、単なる浮腫なのか、他の病変なのかを以下の点で見極めます。

鑑別項目浮腫の形態膿瘍/腫瘍
触診軟らかい、波動感がある、液体状硬い、弾力がある、固形状
対称性基本的に左右対称非対称なことが多い
穿刺吸引透明〜淡黄色の漿液が引ける膿(爬虫類はチーズ状)や細胞成分
全身症状活発だが喉だけ腫れている場合もある食欲不振、口腔内の赤み、悪臭
表:カメレオンの喉袋の腫脹の鑑別 

浮腫の場合、単に水分を抜く(穿刺)だけでは根本解決になりません。血液検査で、カルシウム、リン、尿酸値、タンパク質分画を測定し、内臓疾患や栄養バランスを特定します。X線・超音波検査で、腎臓の腫大、結石、心臓の動き、あるいは卵詰まりによる循環圧迫がないかを確認します。飼育環境の確認として、紫外線の強さ、サプリメントの成分表(特にビタミンAの形態がレチノールかベータカロテンか)を精査し、過剰摂取を確認します。

治療

喉袋浮腫の治療は、対症療法としての液体の除去と根本原因への医学的介入の二段構えで行われます。

結論

喉袋浮腫が認められた個体に対しては、単なる首の腫れとして軽視することなく、全身の恒常性が崩壊の危機にあるというシグナルとして捉え、包括的な生化学的・画像的評価を行うべきです。

参考文献

  • Huskey S et al.Gular pouch diversity in the Chamaeleonidae.Anat Rec (Hoboken)303(8):2248-2261.2020
  • Jacobson ER et al.edsOverview of biology, anatomy, and histology of reptile.Infectious Diseases and Pathology of Reptiles: Color Atlas and Text2nd. Taylor and Francis:p1-214.2020
  • Oliveri M et al.Congestive heart failure in a veiled chameleon (Chamaeleo calyptratus): A case report.Vet Med (Praha)67(5):263–269.2022

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。