【治療】鳥のエリザベスカラー

鳥におけるカラー歴史と現代的意義

​鳥類医学は過去数十年にわたり劇的な進歩を遂げてきましたが、その中でも患者の自傷行為を防止し、治療を完遂させるための物理的拘束技術は、臨床現場において極めて重要な地位を占めています。エリザベスカラー(Elizabethan collar)、通称Eカラーは、その形状が16世紀のエリザベス朝時代に流行した白く硬いレースのひだ襟に酷似していることからその名が付けられました。​鳥類は哺乳類と比較して、皮膚が極めて薄く脆弱であり、皮下組織の冗長性に乏しいという解剖学的特徴を持つため、創傷部位や縫合部に対するわずかな干渉が致命的な組織損傷を招く可能性があります。特にオウム目などの知能が高い種においては、包帯や外部デバイス(カテーテル、気嚢カニューレ等)に対する執着が強く、短時間でこれらを破壊・除去してしまう傾向があります。これらの自傷行為を防止するための障壁として、カラーの適用が不可欠です。​しかし、カラーの装着は鳥類にとって多大な生理学的・心理的ストレス源となります。近年の研究では、カラーを装着したコンパニオンアニマルの77.4%が生活の質(QOL)の低下を示したことが報告されており、特に摂食、飲水、遊びといった基本行動への干渉がその要因となっています〔Shenoda et al.2020〕。したがって、鳥類臨床におけるカラーの選択と適用は、単なる物理的遮断を超えた、緻密な獣医学的判断と看護管理が求められる領域です。

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​鳥のカラーの分類

​鳥類に使用される拘束具は、その臨床目的、鳥の解剖学的構造、および期待される拘束の強度に基づき、多岐にわたる種類が存在します。これらは主に円錐型ならびに筒状タイプに分けられます。

円錐形

円錐形カラーにはハード、ソフト、クッションタイプの3つがあります。

ハード(プラスチック)タイプ

最も一般的で、医療現場でもよく使われる円錐形のカラーで、透明な低密度ポリエチレンなどの硬質プラスチック、あるいは柔軟なビニール素材で構成され、しっかりとした硬さがあります。形状保持能力が高く、物理的な遮断効果が最も強いのが特徴になります。通常、首を中心に放射状に広がる障壁を形成し、嘴が体幹や翼、脚部に到達することを防ぎます。汚れも拭き取りやすく衛生的です。透明な製品を用いることで、鳥の周辺視を確保し、壁や家具への衝突リスクを軽減することが可能です。しかし、重さがあり、首への負担が大きく、周囲の壁やケージにぶつかったり、鳥がパニックになりやすく、視界が遮られたり、音が反響したりするのを嫌がる子が多いです。

ソフト(フェルト・布)タイプ

フェルト生地を円形に切り抜いたものやクッション性のある布製のもので、マジックテープで固定するタイプです。圧倒的に軽いため、小型の小鳥でも負担が少ないです。ぶつかっても音がせず、柔軟性があるため生活動作を邪魔しにくく、色やデザインが豊富なのも特徴です。装着時の快適性は向上するものの、ハードタイプに比べて視界を遮りやすく、一部の鳥では足元の視認性が低下することによる不安感が増大する可能性があります。

強度は低いために、噛み癖が強い子はちぎってしまいます。汚れ(排泄物や餌)が染み込みやすく、こまめな交換や洗濯が必要となります。

クッション(ドーナツ)タイプ

首の周りに厚みを持たせるタイプです。浮き輪のような形状で、首の可動域を制限することで患部に口を届かせなくします。視界を遮らないため、鳥のストレスが比較的少なく、枕のような役割になり、そのまま寝ることができます。しかし、厚みがあるため、足元の餌が見えにくくなることがあります。そして、翼の付け根などの高い位置の保護には向かない場合があります。

飴ゴムタイプ

飴ゴムとは医療用や理化学用のアメ色の天然ゴムで、カラーは既製品として販売されているものは少ないです。多くの場合、板状の飴ゴムを輪切りにして自作します。 合成ゴムに比べて伸縮性が非常に高く、鳥の首へのフィット感に優れています。 鳥の体重や首の太さ、目的に応じて使い分けます。患部への到達を阻止できるコシ(硬さ)がありつつ、鳥が首を動かした際に気管を圧迫しない柔軟性が確保できる厚さを選びます。

  • フィンチ・小型インコ(文鳥、セキセイなど): 内径 6–8mm、壁厚 0.5–1.0mm 程度の薄手のもの。
  • 中型インコ(オカメ、ウロコなど): 内径 10–12mm、壁厚 1.0–1.5mm 程度。

飴ゴムカラーが選択される最大の理由は、その低侵襲性にあります。非常に軽量で柔らかいため、プラスチック製カラーに比べて頸椎や皮膚への摩擦ダメージが抑えられます。柔軟に形が変わるため、餌箱に顔を突っ込む動作を妨げにくく、QOLの低下を最小限に留められます。視界を完全に遮らないことや、壁にぶつかった際の衝撃音が小さいため、神経質な個体でもパニックを起こしにくい傾向があります。適切なサイズにカットして首を通すだけで済むため、処置時間が短縮できます。しかし、利便性が高い反面、特有のリスクも存在します。インコなどの咬合力が強い鳥種では、ゴムを噛み切ってしまうことがあります。破片を誤飲すると消化管閉塞の原因になるため、破壊行動が激しい個体には不向きです。ゴムの性質上、汚れ(排泄物吐出物や餌)が固着しやすく、細菌や真菌の温床になりやすいです。定期的な洗浄や交換が不可欠です。 非常に柔らかいため、足を使ってカラーを折り曲げ、患部(特に尾脂腺付近や足先)に嘴が届いてしまうこともあります。

筒状(チューブ・ネックカラー)

首そのものを筒状のパーツで覆うタイプで、硬いプラスチックや柔らかい素材の筒を首に巻きます。羽を広げる動作を邪魔しにくいため、飛行やバランス維持が比較的スムーズです。円錐形ではないため、ケージの網に引っかかるリスクが低いです。しかし、装着にコツが必要(首を絞めすぎないよう注意が必要)で、首の長い鳥(文鳥や一部のインコ)でないと、装着自体が難しいです。

選択と使用上の注意点

鳥は非常にストレスに敏感な生き物です。カラーを装着する際は以下の点に注意してください。カラーの重さで体力を消耗したり、食欲が落ちたりすることがありますので、装着前後は毎日体重を測ってください。カラーが当たって餌が食べられないことがありますので、浅い皿に変える、止まり木の位置を下げるなどの配慮が必要です。装着直後はパニックで転倒したり、網に足を引っ掛けたりする危険があります。必ず飼い主が見守れる時間に装着を開始してください。​

​カラーのサイズ

​不適切なサイズ選定は治療の失敗のみならず、鳥の生命を危険にさらします。小さすぎるカラーは気管やそ嚢を圧迫し、大きすぎるカラーは移動の阻害やケージへの挟まりを招きます。

​カラーの大きさ

​カラーのタイプにより、測定すべき部位が異なります。

円錐型カラーの直径選定

鳥の首の付け根から腰までの長さを測定し、その数値を2倍にしたものが、カラーの直径の目安となります。

筒状カラーの長さと外周

首の円周を測定し、その長さをカラーの周囲長とします。この際、小型鳥では約0.8cm、大型鳥では最大約2.5cmの余裕を持たせることが肝要です 。これは摂食時に素嚢が膨らむための物理的な空間を確保するためです 。

嘴との距離関係

装着時、カラーの縁が嘴の先端よりも数cm先まで突き出ている必要があります。嘴がカラーの縁から露出してしまうと、鳥は患部に到達できてしまうため、拘束具としての機能を果たしません。

以下の表は、獣医学現場で広く用いられるSaf-T-ShieldおよびVSP製品のサイズ対応例をまとめたものです 。

製品ID (Saf-T-Shield)首周り (インチ)カラー直径 (インチ)主な適合鳥種
BIRD-1 (404X)1.25 – 2.04極小型鳥、幼鳥
BIRD-2 (406XS)2.0 – 2.756セキセイインコ、ボタンインコ、オカメインコ
BIRD-3 (406X)2.75 – 3.56オカメインコ、小型ウロコインコ、ゴフィンバタン
BIRD-4 (408XS)3.25 – 3.58アフリカグレー(ヨウム)、中型ウロコインコ
BIRD-5 (408X)3.5 – 4.08コイネズミヨウム、小型アマゾンインコ
BIRD-6 (410XS)3.5 – 4.010オオバタン、オオハナインコ、大型アマゾンインコ
BIRD-7 (410X)4.75 – 5.510ヨウム、中型バタン
BIRD-8 (412XS)4.75 – 5.512ルリコンゴウインコ、大型バタン、大型コンゴウインコ
BIRD-9 (412X)6.25 – 7.512スミレコンゴウインコ、超大型コンゴウインコ

アクリル製カラー(VSP製品)のサイズ基準は以下の通りである

サイズ分類内径 (インチ)延長部の長さ (インチ)適合モデル
Extra Small16オカメインコ
Small1.1256小型ウロコインコ
Medium1.37510大型ウロコインコ、アマゾンインコ
Large1.812511.75大型バタン、コンゴウインコ

装着時のデメリット

装着直後は、鳥が後ずさりしたり、首を振って外そうとしたりする動作が見られます。まずは呼吸状態に変化がないか、喉を通る際に食滞を起こしていないかを数時間は厳密に観察する必要があります。カラーの装着事態が、鳥にとって極端な生理的・心理的負担を強いるため、最大のストレスになることは間違いありません。

抵抗とパニック

視界が遮られたり、首回りに重量を感じたりすることで、鳥は「捕食者に捕まった」かのようなパニック状態に陥ることがあります。視界が制限されることで、止まり木を掴む、移動するといった日常動作のバランスが崩れ、激しく暴れて外そうとします。

反抗

呼吸促拍

恐怖やパニックにより交感神経が興奮し、酸素消費量が増大します。激しく動揺すると開口呼吸や、尾羽を上下に振るような呼吸が見られます。カラーのサイズが不適切だったり、首元が窮屈すぎたりすると、気管や胸部の動きを物理的に阻害し、呼吸を困難にさせている可能性もあります。暴れることで筋肉が熱を持ち、放熱のために呼吸が速くなることもあります。

不機嫌

鳥の不機嫌は、単なる気分の問題ではなく、防衛本能や学習性無力感の現れです。ストレスから逃げられない状況では、飼い主の手に対しても強く噛みつくなど、攻撃的な態をとることがあります。暴れた後に、じっと動かなくなったり、食欲が落ちたりすることがあります。これは「何をしても状況が変わらない」という絶望感からくる反応です。

拒食と体重減少

カラーの重量や違和感により、自発的な摂食を停止する個体が多いです。これが原因で起こる急激な体重減少と代謝バランスの崩壊は、基礎疾患の悪化を招きます。 水飲みカップにカラーが干渉して飲水できないケースや、カラーへの恐怖から水場に近づかないケースがあります。   

心理的ストレスと麻痺

装着直後の鳥は、パニック状態で暴れるか、あるいは「move-stop-move」と形容される、ぎこちない麻痺したような歩行を示すことがあります。視覚的な障壁が周囲の状況把握を困難にし、捕食者に対する防御本能を刺激します。不透明なカラーは特にこの傾向が強いため、透明度の高い素材が推奨されます。 頭を背中に沈めて眠る鳥にとって、カラーは正常な睡眠姿勢を物理的に不可能にします。これが長期的なストレス蓄積と免疫力の低下につながります。   

皮膚の摩耗

カラーの内縁が首の皮膚を絶えずこすることで、発赤や潰瘍が生じます。これを防ぐため、縁をフォーム材やビニールテープでパッディングする処置が必要になることもあります 。   

溺死

転倒した際や水を飲もうとした際、カラーが水皿に入り込み、そこから頭を上げられずに溺死する事故が報告されています。自力での安全な飲水が確認できるまでは、水は手渡しで与えるか、水位を極端に低く保つ必要があります 。   

観察と対処のアドバイス

装着直後で様子が落ち着かない場合は、以下の点を必ず確認してください。

チェック項目観察ポイント
首回りの余裕綿棒が一本入る程度の隙間があるか。
足先の状態カラーに足が引っかかって転倒していないか。
餌と水嘴(くちばし)が餌入れや水入れに届いているか。
体重測定ストレスで絶食していないか、毎日測定を推奨。
表:鳥のエリザベスカラー装着時のチェック項目と観察ポイント

どうしても適応できない(呼吸が落ち着かない、全く食べない(場合は、無理に継続するとショック死の恐れもあります。その際は、以下のような代替案を検討することをお勧めします。

  • ソフトカラーへの変更: 硬いプラスチック製ではなく、フェルトやクッション性のある柔らかい素材にします。
  • ドーナツ型カラー: 視界を遮らない形状のものを検討します。
  • 内科的アプローチ: 激しいパニックを抑えるために、一時的に鎮静作用のある薬を併用する場合もあります。

ケージ装着時の看護と飼育環境の修正

カラーを装着した鳥を管理する際、通常のケージ飼育は適切ではありません。

ケージの調整

止まり木の除去

バランス感覚の低下と落下の危険を考慮し、止まり木はすべて取り外すか、床から数センチの高さに設置します 。   

床材の変更

落下時の衝撃を吸収するため、ケージの底部には厚手の柔らかいタオルを敷き詰めます。   

食器の平皿化

深いフードカップはカラーが干渉して届かないため、縁が低く、鳥の頭が入る十分な直径を持つ平皿を使用します 。   

薬理学的介入

装着直後のパニックを軽減するため、獣医学的な判断に基づき鎮静薬が併用されることがあります。

  • ミダゾラム:ベンゾジアゼピン系薬剤であり、装着前の投与により鳥を沈静化させ、デバイスへのスムーズな適応を助ける 。   
  • 疼痛管理: 自傷行為の背景に痛みがある場合、NSAIDs(メロキシカム等)やブトルファノールの適切な投与がカラーの使用期間を短縮させる鍵となる 。   

 

カラーの代替案と将来展望

カラーの使用がもたらす高いストレスを鑑み、現代の鳥類医学では可能な限り低侵襲な代替案が模索されています。

外科的アプローチの工夫

Ritchieらによれば、鳥類は結び目の露出していない縫合であれば、哺乳類ほど執拗に攻撃しないことが示唆されています。そのため、埋没縫合を採用することで、カラーそのものを不要にできるケースがあります 。   

特殊な防護具の使用

拘束ジャケット(Restraint Jackets): 胸部や腹部の傷を保護する場合、首を固定しないベスト状のウェアを使用することで、鳥の視界と運動の自由を確保できる 。   

結論

エリザベスカラーは、鳥類医学において「生命を救うための道具」であると同時に、「残酷な拘束」になり得るという二面性を持っています 。基礎疾患を解決せずにカラーだけで自傷を抑えることは非人道的であり、不適切かもしれません 。常に「このカラーは本当に必要か?」を自問し、必要であれば最も軽量で、最も視界を妨げず、かつ最も安全なタイプを選択しなければならなりません。


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​参考文献

  • Shenoda Y et al.The Cone of Sham: Welfare Implications of Elizabethan Collar Use on Dogs and Cats as Reported by their Owners.Animals (Basel)10(2):333.2020

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。