【病気】ウサギ流行性腸疾患における Clostridium cuniculi

ウサギ腸炎複合体と新興病原体の発見

ウサギの消化器疾患は、集約的な養兎業および家庭での伴侶動物としてのウサギ飼育において、最も解決が困難かつ経済的損失の大きい課題であり続けています 。歴史的に、ウサギの致死的な下痢症は腸炎複合体(Enteritis Complex)と総称され、多くの場合は特定の原因菌を同定できない非特異的腸炎として処理されてきました。しかし、1996年末から1997年にかけて、フランスの集約的ウサギ飼養施設において、これまでに知られていた疾患とは臨床的・病理学的に異なる、爆発的な流行を伴う新しい症候群が報告されました〔Tavares et al.2024〕。この疾患は、当初腸結腸炎と呼ばれ、後にEpizootic Rabbit Enteropathy: ERE(流行性ウサギ腸疾患)として定義されるに至りました〔Metleva et al.2024〕。EREは離乳直後の若齢ウサギにおいて30~80%という驚異的な死亡率を記録し、急速にヨーロッパ全土、さらには世界各地のウサギ農場へと拡散しました。長年の間、この疾患の原因については、飼養管理の不備や腸内細菌叢の乱れ)が主因であるとする説と、未知の伝染性因子が関与しているとする説の間で議論が繰り返されてきました 。しかし、疾患個体の腸内容物を健全な個体へ経口投与することで疾患が再現されるという事実は、感染性因子の存在を強く示唆するものでした〔Roxane dewree et al.2010〕 。  しかし、近年の分子生物学的技術、特に次世代シーケンシングを用いたメタゲノム解析の発展により、ERE発症個体の腸内において、特定の細菌が爆発的に増殖していることが突き止められました 。この細菌こそが、本報告書の中心課題である Clostridium cuniculi(Clostridioides cuniculi)です。

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微生物学的分類

Clostridium cuniculi の分類学的地位は、近年のゲノム解析技術の進展に伴い、より詳細に定義されるようになりました。正式な分類学的系統において本菌は以下の分類群に属します。

  • ドメイン: 細菌 (Bacteria)
  • 門: バシロータ門 (Bacillota / 旧 Firmicutes)
  • 綱: クロストリジウム綱 (Clostridia)
  • 目: エウバクテリウム目 (Eubacteriales / 旧 Clostridiales)
  • 科: クロストリジウム科 (Clostridiaceae)
  • 属: クロストリジウム属 (Clostridium)

Clostridium cuniculi という名称は、Djukovicらによって2018年に提唱されました〔Djukovic et al.2018〕。しかし、国際細菌命名規約(ICNP)の規定に基づくと、現時点では正式に発表された(名前ではなく、効果的に発表された段階に留まっています。そのため、学術データベース(LPSN等)では優先名として扱われているが、正名としての地位は未確定です。また、系統学的に Clostridioides difficile に極めて近いことから、Clostridioides cuniculi と表記する文献も散見されていますが、現時点での公式な分類はクロストリジウム属に含まれています。

罹患率と死亡率

EREの発生時における統計データは、その毒性の強さを裏付けています。

欧州での蔓延

1996年のフランスでの発生以降、1997年から2002年にかけて行われた継続的なモニタリング調査〔Licois et al.2005,Fernández 2006〕では、フランス国内の養兎場の 90%以上が急性または潜在的にEREの影響を受けていることが判明しました。スペインのガリシア地方においても、1996年9月の発生から1997年末までに、少なくとも 700 以上の農場に急速に拡大したことが報告されています〔Fernández 2006〕。

罹患率

単一農場内での罹患率は通常11~65%ですが、深刻なアウトブレイクでは農場全体の 95% に達することもあります。

死亡率

発症個体の死亡率は極めて高く、一般に 30~95%と報告されています。

他動物種における発生

近年、免疫不全マウス(NSG系統など)においても C.cuniculi による感染性下痢症が発生し、授乳中の母マウスで高い死亡率を示すことが報告されています〔Barouch-Bentov et al.2025〕。

好発年齢: 主に離乳前後(生後3週から7週、あるいは6週から14週)の若齢ウサギに集中しており、この時期のウサギの死因の50%以上が本疾患を含む腸道疾患に起因すると推定されている。

パンデミック

EREはもはやヨーロッパ限定の疾患ではなく、メキシコ(2001〜2002年に初報告)〔Rodríguez-De Lara et al.2008〕や中国〔Research in Veterinary Science 2018〕など、世界の主要な養兎地域に波及しており、国際的なパンデミック状態にあると定義する専門家もいます。

毒素産生能

ゲノムシーケンシングの結果、C. cuniculi は複数の潜在的な毒素遺伝子を保有していることが明らかとなりました〔Metleva et al.2024〕 。  特に、細胞毒性や腸管上皮への作用を持つとされるエンテロトキシンをコードする遺伝子の存在が確認されており、これがEREにおける急激な下痢や吸収不全の直接的な原因であると考えられています。興味深いことに、すべての C. cuniculi 株がこれらの毒素遺伝子を保有しているわけではなく、毒素非保有株は病原性を示さない可能性が高いことが、最新の研究によって示唆されています。  

病態生理

C.cuniculiによる腸炎の発症は、単一の要因ではなく、細菌因子、宿主因子、および環境因子の相互作用によって決定されます 。   長らくEREは腸内細菌叢の劇的な変化の結果として発生すると考えられてきたが、最新の縦断的メタゲノム解析は、この因果関係を覆す知見を提供している 。EREを発症するウサギにおいて、発症の数日前までの腸内フローラは健全な個体と統計的な差異がないが、発症当日になるとC.cuniculi が突如として細菌叢全体の大部分を占めるまでに増殖します。このことから、C.cuniculiはディスバイオーシスの結果として増える二次的な菌ではなく、疾患を引き起こす初動因子であると定義されています〔Metleva et al.2024〕 。 産生されたエンテロトキシンは、腸管上皮細胞の表面受容体に結合し、細胞内シグナル伝達系を攪乱、あるいは直接的に細胞膜の完全性を破壊します。これにより、空腸および回腸の絨毛において、著明なアポトーシスと上皮細胞の脱落が引き起こされます。 この組織学的破壊により、腸管内への水分および電解質の漏出が生じ、臨床的に観察される特徴的な水様性下痢が誘発されます 。また、上皮の破壊は細菌やその毒素の全身循環への流入を許し、二次的な多臓器不全や毒血症を招く結果となります。   

臨床症状

C. cuniculi 感染に伴うEREの臨床経過は、その進行の速さと高い致死率によって特徴づけられています。   初期は、しばしば食欲不振で、これに続き、元気消失を示し、ケージの隅でうずくまるようになります。この段階では、排便が減少、あるいは全く停止することもあります。EREの最も典型的な徴候は、顕著な腹部膨満です。ウサギの体を軽く揺らすと、拡張した胃や腸管内に貯留したガスと液体により、チャプチャプという水音(振水音)が聞こえることがあり、これは臨床現場でWatery bellyと通称されます 。この液体貯留は、重度の吸収不全と腸管分泌の亢進を反映しています。 病態が進行すると、泥状から水様の褐色下痢が排出されます。下痢便には時として半透明の粘液が混じることがあり、これはムコイド性腸炎(mucoid enteritis)との類似性を示唆しますが、EREでは粘液よりも水様成分が主体的です 。末期には、重度の脱水、電解質バランスの崩壊に伴う低体温症、および虚脱が見られ、多くの個体は臨床症状の発現から24~48時間以内に死に至ります 。

   

病理組織学的解析

C.cuniculi 感染個体の剖検および組織学的検査は、本疾患の理解において極めて重要な情報を提供します。剖検において最も目立つ所見は、胃、小腸(特に空腸と回腸)、および盲腸の著明な拡張です。拡張した腸管内には、悪臭を伴う水様、あるいはガス状の内容物が充満しています〔Roxane et al.2010〕。盲腸壁には充血や点状出血が認められることが多く、内容物は水様化、あるいは乾燥して停滞しています。組織学的検査では、空腸および回腸において最も深刻な損傷が認められる 。ERE罹患個体の腸管組織には、 絨毛の高度な萎縮、融合、および先端部の壊死が観察され、上皮細胞刷子縁の消失、上皮細胞の空胞化、およびアポトーシスの増加が顕著です。EREの組織像は重度の組織破壊を伴う一方で、浸潤する炎症細胞は比較的少なく、典型的な炎症性の腸炎とは一線を画します〔Funk et al.2025〕。これは、毒素による直接的な細胞死が先行するためと考えられています。

診断・検査

C.cuniculi は、通常の好気培養や嫌気培養条件下では増殖が極めて遅いか、あるいは全く増殖しない(非培養性)という特性を持つため、診断には分子生物学的手法が必須です。現在、C.cuniculi の同定および定量を目的とした特異的なリアルタイムPCR(qPCR)アッセイが確立されています 。   

治療

抗菌薬療法は、原因菌の抑制を目的としますが、ウサギでは副作用としてのディスバイオーシスが常に懸念されるため注意してください。 C.cuniculi はトリメトプリム・スルファメトキサゾールに対して感受性を示すことが確認されています。また、嫌気性菌に有効なメトロニダゾールも使用されます〔Funk et al.2025〕 。   

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参考文献

  • Barouch-Bentov R et al.Strain-resolved metagenomic analysis and qPCR validation suggest Clostridium cuniculi is the etiologic agent for infectious diarrhea in severely immunodeficient mice.Journal of Veterinary Diagnostic Investigation.2025
  • Djukovic A,Garcia-Garcera M,Martínez-Paredes E,Isaac S,Artacho A, Martínez J,Ubeda C.Gut colonization by a novel Clostridium species is associated with the onset of epizootic rabbit enteropathy.Veterinary Research49:123.2018
  • Fernández A.Epizootic Rabbit Enteropathy in Galicia (Spain).Proceedings of the 9th World Rabbit Congress.2006
  • Funk A et al.Isolation, Characterization, and Epizootiology of Clostridioides cuniculi from Immunodeficient Mice with Enteric Disease.J Am Assoc Lab Anim Sci64(4):618–629.2025
  • Licois D,Wyers M,Coudert P.Epizootic Rabbit Enteropathy: experimental transmission and clinical characterization.Veterinary Research36(4), 601-613.2005
  • Metleva AS et al.Clinical signs and post-mortem lesions caused by clostridial enterotoxemia in rabbits.Veterinary Science Today 13(3):234-241.2024
  • Rodríguez-De Lara MA et al.Studies on the evolution, pathology, and immunity of commercial fattening rabbits affected with epizootic outbreaks of diarrhoeas in Mexico: A case report.2008
  • Research in Veterinary Science.Detection of mucoid enteropathy syndrome disease in rabbit farms in East China.2018
  • Tavares T et al.Clostridium spp. in Rabbits: The Underappreciated Killer.Veterinary Care of Farm Rabbits:p489-506.2024   
  • Roxane dewree et al.Experimentally induced epizootic rabbit enteropathy: clinical,histopathologicaI, ultrastructural, bacteriological and haematological findings.World Rabbit Science15(2).2010

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。