【検査】爬虫類のMRI検査

爬虫類医学におけるMRIの不可欠性

​エキゾチックアニマル臨床の領域において、画像診断は非侵襲的検査の要として機能してきた。しかし、爬虫類は、哺乳類とは根本的に異なる解剖学的および生理学的特性を有しており、これが従来の画像診断における大きな障壁となっていました。伝統的なX線検査は骨格の評価には優れているものの、爬虫類特有の体腔内構造、すなわち腹膜脂肪の欠如や臓器密度の類似性により、軟部組織のコントラスト分解能が著しく低いという欠点がありました。特にカメにおいては、背甲と腹甲という高度に石灰化した外骨格がX線を遮蔽し、内部臓器の評価を極めて困難にしていました。​超音波検査の導入は、軟部組織のリアルタイム評価を可能にしましたが、これもまた爬虫類の体表構造による制限を受けます。カメの甲羅、ワニや大型トカゲの皮骨、そして肥厚した鱗は音響インピーダンスの不整合を生じさせ、有効な音響窓を極端に制限します。さらに、ヘビのような細長い体型や、肺気嚢が体腔の大部分を占める種では、ガスによる超音波の減衰が深部臓器の描出を阻害する要因となります。

​こうした背景の中、コンピュータ断層撮影(CT)と磁気共鳴画像法(MRI)の獣医療への導入は、爬虫類の診断プロセスに革命をもたらしました。CTは高い空間分解能を有し、骨折、骨髄炎、肺疾患の評価において圧倒的な優位性を持っていますが、脳実質や脊髄、あるいは腫瘍と周囲の浮腫の境界といった微妙な軟部組織コントラストの描出においては限界があります。対してMRIは、プロトン(水素原子核)密度と組織の緩和時間(T1, T2)の差を利用して画像化するため、骨によるアーチファクトの影響を受けにくく、軟部組織に対して極めて高いコントラスト分解能を提供します。

【検査】爬虫類のCT検査の撮影方法

​MRIの物理学的基盤と機械スペック条件

​爬虫類のMRI検査を成功させるためには、対象動物のサイズ、代謝特性、および組織学的特徴に適合したハードウェアとシーケンス設計が不可欠です。犬猫や人と比較して、多くの爬虫類患者は体重が数百グラムから数キログラムと小型であり、このスケールの違いがS/N比(Signal-to-Noise Ratio)や空間分解能に対する要求を厳格化させます。

​静磁場強度と画質の相関

​MRI装置の性能を決定づける最も基本的な要素は静磁場強度(テスラ:T)になります。爬虫類臨床においては、低磁場装置と高磁場装置の双方が利用されていますが、その適用範囲と診断能力には明確な差異が存在します。

​低磁場装置(Low-field MRI: 0.2T – 0.5T)

​獣医開業医レベルで導入が進んでいる永久磁石型や常電導型の低磁場MRIは、維持コストが低く、運用が容易である利点があります。大型のリクガメやワニ、ニシキヘビなどの体躯の大きな個体の臓器スクリーニングや、四肢の整形外科的評価においては一定の有用性が認められています。しかし、低磁場ではプロトンの磁化率が低いため、得られる信号強度が弱く、S/N比が低くなります。これを補うためには積算回数(NEX: Number of Excitations)を増やす必要があり、結果として撮像時間が延長します。長時間の撮像は、麻酔管理下の爬虫類にとって生理学的な負担を増大させるリスクがあります。また、スライス厚を薄く設定することが困難であり(通常3mm以上)、小型トカゲの脳や下垂体、眼球などの微細構造の評価には不向きです。

​高磁場装置(High-field MRI: 1.5T – 3.0T)

​爬虫類の臨床診断、特に中枢神経系(脳・脊髄)や微小な解剖学的構造の評価においては、1.5T以上の超伝導型高磁場MRIがゴールドスタンダードとなります。高磁場装置は高いS/N比を提供するため、1mm以下の薄いスライス厚や、高い面内分解能での撮像が可能となります。例えば、フトアゴヒゲトカゲの脳アトラス作成においては、3.0Tの装置を用いることで、視蓋、小脳、終脳といった微細な脳内領域の明瞭な区分に成功しています〔Foss et al.2022〕。また、高速スピンエコー法(FSE)やエコープラナー法(EPI)などの高速撮像シーケンスの適用が可能であり、麻酔時間の短縮にも寄与します。

​コイルの最適化戦略

​MRIの感度は受信コイルと被写体との距離に強く依存します。爬虫類専用のコイルは市場に流通していないため、人用のコイルや実験動物用コイルを創造的に流用・適合させる必要があります〔Głodek et al.2016〕。

ソレノイドコイル・バードケージコイル(小動物実験用)

小型のトカゲ、ヤモリ、幼体のヘビなどの全身スキャン、あるいは中型爬虫類の頭部専用として最も推奨されます。

ヒト用手首コイルおよび膝コイル

これらは中型〜大型の爬虫類に理想的なサイズ感を提供できます。例えば、アカミミガメや中型のリクガメは、甲羅ごと膝コイルや手首コイルの中に収容することが可能であり、全身の断層像を高画質で得ることができます。

表面コイル

コイル内に入りきらない大型のヘビやワニ、あるいはカメの局所的な病変(脊椎、四肢関節)の評価に使用される。表面コイルは深部感度が低下するため、関心領域(ROI)が体表に近い場合に適しています。

マイクロスコピーコイル

眼球内病変や下垂体腫瘍など、ミリメートル単位の病変を評価する際には、専用のマイクロスコピーコイルの使用が検討されるべきです。これにより、組織学的標本に匹敵する解像度が得られる場合があります。

撮影方法

変温動物の生理学を考慮したプロトコル​爬虫類に対するMRI検査の実施手順は、哺乳類のそれとは本質的に異なるアプローチを要します。爬虫類は変温動物であり、環境温度によって代謝率、心拍数、薬物動態が劇的に変化します。MRI室内は超伝導磁石の冷却維持のために通常低温(20℃前後)に保たれており、無対策のままでは爬虫類患者は急速に低体温、徐脈、そして麻酔覚醒遅延に陥ります。MRIはCTに比べて長い撮像時間(30〜90分)を要するため、動物の完全な不動化が診断画像の質を保証する絶対条件となります。​物理的保定の限界と適応​一部の文献や過去の報告では、カメを粘着テープで甲羅ごと固定する、あるいはヘビをプラスチック容器やアクリル管に封入することで、無麻酔下での撮像が可能であるとしています。しかし、意識下での拘束は動物に極度のストレスを与え、カメにおいては四肢や頭部を甲羅内に完全に引き込ませてしまいます。これにより、頸部や四肢の付け根(腋窩・鼠径部)の評価が物理的に不可能となるだけでなく、呼吸数の増加や不規則な体動により重度のモーションアーチファクトが発生します。したがって、脳神経系の微細構造評価や、精密な解剖学的把握が必要な症例においては、全身麻酔が必須であると考えるべきです。 ​化学的保定(鎮静・麻酔)のプロトコル​爬虫類の麻酔管理は、その特異な呼吸生理(無呼吸耐性、右左シャント)を理解した上で行われる必要があります。​

【治療】爬虫類の麻酔の解説はコチラ

体温管理

MRI検査における最大の合併症リスクの一つが低体温です。前述の通りMRI室温は低く、変温動物である爬虫類の体温は環境温度まで急速に低下します。これは麻酔薬の代謝を遅延させ、覚醒に数時間を要する事態を招きます。MRI対応の温水循環式マットや温風送風システムを用いて、爬虫類の至適体温(POTZ)内、あるいはそれに近い温度(25-30℃程度)を維持することが極めて重要です。ここで重要な警告として、市販の使い捨てカイロ(酸化鉄を含む)は、磁場に引き寄せられるだけでなく、局所的な磁場の乱れを引き起こし、画像診断を不能にするため、絶対に使用してはならなりません。

ポジショニング

​適切なポジショニングは、解剖学的構造の歪みを防ぎ、診断価値のある画像を得るために不可欠です。​基本体位: 爬虫類は横隔膜を持たず、内臓の位置が体位によって移動しやすいため、自然な解剖学的位置関係を保つ*腹臥位が原則です。側臥位は肺の圧迫や臓器の偏位を招き、画像解釈を誤らせる原因となります。 ​しかし、ヘヘビのMRIにおける最大の課題は、その体長でです。長い体を直線状に伸ばして撮影することは、コイルの感度領域やFOVの制約上不可能で、そのため、ヘビを折りたたんで配置する技術が用いられています。具体的には、蛇腹状または蚊取り線香状に配置し、それぞれの体節がコイルの有感領域内に収まるようにします。この際、体表同士が直接接触すると、信号の干渉や空間的な折り返しアーチファクトが生じやすいため、タオルやスポンジをスペーサーとして挟み込み、体節間の距離を保つことが推奨されます。​カメで頭頸部の検査が必要な場合、麻酔下で頭部を伸展させ、プラスチック製の副子やテープを用いて固定します。四肢も同様に伸展させ、甲羅の影にならないように配置します〔Głodek et al.2016〕。

MRI診断の実際

シーケンス選択とアーチファクト​爬虫類の組織は哺乳類と比較して、水分含有量や脂質分布、さらには常磁性物質(メラニンなど)の存在において特異性を示します。これらを反映したパルスシーケンスの選択が診断の鍵となります。​

パルスシーケンス診断目的・特徴爬虫類における特記事項・臨床応用
T2強調画像 (T2WI)解剖学的構造の把握、病変スクリーニング水分を含む組織が高信号(白)となる。脳脊髄液、浮腫、嚢胞、炎症性滲出液の検出に必須。爬虫類の膿(カッテージチーズ状)は水分が少ない場合があり、哺乳類ほど高信号にならないことがある点に注意が必要。
T1強調画像 (T1WI)解剖学的詳細、脂肪、出血、メラニンの評価脂肪、常磁性物質(メトヘモグロビン、メラニン)、高濃度タンパク液が高信号。脂肪体の評価や、造影剤投与前のベースラインとして不可欠。
STIR / Fat Sat T2脂肪抑制画像:炎症・浮腫の強調爬虫類は体腔内に大きな脂肪体を持つため、脂肪信号を抑制することで、炎症や腫瘍(高水分病変)を際立たせる。特に骨髄炎や筋肉内病変の検出に有効。
T2*強調 (Gradient Echo)出血(ヘモジデリン)、石灰化の検出磁化率効果を利用し、出血の痕跡や微細な石灰化を低信号(黒)として描出する。外傷性脳損傷や骨髄炎の評価に有用。
3D T1 GRE / MPRAGE高分解能三次元データ収集薄いスライス厚でのボリュームデータ取得。脳アトラス作成や、複雑な構造(カメの頭部や耳小骨周辺)の多断面再構成(MPR)に適する。
DWI (拡散強調画像)細胞密度、虚血、膿瘍の評価水分子の拡散制限を画像化。脳梗塞の早期発見や、膿瘍(拡散制限あり)と嚢胞性腫瘍(拡散制限なし)の鑑別に有用。
表:推奨パルスシーケンスとその臨床的意義

造影検査

ガドリニウム造影剤(Gd-DTPA等)を用いた造影MRIは、腫瘍の血流評価、炎症範囲の特定、膿瘍被膜の描出において極めて重要です。 しかし爬虫類は循環時間が遅く、心拍出量も哺乳類の1/5〜1/10程度であるため、造影剤が全身に行き渡り、平衡状態に達するまでに時間を要します。したがって、造影剤注入直後のスキャンだけでなく、注入後5分、10分といった遅延相追加撮影することが、病変の染まりを見逃さないために推奨されます。   

アーチファクト

爬虫類では、マイクロチップ、外科用ステープル、あるいは消化管内の砂利などが原因となり、サセプタビリティアーチファクトが生じます。特にマイクロチップは広範囲のブルーミングを引き起こし、周囲の診断を不能にするため、埋め込み位置の事前確認が必要です。また、爬虫類の鱗の微細構造や表面に付着した微量金属粒子が、体表付近で局所的な磁場の乱れを引き起こすこともあります。   

今後の展望

爬虫類臨床におけるMRIは、解剖学的特異性を克服し、従来の画像診断では到達不可能であった軟部組織病変の深層を可視化する強力なモダリティです。その成功の鍵は、高磁場装置の選択、適切なコイルのフィッティング、変温動物生理学に基づいた麻酔・体温管理、種特異的解剖の理解の4点に集約されます。今後は、機能的MRIによる脳神経活動の解明、MRスペクトロスコピーによる腫瘍や炎症の生化学的診断、そして拡散テンソル画像による神経線維のトラクトグラフィーなど、さらなる先端技術の爬虫類医学への応用が期待されます。MRIはもはや実験的な道具ではなく、爬虫類医療の標準的な選択肢の一つとして確立されつつあります。

参考文献

  • Foss KD et al.Establishing an MRI-Based Protocol and Atlas of the Bearded Dragon (Pogona vitticeps) Brain.Front Vet Sci13:9:886333.2022
  • Głodek J et al.Magnetic Resonance Imaging of Reptiles, Rodents, and Lagomorphs for Clinical Diagnosis and Animal Research.Comp Med66(3):216–219.2016

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。