【生理】テグートカゲの単為生殖

単為生殖のメカニズム

爬虫類、特にテグートカゲに見られる単為生殖は生物学的に非常に興味深い現象です。本来、精子による受精を必要とせずに、卵子が単独で胚へと発生することを指します。通常は有性生殖を行う種類ですが、オスがいない環境などの特定の条件下で例外的に単為生殖を行うことを指します。大半の動物は、オスとメスが交配して繁殖する、つまり有性生殖では減数分裂によって染色体数が半分(n)になった卵子と精子が結合し、二倍体(2n)の個体が作られます。爬虫類における単為生殖は、その発生様式と遺伝的構成に基づき、大きく二つのカテゴリーに分類されます。一つは全個体がメスで構成される絶対的単為生殖(Obligate Parthenogenesis)であり、もう一つは通常は有性生殖を行うメスが例外的に無性生殖を行う「任意的単為生殖(FP)」になります〔Cubides-Cubillos SD et al.2020〕。

Cubides-Cubillos SD et al. Evidence of facultative parthenogenesis in three Neotropical pitviper species of the Bothrops atrox group.PeerJ;8:e10097.2020

しかし、単為生殖では以下のいずれかの方法で染色体数を維持します。通常、細胞には染色体という遺伝子の入れ物が2本ずつある。だが、精子と卵子は特殊で、1本ずつしかありません。受精後に2本になるためです。しかし、単為生殖の場合、通常は精子から提供されるはずの遺伝子を、別の方法で卵子が埋め合わせをします。染色体が2本から1本に減って、精子と卵子ができるプロセスは減数分裂と呼ばれ、オスで精子ができる時は、単純に同じものが2つできあがるのに対し、メスでは分裂したうちの1つしか卵子になりません。余ったほうの小さな細胞は極体と呼ばれ、極体は通常、受精に関与しませんが、極体と卵子が融合して子ができることがあり、これをオートミクシス(automixis、自家生殖)と呼ばれ、デグーやコモドドラゴン、ナミヘビ類で多く見られる形式です。オートミクシスでは母親の遺伝子がわずかに組み換わるため、生まれた子は母親の遺伝子のみを受け継ぐとはいえクローンではありません。一方、減数分裂を経ずに、母親の染色体を2本もつ子ができるケースもあり、遺伝子をシャッフルする減数分裂をまったく経ないため、生まれる子は親と全く同じ遺伝子を持つクローンになります。この方式による単為生殖は、本来は植物で多く見られ、アポミクシス(apomixis、無融合生殖)と呼ばれています。母親とまったく同じ遺伝子なため、このアポミクシスによって生まれた子は、当然メスになります。

中央融合型オートミクシス第一減数分裂の産物である異なる相同染色体由来の核が融合する。ヘテロ接合性が比較的維持される。一部のトカゲ類 1
末端融合型オートミクシス第二減数分裂後の卵核と第二極体が融合する。ゲノムの大部分がホモ接合化する。ヘビ類、オオトカゲ類 2
配偶子複製(後減数分裂的倍加)減数分裂完了後のハプロイド卵細胞が自発的に染色体を倍加させる。全ゲノムが完全にホモ接合化する。テユー科(ムチオトカゲ属など) 3
減数分裂前核内倍加減数分裂開始前にゲノムが倍加し、四倍体細胞から二倍体卵を生成する。母個体のヘテロ接合性が完全にクローン維持される。絶対的単為生殖種(ヤモリ、テユー科の一部) 4

近年のテユー科(Aspidoscelis 属)における全ゲノム解析によれば、任意的単為生殖(FP)個体は、これまで想定されていた末端融合型オートミクシスよりも極端な「配偶子複製(Gametic Duplication)」によって発生していることが示唆されている 1。このメカニズムでは、一世代でヘテロ接合性が完全に消失し、極めて高いホモ接合体($\text{Homozygosity}$)が形成される。これは獣医学的に見て、隠蔽されていた致死性劣性アレルの顕在化を意味しており、胚の死亡率向上や先天性奇形の主な要因となっている 〔Ho et al.2024〕1

単為生殖の欠点

単為生殖によって生まれた個体は、遺伝的な脆弱性を抱えていることが多いです。頭蓋・顔面奇形(顎の不整合、眼球欠損、頭蓋骨の変形)、脊椎・骨格異常(脊椎側弯症、指の欠損、尾の結節)、胚・幼体の死亡率(孵化前の死籠り、孵化後の衰弱死)などが見られます〔Ho et al.2024〕。単為生殖は、短期的にはメスが配偶者を探すコストを省き、急速に個体数を増加させるための強力な武器となり、これは、テグートカゲのような侵略的外来種が新たな土地に定着する際に大きなアドバンテージとなります。 しかし、長期的な進化の観点からは、単為生殖は欠点が優位になると考えられています。環境の変化や新たな病原体に対して脆弱になり、無性生殖では有害な突然変異が蓄積し続け、絶滅する恐れがあります。

参考文献

Ho DV et al.Post-meiotic mechanism of facultative parthenogenesis in gonochoristic whiptail lizard species.eLife13:e97035.2024

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。