【病気】グリーンイグアナの膀胱結石

はじめに

爬虫類の結石の多くは、飲水量の不足や高蛋白食の給与など、飼育環境の問題に深く起因すると考えられ、爬虫類の固有の生理機能が不適切な飼育環境によって限界に達した結果、生じる「飼育環境不適応症候群」の一つとして捉えることができます。

爬虫類の尿酸代謝と結石形成の基礎

グリーンイグアナを含む陸生爬虫類は、水分を最大限に節約するため、窒素老廃物を水溶性が低い尿酸または尿酸塩として排泄する尿酸排泄性の生理機能を持ちます。この生理学的適応の結果、尿酸塩は正常な排泄プロセスにおいても尿中で高濃度になります。水分摂取が不足したり、尿酸生成が増加したりすると、尿酸塩は過飽和状態に達し、膀胱内で沈殿・結晶化します。これらの結晶が有機質のマトリックスに取り込まれ、徐々に成長することで結石が形成されます。尿酸塩の結晶が多数集積し、巨大な結石を形成すると、膀胱の膨張や二次感染、さらには腎不全の悪化を引き起こします〔Cerreta et al.2022〕。

病因

グリーンイグアナの膀胱結石形成は、飼育環境由来のリスク因子と、イグアナ固有の解剖学的・生理学的制約との複合的な相互作用の結果として発生します。

慢性的な脱水と飲水量の不足

飼育環境における飲水機会の不足や不適切な湿度は、爬虫類の膀胱結石の最も重要な発生要因の一つです。水分摂取が不足すると、腎臓は水分を保持するために尿を極度に濃縮します。その結果、尿中の尿酸塩濃度が急速に上昇し、沈殿しやすくなります。慢性的な脱水状態は、腎臓に過度な負担をかけ、最終的に慢性腎不全を誘発し、CRFが進行すると、腎臓による尿酸排泄能力が低下し、血液中の尿酸値が上昇(高尿酸血症)するだけでなく、カルシウムとリンの比率の乱れが生じ、結石形成の土壌を強固にしてします。

高蛋白質食の悪影響

蛋白質含有量の高い餌、特に動物性蛋白質を多給する餌は、体内で代謝される窒素老廃物の量を増加させ、結果として多量の尿酸を産生させます。結石分析研究では、グリーンイグアナの結石がほぼ100%尿酸塩で構成されていることが確認されており、高蛋白質食が尿酸排泄負荷を増大させ、結石形成の主要なトリガーとなっていることが強く示唆されています〔Hendarti et al.2025〕。

不適切な栄養素のバランス

ビタミンAおよびDの過剰摂取は、腎臓の健康を損なうリスクがあります〔Hendarti et al.2025〕。さらに、シュウ酸塩を多く含む食物(ホウレン草)を多量に給与することも問題を引き起こします。シュウ酸は尿中でカルシウムと結合し、尿酸塩結石以外の成分(シュウ酸カルシウム塩)を形成する可能性や、結石の核となる有機マトリックスの形成に関与する可能性があるため、栄養バランスの偏りがリスクを増大させます〔Hendarti et al.2025〕。

泌尿器系解剖学・生理学特徴

グリーンイグアナの腎臓は、哺乳類と比較してネフロン数が少なく、尿を濃縮する機能を持つヘンレ係蹄を欠いています7。この構造的制約により、イグアナは哺乳類ほど効率的に尿を濃縮することができず、脱水状態になった際に、腎臓が尿酸塩の濃度上昇を効果的に制御することが困難になる。このため、わずかな脱水であっても尿酸塩が容易に沈殿し、結石の形成を招きやすくなります。また、イグアナの尿管は、排泄の終点である総排泄腔に開口しますす。総排泄腔は消化管の末端でもあり、糞便が通過する場所であるため、糞便由来の細菌が膀胱に逆行して侵入しやすく、尿路感染症を引き起こす解剖学的特徴があります。感染は尿のpH変化や炎症反応を介して、結石形成をさらに促進する要因となります。

結石分析

1996年から2020年にかけての21症例、132個の結石を分析した大規模な研究では、グリーンイグアナから摘出された結石の全てが100%尿酸塩で構成されていることが示されました〔Cerreta et al.2022〕。一部の報告ではカルシウムシュウ酸塩の関与も示唆されていますが、尿酸塩が圧倒的に優位であるという事実は、本疾患を尿酸代謝異常に起因するものとして扱うべき核心的な根拠となります。

症状

グリーンイグアナの膀胱結石は、結石が膀胱の容量限界に達するか、二次的な感染や閉塞を引き起こすまで、しばしば無症状で経過します。そのため、健康診断や他の問題の検査中に偶然発見されることも稀ではありません。発見された時点で、幅37mm、長さ41mmといった巨大な結石の報告もあります〔Hendarti et al.2025〕 。症状が現れた場合、それらは非特異的であることが多い です。一般的な症状には、食欲の低下、元気消失、活動性の低下が挙げられます。結石が巨大化すると、排泄時のいきみや糞便量の減少が認められることがあります。

診断・検査

X線検査は、膀胱結石の診断において極めて重要かつ標準的な手法です。しかし、尿酸塩結石はX線不透過性を示し、画像上で高密度な塊として識別されます。なお、尿酸塩結石がX線不透過性を示す事実は、結石が純粋な有機物ではなく、カルシウムやその他のミネラル成分と複合体を形成していることを示唆しています。また、腹部の触診によって、膀胱内に存在する硬い結石を異物として確認できる場合があります。

治療

グリーンイグアナの結石組成が尿酸塩主体であるため、哺乳類で時折行われる内科的な溶解療法は、効果が期待できません。したがって、開腹術および膀胱切開術が標準的な治療法となります。手術では、腹部を切開して膀胱を露出し、切開後に内部に溜まった尿を吸引し、結石を摘出します。健康な状態の動物に対して早期に手術が実施された場合、予後は良好です。手術を受けたイグアナは、平均39ヵ月の生存期間が報告されており、適切な外科的介入が長期的なQOLに寄与することが示されています〔Cerreta et al.2022〕。

予防

外科的切除は、結石を物理的に除去するが、結石形成の根底にある代謝的・環境的な原因を解消しなければ、高確率で再発をきたします。したがって、長期的な予後を良好に保つためには、終生にわたる飼育環境と栄養管理の恒久的な改善が必須です。再発予防の核心は、尿を最大限に希釈し、尿酸の産生を抑えることにあります。尿中尿酸塩の過飽和を防ぐため、飲水機会の頻度を増やし、高湿度環境を維持することが重要です。定期的な温浴は、水分補給を促す有効な手段であり、脱水予防に役立ちます。高蛋白質な食餌は尿酸負荷を増大させるため、食餌は植物性主体とし、蛋白質含有量を厳格に制限することが求められます。また、結石形成のマトリックスとなるリスクを最小限にするため、シュウ酸含有量の高い食物(例ホウレンソウ)の多給は避けるべきです。

参考文献

  • Cerreta AJ et al.Clinicopathologic findings and urolith composition for green iguanas (Iguana iguana) with urolithiasis: 21 cases and 132 stones (1996–2020).Journal of the American Veterinary Medical Association 260(10):1-6.2022
  • Hendarti G et al.Diversity And Characteristics of Bladder Stones in Green Iguanas (Iguana iguana): A Case Report.Jurnal Medika Veterinaria 19(1).2025

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。