肺呼吸
爬虫類は基本的に肺呼吸を行い、呼吸器は気管、気管支、肺から構成されます。鼻孔から流入した空気は喉頭・声門へ入り、気管・気管支に移行して肺に入ります。しかし、種類によって呼吸器の形が大きく異なります。カメとトカゲは2つの肺を持っていますが、ヘビは一方の肺の減少または喪失しています。ムカシシトカゲの肺には気管がありますが、気管支はありません〔Perry 1998〕。イグアナには肺の中に気管支がありますが、アガマ科にはありません。ヘビの一部の種類では、気管肺と呼ばれる呼吸を担う気管の領域があり、肺の末端には気嚢という肺の空気の一時的な貯蔵する袋があります〔Wallach 1998〕。これは獲物を丸のみしても窒息しないようにしているためです。
呼吸様式
多くの爬虫類では呼吸に使われる筋肉性の横隔膜は存在しません。肺の拡張や収縮は他の部位に頼って呼吸を行います。ヘビ以外は喉を膨らませて空気を吸いますので、呼吸困難なトカゲでは喉を膨らませている時間が増えてきます。そして、肋骨が胸骨と結合し、前肢が肋間の筋肉に付着しているため、肋骨や前肢を動かすことで胸を拡張・収縮させて呼吸をします。甲羅を持つカメでは、四肢や首の筋肉の動きで体腔内圧を変えることで、肺を取り囲む圧力を変え、容積を変化させて補助的に呼吸をします〔Davies 1981〕。そのため、呼吸が苦しい時は、頭と前肢を小刻みに出し入れするのは、空気を吸おうとしているのです。なお、オオトカゲやワニは哺乳類ほどではありませんが筋肉性の横隔膜が存在します。カメレオンの肺の末端に多数の指のような空気嚢があり、体腔壁の筋肉とくっついて肺を膨らませるのに役立っています〔Perry 1998〕。カメレオンの肺は体との比率が爬虫類の中で最大で〔Perry 1998〕、威嚇の際に体を膨らませるのに役立っています。爬虫類の肺には哺乳類が持つ細かい肺胞と言う構造ではなく、代わりに血管に富んだ小部屋が集合した嚢状(肺胞嚢)をしています。

呼吸生理学
哺乳類と同様に、ガス交換(酸素と二酸化炭素)の主要器官は肺ですが、水生ヘビやカメなど一部の種は、咽頭粘膜、総排泄腔粘膜、そしてスッポンなどの一部の種類は、皮膚を介したガス交換が可能で、皮膚ガス交換は、酸素の吸収よりも二酸化炭の排出において重要です。
多くの爬虫類、特に水生種は、長時間の無呼吸時に嫌気性代謝に切り替えることができます。一部のウミヘビは、皮膚のガス交換によって体内の二酸化炭素の約74%を排出します〔Wang et al.1998〕。哺乳類の肺と比較して、爬虫類の肺はコンプライアンス値が高く、比較的膨らませやすいと言えます。コンプライアンスが高いほど呼吸仕事量は少なくなるため、爬虫類は呼吸数を増やすことで分時換気量を増加させます。また、爬虫類は哺乳類と比較して、肺容積が大きいのも特徴です〔Perry 1988〕。しかし、ガス交換のための表面積は、同程度の体重の哺乳類の約20%に過ぎません。爬虫類の換気制御は、哺乳類や鳥類とは異なります。高濃度の二酸化炭素が呼吸を刺激する哺乳類の呼吸生理学とは対照的に、爬虫類の呼吸は、低酸素症、高炭酸ガス症、および環境温度によって制御されます。環境適応に応じて、多くの種の違いが存在するため、低酸素および高二酸化炭素症になると、異なる受容体が換気を増加させます。陸ガメでは、呼吸数は高炭酸ガス症の間に増加しますが、低酸素症の間には減少します〔Wang et al.1998〕。爬虫類は、様々なレベルの低酸素状態に耐える独自の能力を持ち、嫌気性代謝へと転換することができます。爬虫類では、ガス交換を迂回する肺血流を示す肺内シャントが観察され、シャントはウミヘビ類で最も発達しており、肺容量の減少に伴い増加します〔Wang et al.1998〕。
参考文献
- Perry SF.Lungs: comparative anatomy, functional morphology, and evolution.In Biology of the reptilia19: morphology G visceral organs.Gans C,Gaunt AS.eds.Society for the Study of Amphibians and Reptiles.St. Louis:1-92.1988
- Wang T,Smits AW,Burggren WW.Pulmonary function in reptiles.Gans C,Gaunt AS eds.Biology of the reptilia19:morphology G visceral organs.Society for the Study of Amphibians and Reptiles.St.Louis:297-374.1998
- Wallach V.The lungs of snakes.In Biology of the Reptilia19 (Morphology G),Gans C ed.B Visceral Organs.SSAR,Contrib Herpetol:Ithaca,NY.93–295.1998