【解剖】鳥の塩腺

塩腺/塩類腺(Salt gland)と呼ばれる塩類排泄機能が、水鳥、海鳥、一部の猛禽類や砂漠に棲息する鳥類では発達しています〔Riddell et al.1991,Shuttleworth et al.1999〕。海水や餌とともに摂取した過剰な塩分を体外に排出する機能で、海鳥類では頭骨の眼窩の上に1対で存在し、鼻腺(Nasal gland)とも呼ばれています。これは、腎臓だけでは処理しきれない過剰な塩分を、高濃度の塩水として体外へ排出する重要な役割を担っています。

塩腺の仕組みと働き

主な働きは、血液中から塩化ナトリウム(NaCl)を効率的にろ過し、濃縮することです。水鳥は、飲む水や餌となる海産物から大量の塩分を体内に取り込みます。取り込まれた塩分により、血液中の塩分濃度が上昇します。血中の塩分濃度の上昇を感知すると、自律神経系の指令により塩腺が活発に働き始めます。塩腺内部には無数の細い管が張り巡らされており、血液がこの管を通過する際に、「ナトリウムポンプ」などの働きによって塩分が能動的に汲み出されます。この際、向流交換系という効率的なシステムが利用され、海水の約2倍にもなる高濃度の塩水が作られます。濃縮された塩水は、管を通って鼻腔へと送られ、最終的に鼻の穴から体外へと排出されます。この塩腺の働きは非常に強力で、鳥類の腎臓の能力をはるかに上回ります。そのため、水鳥は真水が手に入らない環境でも、海水を飲むことで水分を補給し、生存することが可能になるのです〔Shuttleworth et al.1999〕。塩腺が鳥の体から排出されるナトリウムと塩化物の60~88%を除去できるという記載もあります〔Frazier et al.1995〕。

鼻の周囲のガビガビ

脱水症状や熱ストレスを受けた鳥の鼻孔の周囲に塩の付着が見られる場合がありますが、アホウドリなどでは、くちばしの先の溝を伝ってしたたり落ちる様子が観察され、カモメなどでは、頭を振ってしぶきのように飛ばすこともあります〔Lumeij 2000〕。

塩腺を持つ鳥たち

塩腺は、海で生活する鳥に広く見られ、塩腺の大きさは鳥の塩分摂取量に依存し、海鳥は過形成反応で大きく〔Shuttleworth et al.1999〕、塩分をほとんど摂取しない鳥では小さいです。以下はその代表例です。

  • 海鳥: アホウドリ、ミズナギドリ、カモメ、ウミスズメ、ペンギンなど

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参考文献

  • Frazier DL,Jones MP,Orosz SE.Pharmacokinetic considerations of the renal system in birds: part I. Anatomic and physiologic principles of allometric scaling.J Avian Med Surg9:92-103.1995
  • Lumeij JT.Pathophysiology,diagnosis and treatment of renal disorders in birds of prey.In Raptor Biomedicine III.Lumeij JT et al eds.Zoological Education Network.Inc. Lake Worth FL:p169-178.2000
  • Riddell C,Roepke D.Inflam16_Nephrology.qxd 8/23/2005 10:43 AM Page 490 Chapter 16 | EVALUATING AND TREATING THE KIDNEYS 491 mation of the nasal gland in domestic turkeys. Avian Dis35:982-985.1991
  • Shuttleworth TJ,Hildebrandt JP.Vertebrate salt glands: shortand long-term regulation of function.J Exp Zoo283:689-701.1999

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。