【病気】げっ歯類の歯牙腫(オドントーマ)

歯原性腫瘍および腫瘍様病変(歯牙腫、偽歯牙腫、歯根膜腫)

歯原性腫瘍は、ヒトや多くの動物種において、長らく稀な疾患として認識されてきましたが、これらの腫瘍のほとんどは悪性ではないため、腫瘍と腫瘍様(非腫瘍性)病変との区別は議論の余地があります。これらの歯原性異常を記述するために、いくつかの分類が提案されています。その中には、歯原性腫瘍に焦点を当てたものもあれば〔Head et al.2003〕、過誤腫、先天性奇形、または変性病変や異形成病変を含むものもあります〔Head et al.2003,Thoma et al.1946,Walsh et al.1987〕。 過誤腫は、成熟組織の過剰増殖からなる良性の腫瘍様病変と定義され、通常は体の患部に発生しますが、組織化が乱れ、多くの場合、1つの要素が優勢です〔Boy 2006〕。

歯芽腫

歯原性間葉を伴う歯原性上皮の腫瘍は、当初は歯牙腫として報告されました〔Jang et al.2002,Dubitelzig et al.1986〕。こられらはラット〔Jang et al.2002〕マウス〔Ida-Yonemochi et al.2002〕、プレーリードッグ〔Wagner et al.1999〕 およびその他の非げっ歯類種で報告されています〔Boy 2006〕。一部ではハムスターでは臼歯に発生した歯牙腫が 植物由来の異物に由来した化膿性炎症と関連していた報告もあります〔Ernst H et al.2013〕。歯牙腫は、その組織学的特徴と組織化の程度に応じて、複合歯牙腫と複雑歯牙腫にさらに分類されます〔Head et al.2003〕。正常な歯牙形成の全ての特徴(エナメル芽細胞上皮、組織化された象牙質マトリックス、およびエナメル質マトリックス形成)は、これらの腫瘍に見られます。 複合歯牙腫(げっ歯類では報告されていません)は、腫瘤内から発生した、完全に分化しているが異常な形状の歯のような構造(歯状組織)が多数存在することを特徴とする腫瘤性病変です。これらは転移の可能性のない局所破壊性腫瘍です〔Head et al.2003〕。この病変は腫瘍形成ではなく過誤腫であると考える人もいます〔Head et al.2003,Boy 2006〕。

エロドントーマ(Elodontoma)

これらの病変の分類と定義において、げっ歯類の切歯が常生歯(エロドント:Elodont)であること、そして有根歯歯における歯原性腫瘍の過誤腫性か腫瘍性かという議論を踏まえ、過誤腫性病変に関して、歯原性腫瘍という用語に代えてエロドントーマ(Elodontoma)という用語を提案され、つまり常生歯の根尖において継続的に発生する歯原性組織および歯槽骨の過誤腫と説明されます〔Boy 2006〕。これは、炎症、外傷、中毒、あるいは加齢のみに起因する、げっ歯類およびウサギ類の連続的に萌出する切歯の根尖部における無秩序な発達と腫瘍様異形成を指します〔Head et al.2003〕。組織学的には、歯原性上皮、エナメル質基質、または完全に石灰化したエナメル質、象牙質、セメント質、歯髄などの歯原性要素の無秩序な組織増殖と異形成が明らかになります。

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発生

げっ歯類ではプレーリードッグやジリスで歯牙腫が多発し、次いでハムスター、デグー、シマリス、スナネズミに発生します。

症状

基本的に上顎の切歯の歯根に多発し、腫瘍は鼻涙管へも影響も起こすことで流涙がみられ、侵された切歯は萌出しなくなります。

腫瘍が大きくなると、鼻腔閉塞や鼻甲介の破壊を容易に起こして鼻炎を起こすことで鼻汁やくしゃみが見られ、信仰すると呼吸促拍や呼吸困難になり、鼓腸症までになって異常と発見されることもあります。

重篤になると眼球突出が起こることがあります。

診断

X線検査において上顎切歯の境界明瞭な石灰化病巣が特徴な所見です。

詳細はCTスキャンで診断します。腫瘍の大きさおよび鼻腔内の破壊侵襲の程度が確認できます。

治療

抜歯をすることは小型げっ歯類に侵襲が強いのため、二次的な炎症を抑えるために抗生物質や抗炎症剤を投与するのみです。呼吸困難であればネブライザー療法および酸素吸入を行います。

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参考文献

  • Barker IK, Van Dreumel AA.The alimentary system.In Pathology of Domestic Animals ed. Jubb, Kennedyand Palmer.3rd ed.p19.Academic Press.Orlando.1985
  • Boy SC,Steenkamp G.Odontoma like tumours of squirrel elodont incisors-elodontomas.J Comp Pathol135:56-61.2006
  • Dubitelzig RR et al.Complex Odontoma in a Stallion.Vet.Pathol23:633-635.1986
  • Ernst H et al.Spontaneous Complex Odontoma in the Molar Region of a Syrian Hamster:a Case Report.Conference:STP meeting Portland.USA.2013
  • Hanselka DV,Roberts RE,Thompson RB.Adamantinoma of the equine mandible.Vet Med/Sm Anim Clinic69:157.1974
  • Head KW.Tumours of the upper alimentary tract.In International Histological Classification of Tumours of Domestic Animals.part1.p145.World Health Organization.Geneva.1976
  • Head KW,Cullen JM,Dubielzig RR.WHO histological classification of tumors of domestic animals,second series.Armed Forces Institute of Pathology;Washington DC.Histological classification of tumors of the alimentary system of domestic animals:p46-57.2003
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  • Jang DD,Kim CK.Spontaneous complex odontoma in Sprague-Dawley rat.J Vet Med Sci64(3):289-291.2002
  • Moulton JE.Tumors of the alimentary tract.In Tumors in Domestic Animals,ed.Moulton,2nd ed:p240.University of California Press.Berkeley.1978
  • Norris AM.Withrow SJ,Dubielzig RR.Oropharyngeal neoplasms.In Veterinary Dentistry ed.Harvey.1st ed:p131.WB Saunders, Philadelphia.1985
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  • Vaughan JT,Bartels JE.Equine mandibular adamantinoma.J Am Vet Med Assoc153:454.1968
  • Walsh KM,Denholm LJ,Cooper BJ.Epithelial odontogenic tumours in domestic animals.J Comp Pathol97:503-521.1987
  • Wagner RA,Garman RH,Collins M.Diagnosing odontomas in prairie dogs.Exotic DVM Magazine1(1):7–10.1999

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。