原因
爬虫類の飼育数は犬や猫と比べてまだ少ないですが、近年は世界中でも数倍に増加していると言われています。しかしながら、ペットとして飼育されている爬虫類の75%が、飼育開始から1年以内に死亡している報告もあり 〔Warwick et al.2017〕、その原因の大半は正しい飼育情報が入手できずに、不適切な飼育環境、温度や湿度、餌などが原因とされ、ストレスが大きく関与しているとも推測されています。しかし、爬虫類のストレス、つまり心理的な問題ならびに関連する行動や兆候に対する理解は、あまり一般的ではありません。爬虫類の行動の変化は、他の動物と同様に、外傷を起こしたり、または病気の主な指標となります。飼育下の爬虫類では、様々なストレスにさらされることが多いです。野生と異なり飼育下における、ケージの大きさ(水槽が狭いために、運動不足になり、本来の行動がとれない)、ケージの位置(人がよく通る場所だと爬虫類が落ち着かない) 、水場と陸場の割合(遊泳や樹上生活パターンの成立)、樹木やシェルター(隠れる空間が必要)、温度や湿度(POTZや湿度設定)、光(昼行性種が夜でも明るいと、生活リズムが崩れる)、臭気(排泄物によるアンモニア臭)、騒音(テレビやスピーカーなど常に音が出ている)などの環境要因、基礎的疾病や栄養状態などの身体要因、同居あるいは近接他個体(動物種によっての孤立あるいは社会的飼育)、飼い主との関係(人に触られたり、見られること)などの社会要因、あるいはそれらの複合的なものがストレスになります。犬や猫とは異なり、爬虫類は専門家ではない者が飼育することで、不適切な飼育環境が作られています。こうした重大な生物学的考慮事項と飼育管理上の欠陥は、爬虫類に関連する潜在的健康問題に大きく影響を与えます。そして、新しい環境に対する爬虫類の反応で、ストレスが発現することもあります。アカアシガメとフトアゴヒゲトカゲで研究したところ、アカアシガメは新しい環境に置かれると全体的に不安に似た反応を示し、首の伸展はこの種の不安のもっともらしい兆候であるように見えましたが、フトアゴヒゲトカゲは不安に似た反応を示さなかったものの、慣れた環境と新しい環境を区別しているように見えました〔Moszuti et al.2017〕。爬虫類の種類によって、新しい環境に馴れにくい種類も把握しておくべきでしょう。そして、人間が爬虫類を手に取る行為であるハンドリングは過大なストレスになると言われています。哺乳類のような愛着行動を示さない爬虫類にとって、いわゆる捕食されるという生存リスクと関連する接触行為ととられてしまいます〔Warwick et al.2013〕。
発生
爬虫類の行動多様性は、鳥類や哺乳類に見られる行動と類似しているものもあれば、それ以上に解釈が難しいです〔Gillingham 2004〕。正常な行動とは、例えば、自然界では動物が餌を求めて何時間も探索的な運動をすることは正常で健康的な行動である一方、飼育下では餌が豊富にある狭い囲いの中を1時間もかからずに歩き回ることは異常で不健康である可能性があります。飼育下の爬虫類は多岐にわたり、野外での行動観察が不足しているため、飼育者は適切な比較情報を得ることができませんので、異常との判断はできませんので、正常と過小評価されるケースがあります。もちろん、自然界にはストレス要因が存在し、頻繁に発生しますが、動物は全体的なバランスと適合性を備えた環境において、特定の進化した課題に対処するように適応しています。対照的に、飼育下では自然界の多くの特徴が再現できていないため、爬虫類の本来持っている捕食や空間移動などに関わる生物学的ニーズが奪われて、ストレスが溜まります〔Arena et al.2004,Warwick 2004〕。また、爬虫類のブリーダーは、「適切な給餌」「適切な体重」「適切な繁殖」といった名目で急激な成長によって大きくして繁殖能力を上げる、またゲル状フードやペレットなどの単一な餌の給餌は「栄養バランスは満たす」という名目で、補食という生物本来のニーズも再現されず、人間にとって好都合な飼育が浸透し、本来の動物福祉としては外れています〔Broom et al.1993,Warwick 2004〕。ストレス反応の発現は、爬虫類の種類にもよります。カメレオンは元々が警戒心が強く、人が目を合わせる事も好ましくありませんし、上から覗かれることも外敵からの捕食に類似していることから避けるべきと言われ、当然ながらハンドリングも好ましくありません。一方で、ヒョウモントカゲモドキ、フトアゴヒゲトカゲ、アカミミガメなどはハンドリング有り無しに関わらす、体調が壊すほどのストレスは見られません。そして、大型になるグリーンイグアナやオオトガケなど、ハンドリングに慣れさせないと、日頃のかんり日が出来ないような種類と言えます。 とくにイグアナの類はハンドリングは必須です。
ストレスマーカー
ストレス下にある個体は、兆候や行動に異常として現れます。ストレスを受けることでの、血中の副腎皮質ホルモン(コルチゾル)値の上昇や交感神経系などにおけるストレス反応の爬虫類で同様に見られ〔Denardo 2006,Wilson et al.1992〕、ニューメキシコハシリトカゲは生息地の近隣での戦闘機の騒音が原因でストレスに関与するホルモン値が上昇した報告があります〔Megen et al.2023〕。しかしながら、一方で上昇が見られないという例もあり〔Injaian et al.2020〕、ストレス下における爬虫類の測定がなされましたが、その結果は一定ではありませんでした〔Lance et al.1999,Gleeson et al.1993〕。それは採血によるハンドリングストレスの影響を反映している可能性が高く〔Lance et al.1999〕 、その解釈が難しくなっています。
ストレス兆候と異常行動
飼育下の爬虫類は、環境の影響でストレス要因から逃れられない場合があり、様々な兆候や異常行動が見られます。しかし、これらの兆候や行動は爬虫類の種類や個体差によって異なり〔Morgan et al.2007,Arena et al.2004,Warwick 2004,Warwick et al.2011a,Warwick et al.2013〕、中には曖昧なものも多く、その判断は難しいかもしれません。例えば、睡眠と嗜眠は正常と異常どちらにも起こることで明確な判定がつけられませんし、ストレスでの発生なのか、単に病気によるものかの判断も難しいです〔Benn et al.2019〕。
①透明な境界との相互作用(ITB)
透明なケージや水槽の壁を押したり、這い上がったり、堀り抜くような行動、ひっかき行動、吻部のこすりつけ(ヘビやトカゲ)が頻繁に見られ、これらを透明な水槽やケージなどへの過剰な反応をInteraction with transparent boundaries(ITB/透明な境界との相互作用)と称されています。水ガメでは水槽の壁に向かって繰り返し泳ぐ行動をグラスサーフィン(Glass surfing)、トカゲでは腹を水槽のガラスに擦りつけて、四肢がまるでグラスの上で体をサーフィンしているかのように行動することからグラスダンシング(Glass dancing)と呼ばれています。これらは探索行動や逃避行動などの相互作用として発生し、活動時間の大半に見られるほど頻発します〔Warwick et al.2013〕。
例えば、トカゲやヘビの吻部の擦過傷や水ガメの四肢の皮膚炎はITBと関連しており〔Warwick et al,2013,Garner 2005,Yeates et al.2008〕、ストレスを示す有効な指標となっています。

また、水槽の壁面にヘビがくっつく行為も起こりますが、ヘビは木や岩など、垂直な場所に登ったり、隠れたりする習性がありますし、しかし、常に壁面を這い回る、興奮した状態での壁面からの脱出を試みるなどの行動は異常で、水槽内にシェルターが十分に設置されていない場合、壁面を隠れ場所として利用しようとします。
②活動性の低下/嗜眠/拒食
活動性が低下して、拒食、閉瞼あるいは寝ている時間が増えてきます。慢性的かつ進行性のストレスは、コルチゾルの長期的な増加につながり、筋量減少と成長抑制をもたらします。その結果、削痩ならびに衰弱につながります。爬虫類の中ではヘビに最も起こりやすく、病気の回復後で健康になった個体においても、投薬ならびに注射、検査などが過度のストレスで拒食が続く個体がいます。また、爬虫類は脱皮前は拒食あるいは食欲不振が見られ、エネルギーを脱皮に集中させるためと考えられています。特にヘビでは拒食をしますが、これら脱皮が完了すると食欲が戻る生理的拒食です。しかしながら、慢性的なストレスを受けている爬虫類の中には、過食による肥満を呈する個体もいます〔Silvestre 2014〕。
③異なった場所での停留
通常とは異なる場所に、通常とは異なる時間に行動している状態です。樹上性のカメレオンがケージの床にいる時間が増えたり、昼行性の種類が夜に活発になります。また、ストレスを受けた一部の動物は、習性や行動を変える可能性があります。例えば、人が野生のイグアナとのアイコンタクトをしただけで、階層的な止まり木に登る行動が著しく乱された〔Burger et al.1991〕、ウミガメが水面上の低高度を飛行するドローンに反応して、深い水域への遊泳などの異常行動を示した報告があります〔Bevan et al.2018〕。シェルターから長時間出てこないのも異常行動になります。
④ぎくしゃくした動き/ためらう動き
日常の動きと違って断続的に動く、あるいはムラのある動きという表現の動きをします。水棲種では蛇行するような浮遊異常、ヘビではビクッビクッと筋肉を定期的に動かすようなこともあります。
⑤頭部の掩蔽行動(頭を隠す)
シェルターなどの物体や床敷に頭あるいは上半身を意図的に隠す行動で、主にトカゲに見られます。
⑥過敏行動
周囲で人が動いただけで目で追って、警戒や威嚇したり、突発的に逃走したりするような過敏な行動です。環境刺激に対する異常に高いレベルの警戒心いわゆる神経質な個体に好発します。カメやヘビでは飼育者が近づいただけで、突然首を引っ込める動作をしたりします。
⑦異常な姿勢・体勢
カメレオンやグリーンイグアナでは人や嫌いな物に対して体を反らしたり、ヘビでもアーチ状の姿勢で抵抗します。体を地面に対して平らに押し付ける姿勢や行動は、警戒心が強いトカゲに好発しますが、リラックスした際にも同じ兆候が見られますので、注意して下さい。
⑧カメの四肢と頭の嵌入
カメは危険を感じると、甲羅の中に頭や四肢を引っ込めることで、より安全な状態に移行する防御行動が見られます。これは、甲羅の強度を最大限に活かすための行動であり、安心したカメでは起こりません。

⑨体の膨張
トカゲやカメレオンにおいて意図的に体を膨らませて自分を大きく見せるのは威嚇行動で、体の膨張と収縮を繰り返したり、「シュー」という警戒音を伴う場合もあります。状況によっては、長い間体を膨らませていたり、顎のみを膨らむ仕草を何度も繰り返します。フトアゴヒゲトカゲでは特徴的な顎のヒゲを広げたり、グリーンイグアナではデューラップを広げる動作も同時に見られることがあります。
⑩異常な音や声
爬虫類の警戒音は、種類によって様々ですが、主に威嚇や警告として発せられます。例えば、ターニップ・テイル・ゲッコーは縄張りを主張する時に「カチッ」という音を出し、アオジタトカゲやオオトカゲは「シーッ」、テグーは「プギー」「キュー」という音を発します。ヒョウモントカゲモドキは「ググググ」と様々な状況で鳴きます。肺から押し出した空気が声門を通るときに、この音が発せられると言われています。リクガメは嘴を擦り合わせて、擦れるような音を立てます〔Whitham et al.2013,Brumm et al.2017〕。ただし、これらの声や音は警戒音だけでなく、餌や性的刺激などの興奮時や痛い時に発することもありますので注意して下さい。また、ガラガラヘビは危険を感じると脱皮殻の積み重なった尾を激しく振るわせて音を出します。
⑪開口(Gap)
散発的で、通常はゆっくりとした口を開けた状態で、トカゲではデューラップの伸展を伴うこともあります。キャップ(Gap)あるいはギャッピング(Gaping)と呼ばれ、カメレオンでは脅威を感じ、警告行動の1つとして有名です。他にも暑すぎて体を冷やそうとする温度調節、あるいは呼吸器感染症でも見られます。
⑫不動化
人が近くにいると固まった姿勢あるいは緊張した不動化をする警戒反応です〔Mancera et al.2017〕。
⑬擬死行動(死んだふり)
ヘビが死んだふりをするのは、捕食者から逃れるための生存戦略の一つで、擬死行動と呼ばれています。恐怖を感じると、体をぴくりとも動かさずにじっとし、シシバナヘビは異臭となる肛門腺分泌を放したり、ダイススネークは口から血を流したりして、さらに死んでいるように見せかけます〔Gregory et al.2007,Santos et al.2010,Bjelica et al.2024〕。飼育下では殆ど擬死行動を取る事は無いと思われます。
⑭同居個体への攻撃
攻撃的または防御的な行動で、ケージ内の同居個体にかみついたり、追いかけて攻撃をしかけます。特に獰猛な性格をしているアカミミガメは他個体に対しての四肢や尾の咬傷を起こし、尾が欠落するようなことも珍しくはありません。
⑮人間への攻撃
人が突然近づいたり、ハンドリングを行う際にかんだり、爪でひっかりたり、尾を鞭のように使った攻撃をします。
⑯トカゲの尾の自切
一部のトカゲでは、人の存在で驚いたり、あるいは接触も関与して、尾の自発的な切断をすることがあります。
⑰嘔吐・吐出
ヒョウモントカゲモドキは移動、ヘビでは食後のハンドリングが原因になることが多いです。ヘビては、餌か大き過ぎたり、解答不足でも起こりますが、餌の消化中に代謝をあげる特徴から、食後の過剰なストレスがかかると、ほとんどのケースでヘビは餌を吐き戻します。餌の消化には多くのエネルギーを要するので、外敵からの逃避との兼ね合いを考えて、逃避を優先した場合には餌の嚥下、消化を諦めてしまうのでしょう。
⑰毒を吐く
人間の存在や接触のストレスで、毒液を牙から放出する毒蛇噴ききコブラ(スピッティングコブラ:Spitting Cobra)と呼ばれているアーシュドクハキコブラやクロクビコブラなどのヘビがいます〔Westhoff et al.2005〕。防御反応として牙から直接毒液を噴射し、詰められると2mも離れたところまで毒素を飛ばせます〔Panagides et al.2017 〕。毒毒を噴射する標的は決してランダムではなく、意識的に狙いを定め、攻撃者の目や顔に90%の確率で正確に噴射します。
⑲目から血が噴き出す
ツノトカゲの仲間は、敵に襲われると体を膨らませて威嚇し、目から悪臭のする血を1m以上噴射させます。ツノトカゲが食べているアリの体内にある蟻酸という成分から作られる物質が含まれているために、刺激臭があるそうです。この威嚇行動は、俗に本種の特徴として紹介されています〔Wade et al.2001〕。
⑳体色の変化
典型的には、一部のトカゲ(特にカメレオン)は色を変えます。通常は明るい体色が、ストレス時には暗く変色する場合が多く、変化の速さは速い場合もあれば遅い場合もあります。 トカゲではグリーンイグアナは変色しやすい種類で、オスのフトアゴヒゲトカゲは顎下が黒色になります(ストレスマーク:Stress mark)〔Frohnwieser et al.2018〕。特にカメレオンが体色の変化で表情や意思を表すことがよく知られています〔Stuart-Fox et al.2006〕。

⑳自傷(self mutilation)
カメは自らの前肢や一部の甲羅かむ自傷行動が見られます。トカゲでは尾をかむような行動が見られるのですが、かもうとしてグルグル回っているだけのこともあります。

㉑異食症
爬虫類が普段とは違う食物を食べる様子が観察され、これは異食症と呼ばれ、ストレスによって栄養価の無い石や砂などを無性に食べたくなる兆候です〔Warwick et al.2013〕。多くの爬虫類種において、土や石を食べることが正常かどうかは分かっていませんが、まれに石が腸閉塞を起こして、手術が必要になる場合もあります。もちろんストレスではなく、餌と一緒に土や石を誤って食べてしまったり、石は消化管で餌を分解するのに役立てたり、土や石には、爬虫類にとって必要な栄養素(ミネラルなど)が含まれている可能性があります。

㉒卵閉塞
メスの卵をもった爬虫類ではストレスにより、通常の産卵行動を見られず、卵閉塞を起こすことがあります。多くの種は、卵を産むための穴や地下室を掘りますが、ケージによる飼育環境はこの行動に対応できないことも原因となりますが、動物は床面の露出した場所に卵を産むことを望まないことがあります。その他、飼育環境の変化や騒音などの潜在的なストレスも原因となります〔Yeates et al.2008〕。

予防
爬虫類の飼育において、ストレスのない飼育環境が理想となりますが、種の自然環境を模倣した飼育環境を提供すること自体がエンリッチメントに繋がります。個体が示す種特異的な行動を再現するために、ケージを広くし、レイアウトを考え、身体か隠れるシェルターを設置します。餌を探索させる、つまり捕食させることも必要かもしれません。その他、外気温動物なために温度設定(POTZ)はもちろん、水場ならびに湿度設定などの基本的なニーズに対応し〔Zwart 2001〕、個々の爬虫類の生態に近い環境を再現するために、刺激に富んだ環境を考えます〔Mellor et al.2015〕。実際には、飼育下で動物の自然生息地を包括的に再現することは事実上不可能です〔Zwart 2001〕。しかし、爬虫類の展示販売場では、スーパーのおかずのように簡易パック詰めされて陳列されています。爬虫類は狭い空間で安全だと感じるはずてわ、広い空間は必要ではないと一般的に誤解されていることで、科学的根拠も倫理的正当性ももありません。
ケージを広くする/野生の生態再現するレイアウト
多くの爬虫類は狭いケージで飼育され、爬虫類は本来動き回らないのでスペースを必要としないという誤解もあります。爬虫類をケージペットとして推奨するには、環境温度(POTZ)の管理や掃除などの人の都合には有利かもしれませんが、科学的にも倫理的にも誤りです。爬虫類がストレスを感じずに過ごせるよう、ケージは広く、レイアウトは自然に近い環境を再現することが理想的です。飼育下のトウブハコガメは野生と比べると、逃走しようとする時間が長く、休息して安堵する時間が短い報告があります〔Case et al.2005〕 。
爬虫類における行動圏の研究によると、数百平方メートルから数千キロメートルの範囲で動くことが予想されてます。小型種は食虫性であることが多く、体の大きな種より高い頻度で食事をする必要があるだけでなく、速い速度で動く獲物を追いかけ捕まえるにはかなり敏活性がなくてはなりません。大きさ等の違いはありますが、全ての爬虫類の活動性は高いと考えてください。積極的には動かないと誤解されがちのオオトカゲやニシキヘビのような大型の肉食性の爬虫類でも大量の餌食べた後、短い静止時間を持つことがありますが、これは一時的な短い時間の行為にすぎません。自由に動き回ることができる十分な空間が正常な行動と健康のために必要、全体の配置も動物の姿勢や位置姿勢に対応するためにも重要である。全ての爬虫類はある一定の体の角度や向きを求め、快適性及び体温そして身体的な不快感の改善に姿勢や体位は関係する。蛇は自分の体の長さより短い幅の檻の中では真っ直ぐに伸びる姿勢をとることができない。直線姿勢は腸の不快感を取るために必要な姿勢です。ケージの大きさも当性のない拘束環境において『適切』で『十分な』空間や檻のサイズを求めようと試みることはあさはかな考えなのかもしれない。十分な大きさであると考えられ提唱されている檻の大きさ(それが十分に考慮されたサイズであろうと)は容認できる最小サイズの檻である。水場と陸地をバランスよく用意するなど、種類に応じたレイアウトを工夫しましょう。また、飼育スペースが狭すぎるとストレスの原因になるため、種類に合った適切なサイズのケージを選ぶことも大切です。刺激選好試験において、トウブインディゴヘビ(Drymarchon couperi)は、ポリ塩化ビニル製のパイプや砂場よりも、自然環境に類似した川石を明らかに好み、目新しいものには興味を示さませんでした〔Mehrkam et al.2015〕。
シェルターの設置
隠れ場所を作ることは、爬虫類が落ち着ける環境を提供するための効果的な方法です。トカゲやヘビには、シェルターや隠れられる場所を数カ所用意し、カメにも甲羅を隠せるような安全な場所を提供すると良いでしょう。環境に合わせた隠れ場所の工夫を施すことで、爬虫類の行動が安定し、リラックスした生活が送れるようになります。夜になったらケージに暗幕をかけたり、目隠しになるようすだれを設置したり、また出入りが少ない部屋にケージを置くことも一方法かもしれません。
カメレオンの鑑賞
特に上から見下ろされるとストレスを感じるため、ケージを飼育者の目の高さ以上にした方がよいともいわれています。もちろんカメレオンから見える所に、他のペットなどが見えると、それもストレスになります。ケージは床置きせずに、棚あるいは机の上などに置きましょう。
餌の探索行動
爬虫類においては、程度の差はあれ、探索行動が推定されている〔Boissy et al.2007,Whitham et al.2013〕。生きた獲物は、肉食爬虫類にとってエンリッチメントとなり、獲物を狩猟・捕獲することを可能にすると示唆されている〔Manrod et al.2008,Phillips et al.2011〕 。探索行動、親和行動、発声、予期行動、遊びはすべて、ポジティブな感情の評価とモニタリングに用いられており、調査されています。特に有鱗目トカゲは、物体に対する好奇心と高度に発達した探索行動を示している。一例として、アノールトカゲは、オレンジ色または黄色の物体を、他に明らかな目的もなく探索します〔Burghardt 2005〕。熱源を移動させたり、異なる隠れ場所を設けたりすると、探索行動が促進されることが示唆されている〔Burghardt 2013〕。Hernandez-Divers (2001)は、飼育環境を部分的に変更するだけでも、爬虫類の探索行動が増加し、行動エンリッチメントの手段として機能する可能性があると述べています〔Hernandez-Divers 2001〕。Roseらによる研究では、探索行動が、爬虫類の行動エンリッチメントの手段として、より効果的に機能する可能性があると報告されています〔Rose et al.2014〕。
温度・湿度管理
温度と湿度の管理は、爬虫類の健康維持とストレス軽減に重要な要素です。適切な温度と湿度を維持することで、ストレスを大幅に減らすことができます。日々の変化に合わせて管理を行いましょう。特に季節の変わり目には、温度や湿度が変動しやすいため、こまめな調整が必要です。安定した環境が維持されることで、爬虫類が落ち着き、健康な生活を送ることが期待できます。
食後のヘビ
採食後のヘビは消化が順調に行われるように、活動性は低下させて、消化管の代謝を上げます。そのために環境温度を上げて保温し、触りすぎないようにしないと、ストレスにより獲物を吐き戻すことがありますので注意して下さい。
遊び
爬虫類が遊ぶという概念は少ないです〔Burghardt 2005〕。一部の研究者は、類は遊びができ、ストレス発散としての一解決案とされ、飼育ケージ内に置かれた物体に獲物の匂いをつける感覚エンリッチメントを用いる例を示しています〔Burghardt 1990〕。 自傷したナイルスッポンにボール、棒、ホースを与えると、自傷行為が劇的に減少し、活動性も増加した報告があります 〔Burghardt et al.1996〕。爬虫類の中で、遊び行動は特に大型のオオトカゲに多く見られ、目新しい物体を押したり、攻撃的な意味合いを持たずに飼育者と綱引きをする様子が観察されています〔Burghardt 2005〕。
まとめ
爬虫類はストレスに敏感で、飼育環境や日常の接し方によってストレスを感じやすくなりますので、日常的な観察や環境管理を徹底することで、ストレス反応を早期に察知し、迅速に対応することが重要です。
参考文献
- Arena PC,Warwick C.Miscellaneous factors.In Health and Welfare of Captive Reptiles.Warwick C et al.eds.Murphy Chapman & Hall/Kluwer:p263-283.2004
- Broom D,Johnson KG.Stress and Animal Welfare.Chapman and Hall/Kluwer:p80-82.1993
- Benn AL et al.A Review of Welfare Assessment Methods in Reptiles,and Preliminary Application of the Welfare Quality® Protocol to the Pygmy Blue-Tongue Skink,Tiliqua adelaidensis,Using Animal-Based Measures,Animals (Basel)17;9(1):27.2019
- Bevan E,Whiting S,Tucker T,Guinea M,Raith A,Douglas R.Measuring behavioral responses of sea turtles,saltwater crocodiles,and crested terns to drone disturbance to define ethical operating thresholds.PloS One13(3).2018
- Bjelica V et al.Synergistic effects of musking and autohaemorrhaging on the duration of death feigning in dice snakes (Natrix tessellata).Biol Lett20(5):2024
- Burghardt GM.The Genesis of Animal Play:Testing the Limits.Mit Press.Cambridge.MA.USA.2005
- Brumm H,Zollinger SA.Vocal plasticity in a reptile.Proc R Soc B284.2017
- Brumm H,Zollinger SA.Vocal plasticity in a reptile.Proc. R. Soc. B. 2017;284::017ntogeny, and Information.Volume5.Oxford University Press.Oxford.UK:p 475‐499.1990
- Burghardt GM,Ward B,Rosscoe R.Problem of reptile play: Environmental enrichment and play behavior in a captive nile soft-shelled turtle, trionyx triunguis.Zoo Biol15:223–238.1996
- Burghardt GM.Environmental enrichment and cognitive complexity in reptiles and amphibians: Concepts,review,and implications for captive populations.Appl Anim Behav Sci147:286‐298.2013
- Boissy A,Manteuffel G,Jensen MB,Moe RO,Spruijt B,Keeling LJ,Winckler C,Forkman B,Dimitrov I,Langbein J.Assessment of positive emotions in animals to improve their welfare.Physiol Behav92:375‐397.2007
- Case BC,Lewbart GA,Doerr PD.The physiological and behavioural impacts of and preference for an enriched environment in the eastern box turtle (Terrapene carolina carolina) Appl Anim Behav Sci92:353‐365.2005
- Chapple DG.Ecology,life-history, and behavior in the Australian scincid genus egernia, with comments on the evolution of complex sociality in lizards.Herpetol Monogr17:145‐180.2003
- Denardo D.Stress in captive reptiles,Rept MedSurg5:119-123.2006
- Frohnwieser A,Pike TW,Murray JC,Wilkinson A.Perception of artificial conspecifics by bearded dragons (pogona vitticeps) .Integr Zool.2018
- Garner JP.Stereotypies and other abnormal repetitive behaviors: Potential impact on validity, reliability, and replicability of scientific outcomes.ILAR J46:106‐117.2005
- Gleeson TT,Dalessio PM,Carr JA,Wickler SJ,Mazzeo RS.Plasma catecholamine and corticosterone and their in vitro effects on lizard skeletal muscle lactate metabolism.Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol265:R632-R639.1993
- Gregory PT,Isaac LA,Griffiths RA.Death feigning by grass snakes(Natrix natrix) in response to handling by human predators.Journal of Comparative Psychology121(2):123‐129.2007
- Gillingham JC.Normal behaviour. In Health and Welfare of Captive Reptiles.Warwick C et al.eds.Chapman & Hall p131-164.2004
- Hernandez-Divers SJ.Clinical aspects of reptile behavior.Vet Clin N Am Exot Anim Prac4:599–612.2014
- Injaian AS,Francis CD,Ouyang JQ,Dominoni DM,Donald JW,Fuxjager MJ et al.Baseline and stress-induced corticosterone levels across birds and reptiles do not reflect urbanization levels.Conserv Physiol8 (1):coz110.2020
- Lance VA,Elsey RM.Plasma catecholamines and plasma corticosterone following restraint stress in juvenile alligators.J Exp Zool283:559–565.1999
- Manrod JD,Hartdegen R,Burghardt GM.Rapid solving of a problem apparatus by juvenile black-throated monitor lizards (varanus albigularis albigularis) Anim Cogn11:267‐273.2008
- Mancera KF,Murray PJ,Lisle A,Dupont C,Faucheux F,Phillips CJ.The effects of acute exposure to mining machinery noise on the behaviour of eastern blue-tongued lizards (Tiliqua scincoides).Anim Welfare26(1):11‐24.2017
- Megen E et al.Behavior,stress and metabolism of a parthenogenic lizard in response to flyover noise.Frontiers in Amphibian and Reptile Science.2023
- Mehrkam LR,Dorey NR.Preference assessments in the zoo: Keeper and staff predictions of enrichment preferences across species. Zoo Biol34:418‐430.2015
- Mellor D,Beausoleil N.Extending the ‘five domains’ model for animal welfare assessment to incorporate positive welfare states.Anim Welf24:241‐253.2015
- Morgan KN,Tromborg CT.Sources of stress in captivity. Applied Animal Behaviour Science102:262-302.2007
- Moszuti SA,Wilkinson A,Burman OH.Response to novelty as an indicator of reptile welfare.Appl Anim Behav Sci193:98–103.2017
- Phillips C,Jiang Z,Hatton A,Tribe A,Le Bouar M,Guerlin M,Murray P.Environmental enrichment for captive eastern blue-tongue lizards (tiliqua scincoides) Anim Welf20:377‐384.2011
- Panagides N et al.How the Cobra Got Its Flesh-Eating Venom:Cytotoxicity as a Defensive Innovation and Its Co-Evolution with Hooding, Aposematic Marking, and Spitting.Toxins (Basel)13;9(3):103.2017
- Rose P,Evans C,Coffin R,Miller R,Nash S. Using student-centred research to evidence-base exhibition of reptiles and amphibians: Three species-specific case studies.J Zoo Aquar Res2:25.2014
- Santos Maurício Beux dos; Oliveira,Mauro Cesar Lamim Martins de; Verrastro, Laura; Tozetti,Alexandro Marques.Playing dead to stay alive:death-feigning in Liolaemus occipitalis (Squamata: Liolaemidae). Biota Neotropica10(4):361‐364.2010
- Stuart-Fox D,Whiting MJ,Moussalli A.Camouflage and colour change: Antipredator responses to bird and snake predators across multiple populations in a dwarf chameleon.Biol J Linnean Soc88:437‐446.2006
- Silvestre AM.How to assess stress in reptiles.J Exot Pet Med23:240‐243.2014
- Wade C.Sherbrooke; George A. Middendorf III.Blood-Squirting Variability in Horned Lizards (Phrynosoma).Copeia (American Society of Ichthyologists and Herpetologists) 2001 (4): 1114-1122. 2001
- Warwick C,Jessop M,Arena P,Pliny A,Nicholas E,Lambiris A.Future of keeping pet reptiles and amphibians: Animal welfare and public health perspective.Vet Rec181:454‐455.2017
- Warwick C,Arena P,Lindley S,Jessop M,Steedman C.Assessing reptile welfare using behavioural criteria.In Pract35:123‐131.2013
- Warwick C,Frye FL,Murphy JB.Health and Welfare of Captive Reptiles.Chapman & Hall.London.UK.2013
- Warwick C,Steedman C,Jessop M et al.Exotic pet suitability:understanding some problems and using a labeling system to aid animal welfare,environment, and consumer protection.Journal of Agricultural and Environmental Ethics.2013
- Warwick C.Psychological and behavioural principles and problems.In Health and Welfare of Captive Reptiles.Warwick C et al.eds.Chapman & Hall/Kluwer:p205-238.2004
- Warwick C,Lindley S,Steedman C.Signs of stress.Environmental Health News10.21PubMedGoogle ScholarFurther reading.2011b
- Whitham JC,Wielebnowski N.New directions for zoo animal welfare science.Appl Anim Behav Sci147:247‐260.2013
- Wilson BS,Wingfield JC.Correlation between female reproductive condition and plasma corticosterone in the lizard uta stansburiana.Copeia:691‐697.1992
- Westhoff G,Tzschätzsch K,Bleckmann H.The spitting behavior of two species of spitting cobras.Journal of Comparative Physiology A191(10):873–881.2005
- Yeates JW,Main DC.Assessment of positive welfare:A review.Vet J175:293‐300.2008
- Zwart P.Pathophysiology: Assessment of the husbandry problems of reptiles on the basis of pathophysiological findings:A review.et Q23:140‐147.2001