【病気】ヒョウモントカゲモドキのモルフと遺伝性疾患

ヒョウモントカゲモドキは品種改良が進んでおり、繁殖家たちが原種同士の選別交配や突然変異個体の固定を行い、数多くモルフが作成されています。体色や模様、身体の大きさ以もちろんのこと、様々な目の色の個体が存在し、その美しい色や模様、特徴が魅力の人気の爬虫類です。その一方で、一部のモルフでは遺伝性疾患が多発することもあり、その遺伝子を引き継いだモルフで問題となっています。

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アルビノ

アルビノはメラニン色素が生成されないことが体色のモルフで、黒色色素を欠き、全体的に白色や黄色、オレンジなどの淡い色合いになります。目も赤色やピンク色をしており、光に対する感受性が高く、他のモルフと比べて光に対して敏感な個体が多いです。網膜が光に直接的にさらされることで、損傷を受けやすくなると言われ、盲目症や視覚障害のリスクが高まると言われています。

エクリプス

エクリプスは虹彩が黒色をしており、目全体が黒一色に見える目のモルフです。エクリプスは視覚障害が遺伝的に起こる可能性が指摘されていますが、明確には解明されていません。

ノワールデジール

ノワールデジールも目のモルフで、幼若個体は目が全て真っ黒になるソリッドブラック(Solid Black)ですが、成体になるにつれ黒い目の表面に銀灰色の斑紋が表れ、最終的には黒と銀が混じった月面のような目(ムーンアイ(Moon Eye))になっていきます。タンジェリンのコロニーの中から突然出現した個体で、ノワールデジールブラックアイ(Noir desir black eye)と名称が付き、頭文字をとってNDBEと略称されたり、更に省略してノワールデジール(ND)とも呼ばれています。ノワールデジールとはフランス語で「黒の欲望」という意味になります。遺伝性疾患として、成長に伴い眼球の発達が止まって目が小さくなります。一般的には片側の目のみで発生し、時に両眼で起こり、弱視や盲目などの視力障害が見られます。なお、モルフのメスはほとんどが不妊となります。

エニグマ

模様のモルフであるエニグマは2006年に作成されましたが、一部の個体に神経疾患が多発し、モルフ特異的な遺伝性疾患の潜在が指摘され、エニグマ症候群(Enigma syndrome)と呼ばれています。症状は、斜頸や旋回、発作、上を見上げたり、獲物を捕まえられないなどの異常行動です。しかし、症状の発現や経過、重症度などに個人差があるのが特徴のようですが、ストレスなどにより、神経症状が進行することが多いです。慢性的になると自力で採食もできなくなります。症候群は純粋なエニグマだけでなく、エニグマ遺伝子が関与する他の個体にも発症することがありますので、つまりエニグマ遺伝子を潜在的に備えている個体が、ヒョウモントカゲモドキ全体に蔓延する恐れもあります。

ホワイト&イエロー

神経症状が発現しないエニグマの模様に似たホワイト&イエローがという模様のモルフが作成されました。ホワイトアンドイエロー(White and Yellow)は英名のWhite & Yellowを略し、W&Yと略されます。ヒョウモントカゲモドキの繁殖が最も盛んなアメリカではなく、東ヨーロッパのベラルーシで作出され、エニグマに似たランダムなスポットの散り方が見られますが、スポットはエニグマと比較するとやや大きく、数も少ないです。幼体時は黄色又は白が強い個体がありますが、成長と共にスポットが出て来ます。体幹の側面や四肢が白く抜ける傾向があり、背の中心線に沿って、ライン状に色が抜ける傾向があります。しかし、現在ではこのモルフにもホワイトアンドイエロー・シンドローム(W&Y Syndrome)と呼ばれる遺伝性疾患の神経症状が確認されています。エニグマ・シンドロームと同じく神経症状ですが、その症状は多少異なります。上を向くように反り返る、首を上下に振るなどの異常行動が見られ、獲物を捕らえる動作が困難になる程度です。しかし、症状は重度な発作などは見られず、進行しない軽度な神経疾患とされています。症状を示さない個体は、後天的に発症することもありません。

レモンフロスト

レモンフロスト(Lemon Frost)は2018年に作成された模様のモルフで、このモルフはヒョウモントカゲモドキの基本的な体の色を輝くように発色させます。全身の白、黄色、オレンジの体色が明るくなり、体側下部(腹部の体側寄り部分)、顎のライン(顎の裏側)へ白色が広がります。目の虹彩の白色が際立っています。レモンフロストは本来ヒョウモントカゲモドキには存在しない虹色素細胞を持っています。この虹色素細胞がレモンフロストの特徴である輝く様な体色や目の虹彩の白色の量を高める効果をもたらしています。虹色素細胞は光反射性色素胞で、鏡のような高い光反射性や蛍光色のような鮮やかな色合いが生じます。現在レモンフロストというモルフは遺伝的に虹色素細胞腫が皮膚に好発します。腫瘍は高い確率で発病するとされており、転移も起こり、肝臓や腎臓などの内蔵にも腫瘍が確認されています。

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。