【病気】カメレオンの口内炎/歯周病

はじめに

カメレオンは、その特異な形態と生理機能により、ペットとしての人気を博す一方で、飼育下における疾患管理が極めて困難な種として知られています。特に口腔内の健康維持は、カメレオンの生存に直結する重要な課題です。カメレオンの口腔疾患は、単なる局所的な炎症にとどまらず、顎骨への進行、さらには全身性の敗血症へと波及するリスクを孕んでいます。

解剖学

カメレオンの口腔疾患を理解する上で、まず基礎となるのがその独特な歯科構造です。哺乳類や他のトカゲ類とは根本的に異なるこの構造が、疾患の進行や治療の難易度を決定づける要因となっています。

アクロドント歯

カメレオンは、トカゲ亜目の中でもアガマ科やムカシトカゲと並び、アクロドント(端生歯)と呼ばれる付着形式を持つ数少ないグループに属します 。アクロドント歯は、顎骨(上顎骨および下顎骨)の咬合面の頂部に直接癒合しており、歯槽(ソケット)を持たないことが最大の特徴です。発生学的な観点から見ると、カメレオンの歯は孵化前の段階で顎骨から離れた位置に個別の構造として発達しますが、成長に伴い、高度に石灰化した付着組織によって顎骨と強固に融合します。成体においては、歯と骨が一体化した機能的ユニットを形成しており、歯髄腔は次第に石灰化マトリックスへと置換されていきます 。この癒合は極めて強力であり、口腔内に大きな外力が加わった際、哺乳類のように歯が抜けるのではなく、周辺の歯を含めた顎骨の一部が共に骨折してしまうという現象が観察されます。

【解剖】爬虫類の同形歯の解説はコチラ

カメレオンは一生涯を通じて歯が生え変わらない一歯性の動物です。イグアナ科やオオトカゲ科に見られるプレウロドント(側生歯)が、生涯を通じて頻繁に脱落と更新(多歯性)を繰り返すのに対し、カメレオンは孵化時に備わっている歯、あるいは成長過程で顎の後方に追加される歯を一生使い続けなければなりません。最新の遺伝学的研究によれば、アクロドントのトカゲ類では歯の更新機能を失ったことに伴い、エナメル質形成に関わるエナメル質マトリックス蛋白質の遺伝子に変化が生じていることが示唆されています〔Dosedělová et al.2016〕 。

顎骨と歯肉の接合

カメレオンの口腔内では、歯と軟組織(歯肉)の接合部が他の爬虫類とは異なる配置をしています。アクロドント歯の場合、歯肉の付着部は歯の基部から数ミリメートル離れた位置にあり、その間の領域は露出した顎骨を薄い重層扁平上皮(エナメル質様の層)が覆っています 。この薄い上皮層が、細菌の侵入を阻止する物理的バリアとして機能しています。しかし、カメレオンは歯根膜を欠いているため、炎症が骨組織へと容易に波及しやすい構造になっています〔Heatley et al.2001〕。この解剖学的な遊びのなさが、軽微な歯肉炎から重度の骨髄炎へと短期間で移行する病態の背景にあります。

感染性口内炎(マウスロット:Mouse lot

感染性口内炎は、多くの場合、環境ストレスに起因する二次的な感染症です。過度な温度、極端な湿度、換気の不良、あるいは狭すぎるケージなどは、カメレオンに慢性的なストレスを与え、コルチゾール値の上昇を通じて免疫系を抑制します 。これにより、通常は無害な口腔内の常在菌が病原性を発揮し始めます。生きた昆虫による咬傷、あるいはケージの壁面に吻部をこすりつける行動などが、感染の入り口となります。ビタミンAやカルシウムの不足は、粘膜の健全性を損ない、細菌の侵入を容易にします 。

歯周病

カメレオンにおける歯周病は、初期の細菌性バイオフィルム(プラーク)の形成から始まります。口腔内の細菌、剥離した上皮細胞、食物残渣、および唾液成分が結合し、歯の表面や露出した顎骨の上にプラークを形成し、これが唾液中のミネラルを取り込んで硬化すると歯石(カルキュラス)となります 。歯石の蓄積は、顎骨を覆っている薄いエナメル質様の保護層に微小な外傷や化学的な損傷を与えます。これにより、細菌が下層の骨組織へ直接アクセスできる経路が形成されます。細菌が産生する毒素や酵素は、歯肉の炎症(歯肉炎)を引き起こし、血管の拡張と浮腫を招きます。カメレオンには歯根膜がないため、炎症は骨膜から骨髄へと速やかに進行し、骨髄炎を発症させます。

症状

初期段階では軽微な変化しか見られません。獲物に対する反応はあるが、噛む動作を躊躇する、あるいは途中で落としてしまうといった動作が見られます。これは口腔内の痛みを反映しています。粘稠な唾液が見られ、進行するとコテージチーズ状の黄色や緑色の膿(乾性膿)が歯肉縁や口角に蓄積します。

次第に歯肉の紅斑(赤み)、浮腫(腫れ)、および出血が確認されます。進行した歯周病では、歯肉の退縮により骨が広範囲に露出します。重篤になると顎が変形し、下顎骨や上顎骨の腫脹、非対称な顔貌、あるいは病的な骨折による顎のズレが生じます〔McCraken et al.1994〕。

診断・検査

視診

正確な病態把握のために、詳細な視診と開口検査が必要です。 カメレオンはストレスに弱いため、短時間で行う必要があります。開口にはプラスチック製のヘラやクレジットカード、あるいは包帯を巻いた舌圧子を用い、無理な力を加えずに顎を保持します。

X線検査

骨の溶解、硬化、骨膜反応を評価します。骨髄炎が疑われる場合、骨の密度が不均一になり、不透過性が亢進または低下した領域が混在して見えます 。

CT検査

顎骨の微細な破壊や膿瘍の範囲を三次元的に把握するために極めて有用です。特に外科的デブリードマンの範囲を決定する際に不可欠な情報を提供します。

微生物学的検査

膿の深部からサンプルを採取し、好気性および嫌気性培養、ならびに薬剤感受性試験を行います。表面の拭い液だけでは正確な病原菌を同定できないことが多いため、滅菌したスカルペルや針で深部の組織を採取することが推奨されます 。

治療

カメレオンの口腔疾患の治療は、単に抗菌薬を投与するだけでは不十分です。物理的な壊死組織の除去、感染の制御、痛みの緩和、そして全身的なサポートを統合した包括的なアプローチが求められます。組織の内部に形成された乾性膿や壊死骨は、抗菌薬が到達しにくい薬剤の避難所となりますので、外科的な除去(デブリードマン)と洗浄が治療の第一歩となります。変色した骨や脆くなった壊死骨を、キュレットを用いて慎重に掻き出します。健全な出血が見られる骨面を露出させることが目標です。局所洗浄とし希釈したクロルヘキシジン(0.05~0.1%)やポビドンヨード溶液、あるいは下記のような消毒を用いて、患部を強力に洗浄し、浮遊細菌や組織デブリを洗い流します。

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参考文献

  • Dosedělová H et al.Age‐related changes in the tooth–bone interface area of acrodont dentition in the chameleon.J Anat229(3):356–368.2016
  • Heatley J,Mitchell MA,Williams J,Smith JA,Tully TN.Fungal Periodontal Osteomyelitis in a Chameleon, Furcifer pardalis.Journal of Herpetological Medicine and Surgery11(4):7-12.2001
  • McCraken H,Birch C.Periodontal disease in lizards.A review of numerous cases.Proceedings of the American Association of Zoo Veterinarians:108-115.1994

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この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。