フェレットの副腎疾患は日常診療においてしばしば遭遇し、脱毛や陰部腫大、雄においては前立腺腫大に伴う排尿困難など特徴的な症状で来院されます。犬で知られているいわゆる“クッシング症候群”とは大きく病態生理が異なり、ほとんど全てが下垂体の異常がみられず, 副腎皮質原発の腫瘍/過形成とされています。明確な原因は解明されていませんが、早期の避妊手術や日照時間の影響、遺伝的背景が示唆されています。
症例
・4才4ヵ月
・避妊雌
・飼育環境
1頭飼育/餌はフェレット用ペレット/日照時間はほぼ外の明るさに準ずる
主訴
2~3ヵ月前からの身体全体の脱毛、掻痒の有無は不明、食欲活性は一貫して良好
身体検査
左右対称性の脱毛を認め、被毛は粗剛で、やや湿性の脂漏症気味でした。陰部もやや腫大気味でした。


臨床検査
皮膚検査
異常所見は認められませんでした
血液検査
軽度の貧血(PCV 30.8%)
※麻酔はかけておりません
超音波検査
右側副腎と思われる臓器の腫大が認められました

CT検査
自験例では簡易的に撮影した為、血管造影検査は実施していません。右副腎の腫大および石灰化、後大静脈を巻き込むように位置していました。 そして、副腎疾患との鑑別に重要な卵巣も認められませんでした。

診断・治療プラン
臨床症状は右副腎腫瘍による性ホルモン過剰分泌によるもの、軽度貧血はエストロゲン誘発性の骨髄抑制が考えられます。基本的には外科手術が第一選択となりますが、右副腎の摘出は、後大静脈への癒着があり、リスクを伴います。CT画像評価からも本症例では外科手術のリスクは高いと判断し、リュープリン® 100µgを月1回皮下注射を行い、反応をみることにしました。
経過
投与1ヵ月後には発毛傾向が見られ、貧血もPCV55.8%と改善がみられました。

2ヵ月後では、尻尾あたりに脱毛が残っていますが、身体はほぼ発毛した状態になりました。その後は尻尾も毛が生えてきました。


まとめ
フェレットの副腎疾患は脱毛や陰部腫大といった特徴的な臨床症状が見られ、画像検査での副腎の確認は有効ですが、超音波やX線検査だと限界があります。さらに、フェレットの場合はリンパ節腫脹との区別が大変難しく、誤認することが多々あります。そこでCT撮影による画像診断でより正確に判断が可能です。CT撮影にて卵巣遺残も含めた画像診断や手術へのプランニングが可能となります。また、単なる季節性脱毛は以前までは副腎疾患よる脱毛とは区別されていましたが、現在は何らかの潜在的関連が示唆されています。尾に限局した脱毛でも, 病理検査で60%は副腎皮質腺癌だったという報告もあり、季節的な脱毛-発毛サイクルが副腎疾患の初期症状と推察されますので、画像検査が重要となります。副腎腫瘍に対しては外科手術が第一選択とされていますが、本症例などのように内科管理にて現状良好な経過をとり、対症療法でも寿命を全うする可能性もあります。