◎ボールパイソンのモルフと遺伝性疾患

数千のモルフ

ボールパイソンほど、色彩や模様において多様な遺伝的変異(モルフ)を示す動物は他に存在しないと言っても過言ではありません。その歴史は1990年代、アフリカから輸入された野生個体の中に極めて稀に現れた奇妙な色柄の個体から始まりました。初期の発見例には、アルビノ、パイボールド、パステルなどがあり、当時は数万ドルの高値で取引されていました。1992年にボブ・クラーク氏がアルビノの潜性遺伝を証明したことは、ボールパイソン遺伝学の記念碑的な出来事となり、これ以降、特定の遺伝法則に基づいた計画的なブリーディングが普及しました。現代では、単一の変異を固定する段階を超え、複数の遺伝子を組み合わせるデザイナーモルフの時代へと進化しています。

ボールパイソンってどんなヘビはコチラ

遺伝学の基礎理論

ボールパイソンのブリーディングには、メンデルの法則に基づいた知識が不可欠です。表現型とは、アルビノやパステルなど、外見に現れている特徴を指し、遺伝子型とは個体が持つ内部の遺伝子情報になります。外見はノーマルに見えても、特定の潜性遺伝子を1つ隠し持っている状態をヘテロ接合体 (het)と呼ばれます。

ノーマル

全体的に黒・茶・金・白の4色が絶妙なグラデーションで配置されています。背中側は深いブラウンから黒に近い色調しており、模様の中は、明るいタン(薄茶色)や落ち着いたゴールド、黄土色をしています。腹部は白からクリーム色で、個体によってはエッジに黒い斑点が入ります。ノーマルの模様は、大きく分けて2つの要素で構成されています。体の側面に並ぶ、ひょうたん型や不定形の丸い模様をエイリアン・ポッド (Alien Pods)と呼ばれています。この模様の中に、黒い点が2つ並んで入ることが多く、それが宇宙人の顔(エイリアン)のように見えることからこう呼ばれます。このエイリアン模様の形や密度は、個体によって驚くほど千差万別です。背中の中央には、黒いベース色の中に点々と明るい色のラインが走ります。完全に繋がった一本線ではなく、途切れ途切れのドットや短い線になるのが一般的です。頭部は濃いブラウンや黒で、V字型の薄い模様が入ることがあります。目の後ろから口角にかけて、一本の黒いラインが走ります。これが顔立ちを精悍に見せています。

遺伝形式と代表的なモルフ

潜性遺伝 (Recessive)

両親からそれぞれ変異遺伝子を受け取り、ペアの両方が揃った状態(ホモ接合体)で初めて外見に現れます。

パイボール (Piebald / Pied)

身体の各所が不規則に白く抜ける、ボールパイソンを代表する潜性モルフ。白抜けの面積には個体差があります。白抜けが多い個体はハイホワイト、少ない個体はローホワイトと呼ばれます。

アルビノ(Albino)

メラニン欠如により、鮮やかな黄色と白のコントラスト、赤い目を持ちます。ヘビの本来持つ黄色やオレンジ色のパターンが白地に鮮やかに浮かび上がります。アルビノには、チロシナーゼという酵素の有無によって「T-」と「T+」の2つの大きな系統が存在します。

 T-アルビノ(Tyrosinase-negative)

チロシナーゼを全く生成できません。典型的なアルビノで、目は真っ赤で、成長しても黄色と白のコントラストが維持されます 。

 T+アルビノ(Tyrosinase-positive)

チロシナーゼをある程度生成できます。ラベンダーアルビノやキャラメルアルビノ、ウルトラメルなどがこれに含まれます。これらは完全な白ではなく、成長とともに淡い紫やグレー、キャラメル色などの深い色合いが発現するのが特徴です 。   

クラウン(Clown)

クラウンは頭部の模様が複雑に乱れ、背中には一本の太いストライプや乱れた紋様が入るのが特徴です。特に目の下にティアドロップと呼ばれる涙のような模様が入ることが多いです。

デザートゴースト(Desert Ghost)

成長しても色がくすまず、むしろ鮮明に明るくなる特殊な性質を持ちます。

不完全顕性遺伝 (Incomplete Dominant)

一般に共優性と呼ばれます。遺伝子を1つ持つ(ヘテロ)段階で外見が変わり、2つ揃う(ホモ)とさらに劇的なスーパー体へと変化します。

パステル(Pastel)

全体的に黄色を明るく鮮やかにします。スーパー体(スーパーパステル)になると、さらに黄色が強調され、頭部が白抜けます。​

エンチ(Enchi)

模様の乱れを整え、オレンジ色を強調します。スーパー体は模様が極端に減り、色が非常に鮮やかになります。​

モハベ(Mojave)

ノーマルに比べて全体的に色が抜け、脇腹に「鍵穴(キーホール)」のような独特の紋様が現れます。

バナナ(Banana)/コーラルグロウ(Coral Glow)

熟したバナナの美しさ​バナナモルフは特に見た目の変化が劇的なモルフです。​生まれたては鮮やかなピンクやオレンジ色をしていますが、成長するにつれて明るい黄色へと変化します。​最大の特徴は、成長とともに現れる小さな黒い斑点です。これが熟したバナナの皮に浮き出る斑点に見えることからその名がつきました。​

バナナ(Banana)およびコーラルグローは、その美しさだけでなく、性別決定に関する特異な遺伝様式を持つことで知られています 。この遺伝子は、ヘビの性染色体(Z/W染色体)と関連していると考えられており、オス親がその遺伝子をどの染色体に乗せているかによって、生まれてくる子供の性別比が極端に偏ります 。  

オレンジドリーム(Orange dream)

色を明るくし、模様を細かくする「コンボのブースター」として非常に優秀なモルフです。

GHI

非常に暗い体色と独特の模様を持つダーク系モルフの代表格です。

イエローベリー(Yellow belly)

腹部の縁に独特の模様が出ます。スーパー体はアイボリーと呼ばれ、ほぼ全身が白くなります。

顕性遺伝 (Dominant)

遺伝子が1つでも2つでも外見が変わらない形式ですが、近年の研究では不完全顕性の一種(スーパー体が見分けられない、または致死性)である可能性が議論されています。

スパイダー(Spider)

網目状の細い模様になります。

※神経障害(スパイダーウォブル)の特性を持つことでも知られています。​

ピンストライプ(Pinstripe)

背中に細い線が走り、独特の幾何学的な模様になります。

コンボモルフ(デザイナーモルフ)

複数の遺伝子が組み合わさることで、単体では想像できない表現が生まれます。

バナナバター

バナナとバター(レッサーと同アレル)のコンボ。バナナの黄色がよりクリーミーに強調され、黒点も抑えられやすい非常に美しい組み合わせです。

パステルエンチ

パステルの明るさとエンチの整った模様・発色が融合した、ブリードの基本かつ完成された美しさを持つコンボ。

スパイダーパイボール

スパイダーの網目模様とパイボールの白抜けが合わさったもの。パイボールの白い面積とスパイダーの独特な柄が干渉し合い、芸術的な外見になります。

GHIスパイダー

ダークなGHIと繊細な模様のスパイダーが重なり、非常にコントラストの強い、メカニカルで格好良い印象を与えます。

コンプレックス(複対立遺伝子)

同じ遺伝子座に変異を持つモルフ群を指し、これらを組み合わせることで特殊な表現型が生まれます。

ブルーアイリューシ(BEL)コンプレックス

モハベ、レッサー、バター、ラッソなどを組み合わせることで「青目の白蛇」になります。

遺伝性疾患

ールパイソンのモルフには、その美しい外見と引き換えに、特定の遺伝子と分かちがたく結びついた「遺伝性疾患」や「生理的欠陥」を持つものが存在します。

神経障害:ウォブル(Wobble)

最も有名な遺伝的欠陥です。平衡感覚を司る器官の異常により、頭を左右に振ったり(スキャニング)、上下が分からずひっくり返ったり(スターゲイジング)する症状が見られます。

代表的なモルフ:スパイダー、シャンパン、ウォマ、ヒドゥンジンウォマ(HGW)

これらのモルフの「模様」を作る遺伝子そのものが、神経系の形成にも関わっていると考えられています。そのため、「ウォブルがないスパイダー」を血統で作ることは不可能とされています。 軽度であれば生活に支障はありませんが、重度になると餌をうまく仕留められない、あるいはストレスにより拒食に陥ることがあります。

眼球の異常:小眼球症(Microphthalmia)

生まれつき目が異常に小さい、あるいは目が存在しない状態で生まれてくる欠陥です。

代表的な組み合わせ:スーパーレッサー、スーパーバター、ブルアイリューシ(BEL)コンプレックスのホモ接合体

BEL(青目の白蛇)を作る過程で発生しやすく、特にレッサーやバターのホモ接合体で顕著に見られます。視力が弱い、あるいは全盲となりますが、嗅覚やピット器官(熱感知)で補うため、飼育下での生存自体は可能なケースが多いです。

骨格の歪み:ダックビル・キンク(Duckbill / Kink)

顔の形がアヒルのように平たくなったり(ダックビル)、脊椎が折れ曲がって生まれてきたり(キンク)する症状です。

代表的なモルフ:スーパーシナモンスーパーブラックパステル、キャラメルアルビノ(キンクが発生しやすいことで有名)

ブラックパステルコンプレックスのホモ接合体(真っ黒な蛇)を作る際に高確率で発生します。ダックビルは摂食に問題がないことも多いですが、重度の脊椎キンクは排泄や移動に支障をきたし、短命に終わる原因となります。

繁殖上の欠陥:不妊・致死遺伝

見た目には現れませんが、繁殖のサイクルを止めてしまう欠陥です。

デザート (Desert) のメス: 非常に美しい黄色を持つモルフですが、メスはほぼ100%卵詰まり(産卵不能)を起こし死に至るため、現在は「オスのみを愛でるモルフ」として扱われています。(※デザートゴーストとは全く別の遺伝子です)

致死遺伝(Lethal Genes): 特定の組み合わせ(例:スパイダー × スパイダーなど)は、卵の中で胚が死んでしまう、あるいは孵化直後に死亡する「致死」の可能性があるとして、多くのブリーダーが交配を避けています。

まとめ

ボールパイソンの魅力は、これらの遺伝子をパズルのように組み合わせ、世界に一匹だけの「究極の表現」を追求できる点にあります。遺伝の仕組みを理解することで、ブリーディングの楽しみは何倍にも膨らむでしょう。  

 

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。