◎陸ガメの爪切り

爪の解剖学的構造

陸ガメの爪は、爬虫類特有の角質構造を持ち、最外層の硬いケラチン層(爪鞘)、爪鞘の下にある柔らかいケラチン層(爪床)、そして爪の中心部を走行する真皮組織から構成されます。真皮組織には知覚神経と血管が含まれており、損傷すると疼痛と出血を伴います。

爪過長の病因

爪の過長は単なる美容上の問題ではなく、以下の要因による摩耗と成長の不均衡と捉えられます。

環境性要因

飼育下の床材が柔らかすぎる(腐葉土、ヤシ殻のみ等)場合、歩行時の物理的摩耗が不足し、過長を招きます。野生下では岩場や硬い地面を歩くことで自然に摩耗します。温度管理不足や狭小なケージによる運動不足も原因になります。

栄養・代謝性要因

高タンパク食はケラチンの過剰生成を促し、爪や嘴の急激な伸長を引き起こすことがあります。代謝性骨疾患でカルシウム不足や紫外線不足により骨格が軟化すると、正常な歩行姿勢が維持できず、爪が地面に正しく接地しないため摩耗しなくなります。 一部の文献では、肝機能障害と爪・嘴の異常伸長(Beak and nail overgrowth syndrome)の関連が示唆されています。

臨床的意義とリスク

放置された過長爪は、整形外科的および皮膚科学的問題を引き起こします。長すぎる爪が障害となり、趾が捻じれた状態で接地することを余儀なくされます(歩行異常)。不自然な歩様は、指節間関節や手根・足根関節に異常な負荷をかけ、長期的には変形性関節症を招きます。爪が巻き込むように伸びることで自身の皮膚に刺さったり、カーペット等に引っかかって爪根元から折れ、細菌感染の門戸となるリスクがあります。

爪切り

陸ガメは頭肢を甲羅に引っ込める力が強いため、適切な保定が不可欠ですが、大人しい個体では大した保定もなく爪切りができます。ペンライト等で爪の裏側から透過光を当て、血管の走行を確認します。黒色の爪は血管が見えないため、断面を確認しながら少しずつ切除します。小型種にはギロチン型やニッパー型爪切りを使用しますが、大型種や爪が非常に硬化している場合は、割れを防ぐためにリューターによる研磨切除が推奨されます。血管の先端から数ミリ(2~3mm)離れた部位で、自然な接地角度(地面に対して平行〜やや斜め)になるようにカットします。

万が一、血管を損傷した場合は、直ちにペット用の爪の止血剤(硫酸第二鉄等)を用いて圧迫止血を行います。爬虫類の止血能は哺乳類より劣る場合があるため、確実な止血確認が必要です。

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予防

爪切りは対症療法に過ぎません。再発防止には以下の環境改善が推奨されます。餌を食べる場所にスレート(粘板岩)やレンガなどの硬い素材を設置し、採食時に爪が自然に削れる機会を作ります。ケージの一部に赤玉土や平らな石を配置し、摩擦係数を高めます。

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まとめ

陸ガメの爪切りは、歩行機能を維持するための行為です。特に代謝性骨疾患等の基礎疾患が疑われる場合や、黒爪で血管が見えない場合は、無理に家庭で行わず、動物病院での処置が推奨されます。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。