◎日本のエキゾチックアニマル飼育者数と人気種ランキング

はじめに

日本国内におけるエキゾチックアニマル(犬・猫以エキゾチックアニマル市場はもはや「ニッチ」ではなく、ペット飼育者の約45%が関与する「マス市場」へと変貌してます。この成長の背景には、日本の社会構造の変化(単身世帯の増加、都市部の住宅事情)と、エキゾチックアニマルの特性(省スペース、静音性、世話の負担感の低さ)が強く合致していることがあります 。 ​しかし、市場は複数の異なる消費者層によって構成され、いわゆる「鳥類」「小動物」「魚類」「爬虫類」の飼育者像に分けられており 、単一の市場として捉えることはできないかもしれません。 さらに​最も重大な発見は、市場の急成長に対し、専門獣医療という重要インフラの供給が決定的に不足している点です。飼育者の84.7%が医療アクセスに困難を抱えており 、これが市場の持続可能性に対する最大のリスクとなっています。

エキゾチックアニマル市場の定義と全体像​

エキゾチックアニマルの用語には法的に明確な定義が存在せず、使用者によって範囲が異なるのが現状です。​WWFジャパンなどは、「一般的なペットとして飼われている動物以外で、特に外国産の動物や野生由来の動物」と、比較的狭義に定義しています。一方、公益社団法人日本獣医学会や日本獣医エキゾチック動物学会など、獣医療界隈では「犬、猫以外の飼育動物」という広義の定義が一般的に用いられています。 ​本レポートでは、市場の実態を正確に把握するため、後者の広義の定義を採用します。したがって、分析対象には哺乳類(ウサギ、ハムスター、ハリネミ、フクロモモンガ等)、鳥類(インコ、文鳥等)、爬虫類(カメ、トカゲ、ヘビ等)、両生類、および魚類が含まれます。 ​この「定義の曖昧さ」自体が、市場の構造的課題の一つです。飼育の歴史が長いハムスターやウサギ と、野生由来性が強く飼育難易度が著しく高いフクロウやカワウソなどが「エキゾチック」という一つの言葉で括られることが、消費者、事業者、そして獣医師の間で認識の齟齬を生み、不適切な飼育や後述する医療インフラのミスマッチ の一因となっていると分析されます。

エキゾチックアニマルの定義と歴史、分類、および飼育の現状と法的課題

​マクロ環境

犬・猫市場の動向​エキゾチックアニマル市場を理解する前提として、国内ペット市場の中核をなす犬・猫の動向を概観します。日本のペット関連総市場規模は成長基調にあり、2024年度には1兆9,108億円(前年度比102.6%)に達する見込みです。 ​しかし、その中核をなす犬・猫の飼育頭数には明確な変化が見られます。ペットフード協会の2023年の調査によると、犬の飼育頭数は684.4万頭であり、2013年(871.4万頭)と比較して78.5%と顕著な減少傾向を示しています。対照的に、猫の飼育頭数は906.9万頭(2013年比107.8%)と微増傾向にあります。2024年の調査でも、犬の減少(679万頭)と猫の増加(915万頭)という傾向は継続しています。 ​この犬の飼育頭数の構造的な減少こそが、エキゾチックアニマル市場の成長を促す最大の追い風であると結論付けられます。犬の飼育が減少する背景(高齢化、単身世帯化、集合住宅の増加、経済的・時間的負担)は、セクションVで詳述するエキゾチックアニマルが選好される理由(省スペース、静音性、世話の負担感の低さ)と完全に表裏一体の関係にあります。つまり、犬を「飼えない」あるいは「飼わなくなった」層の受け皿として、エキゾチックアニマル市場が拡大している蓋然性が極めて高いです。

​市場の成熟度

専門イベントの活況​エキゾチックアニマル市場の成長と成熟は、全国で活発に開催されている多数の専門展示即売会によっても裏付けられます。 ​東京レプタイルズワールド 、ジャパンレプタイルズショー(JRS) 、ぶりくら市、ジャングルハンター など、爬虫類や小動物に特化した大規模イベントが、年間を通じて全国(東京、大阪、静岡、愛知、福岡、北海道など)で開催されています。これらのイベントは、かつてのニッチな愛好家間の交流の場から、一般消費者を巻き込む主要な流通・情報発信チャネルへと大きく変貌しています。

​飼育者数と市場比率の定量的分析

​ペット飼育者全体に占める比率​

クエリの核心である飼育者数と比率に関して、株式会社TYLによる調査 が注目すべき定量的データを提供しています。 ​調査結果によると、「ペット飼育者の中でエキゾチックアニマルを飼っている人は約45%」に上ることが判明しました 。 ​このデータは、本レポートの広義の定義(犬猫以外)と一致しており、鳥類、ハムスター、カメ、ウサギ、モルモット等 を含んだ数値です。また、ペットフード協会の調査 でも、飼育されているペットとして犬、猫、魚類(メダカ、金魚等)に次いで、「爬虫類(カメ、ヘビ、トカゲ)」が位置付けられており、一定の市場規模を持つことが示唆されています。

​ 「45%」という数値の解釈​

「45%」という数値は、エキゾチックアニマル市場がもはや「ニッチ」や「代替」ではなく、犬・猫市場に匹敵する**「第二の主要市場」**であることを示唆しています。​従来の「ペット=犬か猫」という固定観念は、すでに市場の実態とは乖離しています。この45%には、犬や猫と併飼している層と、エキゾチックアニマルのみを飼育している層の両方が含まれると推察されます。この市場規模の再認識は、ペット関連産業(用品、医療、保険)がリソースを配分する上で、根本的な戦略見直しを迫るものです。​ただし、この45%という巨大な市場は、「単一市場」ではなく「異質な市場の集合体」である点に最大の注意が必要です。この45%を「エキゾチック市場」として一括りに扱うことが無意味である考えもあり、実態は、「鳥類市場」「小動物市場」「爬虫類市場」「観賞魚市場」という、それぞれ異なる動機と消費者層を持つ複数の独立した市場の集合体で、今後のそれぞれの動向に注目です。

​エキゾチックアニマル:人気ランキングと分析(暫定)

​株式会社TYLで統計のとった人気ランキングを以下に示します。「現在」と「意向」のギャップ分析​上記2つのランキング(表1、表2)の比較から、市場の「需要ギャップ」と将来の変動要因が明確に読み取れます。​ウサギは「現在4位→意向1位」 へと明確な上昇を見せています。ネザーランドドワーフ などの品種の人気も高く、これはウサギが従来の「子供向けペット」から「犬猫に代わる主要なコンパニオンアニマル」へと、市場内での地位が明確に上昇していることを示しています。 ランキングにフクロウやフクロモモンガ が登場することは、極めて重要です。これは、市場の動機が従来の「飼育の容易さ」から、「SNSでの見栄え」 や「特定の魅力」へとシフトしていることを示します。 これらの「トレンド型」動物(特にフクロウ)は、飼育難易度、コスト、必要なスペース、そして後述する専門医療の確保 のいずれにおいても、従来のハムスターや鳥類 とは比較にならないほどハードルが高いです。この「飼育意向」と「飼育現実」のギャップは、将来的な飼育放棄 や動物福祉の問題を深刻化させる時限爆弾であると分析できます。

順位動物種
1位ウサギ
2位ハムスター
3位鳥類(ブンチョウやインコなど)
4位フクロウ
5位フクロモモンガ
6位ハリネズミ
7位カメ
8位モルモット
表:飼ってみたいエキゾチックアニマルのランキング
順位動物種
1位鳥類(ブンチョウやインコなど)
2位ハムスター
3位カメ
4位ウサギ
5位モルモット
6位フクロモモンガ
7位ヘビ
8位プレーリードッグ
表:飼ってる・飼っていたエキゾチックアニマルのランキング

https://news.jprpet.com/news/detail/11438/

犬・猫を除く主なペットの推計飼育頭数(2023年)

現在、日本で最も信頼できるペットの飼育頭数データは、一般社団法人ペットフード協会が毎年発表している「全国犬猫飼育実態調査」です。この調査では犬・猫以外の主要なペットについても推計飼育頭数が算出されています。以下は、最新の「令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査」**(2023年12月発表)のデータから、犬・猫を除いたペットのランキングになります。

順位動物種推計飼育頭数
1観賞魚約962万頭
2カメ約193万頭
3小鳥約149万頭
4ウサギ約128万頭
5ハムスター約111万頭
表:エキゾチックアニマルの推計飼育頭数のランキング

人気の背景にある要因分析

現代日本のライフスタイルとの適合性​エキゾチックアニマルがこれほどまでに選ばれる背景には、日本の現代的なライフスタイルへの高い適合性があります 。人気の理由は、大きく3つの合理的要因と、1つの情緒的要因に分類されます。 ​

住宅・都市環境要因

「賃貸・省スペース」への適合​エキゾチックアニマルが選ばれる最大の理由の一つは、現代の住宅事情への適合性です。犬のような「鳴き声」がなく、集合住宅での近隣トラブルのリスクが低いと認識されています。ケージや水槽内で飼育が完結する種が多く、ワンルームマンションなどの限られた居住空間でも飼育が可能です。 「ペット不可」の賃貸物件であっても、交渉次第で爬虫類、魚類、小動物なら許可が出るケースがあることも、飼育のハードルを下げています。

​飼育者のライフスタイル要因

「多忙・単身」への適合​飼育者の多忙な生活リズムや、単身世帯の増加にも適合しています 。 ​世話の負担感: 爬虫類の多くは哺乳類に比べて給餌頻度が少ない場合があります 。また、小動物や鳥類も、犬の散歩のような時間的拘束の強い日課が不要であり、「犬猫より世話がラク」という認識が広がっています 。 ​生活サイクルの適合: 飼育者自身の生活スタイル(例:夜型の人は夜行性の動物を選ぶなど)に合わせた動物選択が可能です 。

経済的要因

「低コスト」という認識​犬猫(特に血統書付き)と比較した場合の経済的ハードルの低さも魅力とされています。生体価格やケージ、飼育設備などの初期投資が比較的安価な場合が多いと見なされています。体が小さいほど餌代が安価であるため、維持費用もリーズナブルであると認識されています 。

​動物固有の魅力とトレンド​

上記の合理的な理由に加え、SNSの普及 に伴い、動物固有の情緒的な魅力が需要を直接的に牽引しています。ヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)は、動きがゆっくりとしており、ハンドリング(手に乗せること)が容易な点が人気を集めています 。フクロモモンガは、飼い主を認識し「なつく」という強い絆を築ける点が最大の魅力とされています。 ​スキニーギニアピッグ(毛のないモルモット)に見られるような「ブサかわいい」 といった、従来の「かわいい」とは異なるビジュアルがSNS上で人気を博しています。容易さという認識の危険性​分析の結果、エキゾチックアニマル市場の成長は、「合理的だが危険な誤解」に基づいている側面が強いことが浮かび上がりました。

飼育者の傾向とペルソナ分析​

4つの「異質な市場」は、明確に重なりません。 「小動物」オーナー(女性、子供あり、Instagram、旅行好き) と、「爬虫類」オーナー(男性、会社員、こだわり趣味、深い知識) は、全く異なります。 「鳥類」オーナー(40代以上女性、主婦) と、「魚類」オーナー(50代以上男性、自営業) も、全く異なる生活セグメントに属します。 ​これは、「エキゾチックアニマル」という括りでマーケティングを行うことが無意味であるかもしれません。「爬虫類」オーナーに「小動物」オーナーと同じ「カワイイ」訴求をしても響かず、「小動物」オーナーに「爬虫類」オーナーのようなスペック訴求をしても刺さりません。WWFの調査では、将来の市場を担う「若年層」の特異な傾向を示しています。 ​「エキゾチックペットに触れてみたい」(33%)、「飼ってみたい」(17%)という意向は、特に10代~30代の若い世代で高い傾向がありますが、これらの若年層は、エキゾチックペットが抱える問題(感染症、動物福祉)の知識を得ても、飼育意向が変化しにくいという特徴があり 、市場の倫理的課題を増幅させる可能性があります。

飼育における重大な課題

急成長の裏で、深刻化している構造的課題、特に医療インフラの崩壊的状況が問題でもあり、これは市場の持続可能性を脅かす最大のリスク要因です。

​専門獣医療の欠如

​小動物メディア「Minima」による調査 は、衝撃的な実態を明らかにしています。エキゾチックアニマル飼育者のうち、実に84.7%が「動物病院の受診で困った経験がある」と回答しています。 ​これは、市場(飼育者数45% )の成長速度に対し、供給(専門獣医師の数・技術)が全く追いついていない「マーケット・フェイラー(市場の失敗)」を示しています。実際、飼育を検討する段階から、専門病院が少ないことが懸念点として挙げられています。

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​飼育者が直面する具体的な医療課題​

飼育者が困ったと感じる理由は、単なる不満ではなく、命に直結する深刻なインフラの欠如です。最も多くの飼育者が感じる課題です 。「夜間にエキゾチックアニマルに対応してくれる病院が近所にない」といった切実な声が上がっています。 ​専門性の欠如と地域格差: 診察可能な病院であっても、専門性に不安を感じる飼い主が多いです 。犬猫と同じ感覚で受診しても「少し様子をみましょう」という対応で終わってしまうケースが報告されています 。専門病院は都市部に集中し、地方では選択肢が極端に少ないという地域格差も深刻です 。 ​情報の不透明性: 病院がどの程度の専門性を持っているか分からず、飼い主は病院選びに非常に苦労しています 。

​課題が引き起こす飼育者の行動変容​

この医療危機 の結果、飼育者は「自衛」を余儀なくされています。 45.3%の飼育者が「複数の動物病院を(症状によって)使い分けている」 という事実は、1ヶ所で完結する信頼できる医療サービスが存在しないことの裏返しです。専門医が見つからないため、「SNS等の情報で調べて自己判断してしまう」 という危険な行動が誘発されています。 過去には、官鳥(オオハシなど)に対し、知識不足から鉄分の多い飼料が販売され、肝臓病が多発した事例 もあり、医療以前の「適切な飼育情報」の不足も課題です。 ​この84.7%という数値 は、この市場の最大のボトルネックです。これは、45%という市場の大きさ にもかかわらず、多くの飼育者が不幸な体験をし、市場から離脱(あるいは次の飼育を断念)する主要因となっています。 ​一方で、この深刻な「不(不満、不安、不便)」は、裏を返せば巨大なビジネス機会を意味します。

​まとめ​

高まる国民の懸念​エキゾチックアニマルの人気 の裏で、社会的な懸念が急速に高まっています。主な問題点は以下の3つです。​動物由来感染症(人獣共通感染症)のリスク、​アニマルウェルフェア(動物福祉)の問題(フクロウカフェなど不適切な飼育環境)、​絶滅危惧種の取引・密輸になります。WWFジャパンの調査 によると、これらの問題について情報を得た国民の95%が、エキゾチックペットの利用・販売に関して「規制強化が必要」と回答しています。 これは、市場が「社会的コンセンサス(合意)」を失った状態で成長を続けていることを意味します。簡単に言えばリスク を軽視して「飼いたい」という意向を維持しながら 、社会全体(95%)はその需要を「規制すべき」と考えています 。 ​このような「需要」と「社会規範」のねじれは、極めて不安定な状態です。業界による自主的な改善(例:医療インフラへの投資、不適切な販売の停止)が進まない場合、ひとたび重大な感染症 や動物虐待事件 が発生しかねません。政府などによる強力な市場介が多方向で求められるはずです。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。