◎オバケトカゲモドキとダイオウ トカゲモドキ

二大巨頭

ダイオウトカゲモドキとオバケトカゲモドキは、どちらも大型で人気のあるトカゲモドキの仲間で、ダイオウはインド西部原産で最大30cm超える巨体になり、オバケは頭が大きく手足が長いのが特徴です。両者ともにトカゲモドキ界の二大巨頭として知られ、その希少性と独特の形態から、爬虫類学および愛好家コミュニティにおいて極めて高い関心を集めています。

ダイオウトカゲモド(Eublepharis fuscus)

ダイオウトカゲモドキは、かつてヒョウモントカゲモドキの亜種とされていましたが、1997年に独立種として再定義されました 。種小名のfuscusはラテン語で暗色の、薄暗いを意味し、その名の通り全体的に落ち着いたトーンの体色をしています。 ​本種はインド西部のマハーラーシュトラ州、グジャラート州、カルナータカ州北部に広く分布し、パキスタン南東部にも分布している可能性があります 。生息環境は、半乾燥した岩石地帯から、季節的な降雨がある熱帯・亜熱帯の乾燥林まで含まれます 。オバケトカゲモドキが山岳地帯に適応しているのに対し、本種はより平坦な岩場や、やや植生のある環境にも適応しています 。 ​

​ダイオウトカゲモドキは、全長25~35cmに達する大型種ですが、その形態はオバケトカゲモドキとは対照的です 。体躯は非常に厚みがあり、四肢は比較的短く、パワー重視の構造となっています。​最大の特徴は皮膚の質感にあり、ヒョウモントカゲモドキのようなザラついた突起(テューバクル)が目立たず、ベルベットのような非常に滑らかな肌触りを持っています。解剖学的特徴としては、指の裏側のスキャンサーが滑らかであること、下顎の鱗が幅よりも長いことが識別点となります 。 ​防御行動と気質​本種はトカゲモドキ属の中でも、特に幼体期において攻撃的な側面を見せることがあります 。脅威を感じると四肢を突っ張って体を高く持ち上げ、口を大きく開けて激しい鳴き声を上げながら突進する行動が観察されていまする。成体になると比較的温和になる個体が多いですが、掴み方が荒い場合には排泄物を放ち、尾を相手の腕に巻き付けるなどの抵抗を見せることもあります 。


オバケトカゲモドキ(Eublepharis angramainyu)

オバケトカゲモドキは、1966年にアンダーソンとレヴィトンによって記載されました 。種小名のangramainyuは、ゾロアスター教における暗黒の精神アンラ・マンユにちなんで命名されており、その完全な夜行性の生態と、ザクロス山脈の深い岩陰に潜む姿を象徴しています 。

​​オバケトカゲモドキは、イラン南西部のザクロス山脈周辺を中心に、イラク北東部、シリア東部、トルコ南東部に分布します 。生息地の標高は300~1000mの範囲にあり、年間を通じて極めて乾燥した環境ですが、彼らは日中、水分の残留する深い岩の裂け目や石膏質の洞窟に避難することで過酷な外気温を回避しています 。 ​本種の四肢は他のトカゲモドキ属と比較して際立って長く、これは起伏の激しい岩場や山岳地帯を効率的に移動するための適応であると考えられています 。特に指の形状は細長く、岩の凹凸を確実に捉える能力に長けています。そして、オバケトカゲモドキの成体は、オスがメスよりも大幅に大型化する傾向があります 。

​地域個体群(ロカリティ)による変異

​オバケトカゲモドキは、その広大な分布域の中で複数のロカリティに分類され、それぞれが独自の形態的特徴を有しています。

イーラーム(Ilam Province): イラン西部のイーラーム州、デフローラン近郊に分布。成体の全長が30cmを超え、最大で40cm近くに達する超大型の個体群として知られています。体色は明るい黄色が面積の多くを占め、模様が消失に近い個体も見られます。

ケルマンシャー(Kermanshah Province):高標高地に位置し、州都の標高は1420mに達します。そのためか、体格は比較的細身で四肢がさらに長く、体色は白や明るい黄色を基調とした極めて美しい発色を示します。

フーゼスターン(Khuzestan Province):比較的低標高の地域に生息する個体群で、低地型とも呼ばれています。

マスジェデ・ソレイマーン

フーゼスターン州のタイプ産地であり、他の個体群と遺伝的に最も乖離していることが示唆されています。

チョガ・ザンビール

最も標高の低い地域に分布し、体格は非常にガッチリとしており、ヒョウモントカゲモドキに近い堅牢なビルドを持っています 。体色はダークブラウンの地色に強い黄斑が入るのが特徴です。

​ 違いのポイント

​オバケトカゲモドキとダイオウトカゲモドキを比較すると、彼らがそれぞれの生息環境において、いかに異なる進化圧を受けてきたかが理解できます。オバケトカゲモドキの長い脚は、ザクロス山脈のような三次元的な構造を持つ岩場での迅速な移動と、冷え込みの激しい夜間の地面からの距離を保つための熱管理に関連している可能性があります。一方、ダイオウトカゲモドキの堅牢な体格は、インド西部のサソリやヒヨケムシといった強力な獲物を力で抑え込むための適応であると考えられます 。また、ダイオウトカゲモドキがオバケトカゲモドキよりも多湿な環境(湿度60~80%)を必要とする傾向があるのは、生息地がインドのモンスーン気候の影響を受けるためです。


この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。