エキゾチックアニマルの定義と歴史、分類、および飼育の現状と法的課題

​エキゾチックアニマルの定義

​エキゾチックアニマルという呼称は、ペットや動物に関わる多くの文脈で頻繁に使用されていますが、その指し示す範囲は曖昧であり、しばしば混乱を招く原因となっています。

​エキゾチックの意味

​「エキゾチックアニマル」という言葉の「エキゾチック(exotic)」は、英語で「外来の、外国産の」あるいは「風変わりな、異国情緒のある」と訳されます 。その語源が示すように、この言葉は当初、日本国内には生息していない外国産の珍しい動物や、従来のペットとは一線を画す風変わりな外見や生態を持つ動物を指す呼称として使われ始めたと考えられます。生物学、動物学、あるいは法学において、「エキゾチックアニマル」という用語を厳密に定義した学術的なコンセンサスは存在しません 。この用語の定義は、科学的な分類体系(例:哺乳綱、爬虫綱)ではなく、むしろ人間社会、特に獣医学的な診療体制の都合によって形成されてきたという背景があります。伝統的に、日本の小動物臨床獣医学は「犬」と「猫」の診療を主軸として発展してきました。しかし、近年ペットとして飼育される動物種が多様化するにつれ、犬猫とは全く異なる生理学的・生態学的特性を持つ動物(ウサギ、ハムスター、鳥類、爬虫類など)の診療ニーズが高まりました。これらの動物は、犬猫用の診断技術や治療薬が適用できないケースが多く、特別な知識と技術を要する「特殊な診療対象」として扱われるようになりました。この獣医学的な実務上の区分けこそが、「エキゾチックアニマル」という用語の現代的な定義の核心です。現在、公益社団法人日本獣医学会、公益社団法人日本獣医師会、日本獣医エキゾチック動物学会といった主要な専門家団体は、「犬、猫以外の飼育動物」という実務的な定義を広く採用しています 。この定義は、その動物が外国産か国産か(例:日本固有種のニホンイシガメも含まれうる)、野生由来か改良品種か(例:長年品種改良されてきたハムスターやインコも含まれる)を問いません 。環境省が開催した「エキゾチックアニマルの飼養管理のあり方検討会」においても、議論の便宜上、この「犬と猫以外のペット(飼養動物)」という定義が用いられています 。

​日本における「エキゾチックアニマル」ブームの変遷

​「犬猫以外」という広範なカテゴリーに含まれる動物種は、時代ごとの社会経済情勢やメディアの影響を受けて大きく変動してきました 。

  • 江戸時代: 既に金魚、ハツカネズミ、小鳥(鳥類)といった動物の飼育ブームが存在しました 。
  • 1960年代(高度経済成長期): 熱帯魚や爬虫類、特にミシシッピアカミミガメ(当時の通称ミドリガメ)が大量に輸入・飼育され始めました 。
  • 1980年代(バブル経済期): メディア主導による爆発的なブームが発生しました。テレビCMによるエリマキトカゲや、ウーパールーパー(両生類)がその代表例です 。
  • 1990年代後半~2000年代: 小型哺乳類ブームが到来し、フェレット、プレーリードッグ、ハムスターなどが人気を博しました 。
  • 近年: 1990年代から続く小型哺乳類の多様化(チンチラ、フクロモモンガ、デグー、ハリネズミなど )に加え、爬虫類の飼育者数が再び明確な増加傾向を見せています 。

​近年の小型哺乳類や爬虫類の人気動向は、日本の社会経済および住環境の変化を色濃く反映しています。都市化の進展に伴い、犬猫の飼育が難しい集合住宅が増加しました。その結果、飼育に広大なスペースを必要とせず、また鳴き声による近隣トラブル(犬の無駄吠えや一部鳥類の叫び声など)のリスクが比較的小さい動物が、「集合住宅向けのペット」として積極的に選択されるようになりました 。バブル期に見られた「珍しさ」や「希少性」の追求から、現代の「飼育環境への適合性」を重視する選択へと、飼育者の動機が変化していることが示唆されます。

​エキゾチックアニマルの大分類と日本で人気の代表種

​前述の「犬猫以外のペット」という広範な定義に基づき、日本国内で飼育されているエキゾチックアニマルを大まかに分類し、現在特に人気のある代表的な種を紹介します。

​哺乳類

​近年、ペットとしての需要が最も多様化しているグループです 。

ウサギ

古くからペットとして親しまれており、エキゾチックアニマルの中でも特に飼育数の多い動物の一つです。臆病な性格の個体が多いですが、品種や個体によっては人になつくこともあります。ネザーランドドワーフのような小型種が人気です 。

げっ歯類(ネズミの仲間)

ハムスター: 飼育の容易さや価格帯から、常に高い人気を維持しています 。

デグー: 南米原産。高い知能と社会性を持ち、飼い主とコミュニケーションが取れるとされる点から人気が高まっています 。

チンチラ: 非常に密度の高い柔らかい被毛が特徴です。夜行性であり、高温多湿に弱いなど、飼育には温度・湿度管理が不可欠です 。

フェレット

イタチの仲間。独特の体臭があるため適切なケアが必要であり、犬ジステンパーの予防接種が必須など、特有の獣医療ニーズがあります 。

ハリネズミ

夜行性で臆病な性質を持ちます。外敵から身を守るための「針」を持つ点が最大の特徴です 。

フクロモモンガ

カンガルーなどと同じ有袋類(哺乳類ですが、げっ歯類ではありません)。前足と後ろ足の間の飛膜を使って滑空する能力を持ち、社会性が高い動物です。

鳥類

飼育数において依然としてトップクラスを占めるカテゴリーです 。

​インコ・オウム類

鳥類の中で最も人気の高いグループです。代表的な種としてセキセイインコが挙げられます 。知能が非常に高く、人の言葉を真似るなどコミュニケーション能力の高さが魅力です。一方で、その知能の高さゆえに要求(例:飼い主への関心)も強く、特に大型種では「呼び鳴き(叫び声)」が近隣トラブルなどの問題行動となるケースもあります 。

フィンチ類

文鳥(ブンチョウ)やキンカチョウなど。インコ類に比べ、比較的小型で静かに飼育できる種が多いです。

猛禽類(フクロウなど)

​近年、フクロウカフェなどを通じて人気が急上昇し、ペットとしての需要も高まっています 。​しかし、フクロウの飼育は、その人気と実際の「飼育難易度」が著しく乖離している典型例と言えます。飼育が困難とされる背景には、(1) 餌が特殊であること(マウスやヒヨコといった冷凍肉の処理が必須) 、(2) 飼育設備が特殊であること(猛禽専用ケージ 、あるいは止まり木(パーチ)に繋留する伝統的な鷹匠のスタイル )、(3) 糞尿や水浴びによる汚れ、特有のニオイ、鳴き声 、そして (4) 寿命が非常に長いこと(小型種でも10年以上、大型種では数十年) 、といった複数の要因があります​これらの特性は、飼育者に対して「終生飼育」の重い覚悟を問うものであり 、安易な飼育は動物福祉の観点からも、飼育放棄のリスク  の観点からも、極めて高いハードルが存在します。

爬虫類

環境省の調査でも、近年飼育者が明確に増加していることが示されているカテゴリーです 。

トカゲ類

ヒョウモントカゲモドキ: 名前に「トカゲ」とありますが、ヤモリの仲間(地上棲)です 。日本では「レオパ」の愛称で親しまれ、比較的おとなしく、小型のケージで飼育可能、餌も昆虫(冷凍コオロギや人工飼料)で済むことなどから、爬虫類飼育の初心者向けとして絶大な人気を誇ります 。

フトアゴヒゲトカゲ: オーストラリア原産。雑食性で比較的丈夫であり、威嚇の際に見せる顎(アゴ)を膨らませる仕草や、愛嬌のある外見で人気があります 。​ヘビ類: 毒を持たず、おとなしい性質の種(例:コーンスネーク、ボールパイソンなど)が人気です。​カメ類: 飼育ランキングでも上位に入る伝統的なペットです 。陸棲のリクガメと、水棲のミズガメ(例:カブトニオイガメ )では、必要な設備や環境が全く異なります。

両生類

過去にブームとなったウーパールーパー(メキシコサラマンダー)  のほか、カエル(例:ツノガエル、ヤドクガエル)やイモリなどが飼育対象となります。 ​

魚類

熱帯魚、金魚、メダカ、鯉などが含まれます。犬猫を除いた飼育実態調査では、魚類が大きな割合を占めることも多く、広義のエキゾチックアニマル(犬猫以外)の主要な構成要素です 。 ​

昆虫・その他

​伝統的にカブトムシやクワガタムシは日本の文化に根付いた飼育対象です。近年は外国産の大型種がペットショップや専門店で取り扱われており、特に「ヘラクレスオオカブト」は、その圧倒的な大きさと知名度から、昆虫の中でも群を抜いた人気を誇っています 。

専門的考察

エキゾチックアニマル飼育に関わる法的規制とリスク ​エキゾチックアニマルとの共生を考える上で、専門家として最も強調すべきは、その「魅力」と表裏一体の「リスク」です。特に、法的な規制と公衆衛生上の問題を正しく理解することは、飼育者にとって最低限の責務と言えます。

なぜ法的区別が重要か

飼育の可否を分ける境界線 ​「エキゾチックアニマル」という用語が持つ最大の危険性は、その定義の曖昧さにあります。この曖昧さが、一般の飼育者にとって、単に珍しいペット(例:ハリネズミ 、フクロウ )と、法律によって飼育が厳格に禁止・規制されている動物(例:アライグマ 、サーバル )との境界線を見えにくくしてしまっています。 ​例えば、「エキゾチック」な外見を持つヤマネコ(サーバルなど)や、SNSで人気のあるカワウソは、ハムスターやインコとは全く異なる法的な枠組みの下に置かれています 。この区別を理解しないまま「珍しい動物」として飼育を試みることは、意図せず法律に違反するだけでなく、公衆衛生や生態系に深刻な脅威をもたらす可能性があります。 ​

混同しやすい法的・社会的分類の比較

​一般の飼育者が混同しやすい「エキゾチックアニマル」と、法律に基づく規制区分(「特定動物」「特定外来生物」など)との違いを、その目的と規制内容に着目して比較整理します。

リスク①:人への危害(特定動物)​

「特定動物」とは、「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)」に基づき、人の生命、身体又は財産に危害を加えるおそれがある動物として定められたものです 。​これには、哺乳類(トラ、クマ、ライオンなどの大型肉食獣、チンパンジーなどの大型霊長類、サーバル、ゾウ、サイ、カバなど )、鳥類(ヒクイドリ、イヌワシ、オオワシなど )、爬虫類(ワニ全種、どくとかげ科全種、大型のニシキヘビ、コブラ科・くさりへび科の毒ヘビ全種など )が含まれます。 ​これらの動物は、たとえ「エキゾチックアニマル」として市場で扱われることがあったとしても、その危険性から厳格な規制対象となります。特に2020年(令和2年)6月1日の法改正により、愛玩目的(ペット)での特定動物の新規飼育は原則として禁止されました 。これは、飼育の難しさからくる逃亡や飼育放棄が、市民生活に重大な危険を及ぼすことを防ぐための措置です。

​リスク②:生態系への影響(外来生物問題)​

現在、日本の生態系に深刻な被害を与えている「特定外来生物」の多くは、元々「エキゾチックアニマル」としてペット飼育されていたものが遺棄・逃亡したものです。​アライグマは、1970年代にペットとしてブームになりましたが、成獣になると気性が荒くなるため飼いきれなくなり、野外に放たれた個体が定着しました 。ミシシッピアカミミガメも、1960年代以降ペットとして大量に輸入されましたが 、長寿で大型化することから飼育放棄が多発し、今や日本全国の河川や池で在来種(ニホンイシガメなど)の生息を脅かす存在となっています。 ​飼育者が飼いきれなくなる理由には、「ペットの病気や老齢」「問題行動(鳴き声など)」「転居」などが挙げられますが 、どのような理由であれ、エキゾチックアニマルの安易な飼育と遺棄が、数十年後に取り返しのつかない生態系破壊を引き起こすという、直接的な因果関係が存在します 。 ​2023年6月より、ミシシッピアカミミガメとアメリカザリガニは「条件付特定外来生物」に指定されました 。これは、既に広く普及してしまった実態を踏まえ、特定外来生物のような厳格な飼育禁止()は課さないものの、これ以上の拡散を防ぐために野外への放出や販売を禁止する、という新しい規制区分です。この制度は、まさに過去の「ペットの遺棄」という失敗に対応するために作られたものに他なりません 。

リスク③:公衆衛生(人獣共通感染症 – Zoonoses)

​エキゾチックアニマル、特に野生由来や輸入個体との接触は、人獣共通感染症(Zoonoses)のリスクを伴います。​サル痘(Mpox): 2022年に世界的に流行が確認されたサル痘は、自然宿主(リザーバー)としてアフリカのげっ歯類や霊長類が感受性を持つとされています 。感染動物の血液や体液との接触が感染経路となりうるため、げっ歯類や霊長類の輸入検疫の重要性が指摘されています 。 ​その他のリスク: 齧歯目(げっ歯類)が媒介しうるペストや腎症候性出血熱などの感染症のリスクも報告されています 。また、爬虫類(特にカメ類)はサルモネラ菌を保菌していることが多く、飼育個体に触れた後の手洗いを怠ると、食中毒の原因となる可能性があります。 ​3

リスク④動物福祉と保全(CITES)

​ある動物種のペット人気が過熱すると、その需要を満たすために野生個体の密猟や違法な国際取引が横行し、種の存続を脅かすことがあります。​その象徴的な事例が「コツメカワウソ」です。SNSなどを通じて日本国内で人気が沸騰した結果、東南アジアからの密輸が横行しました 。この問題が国際的に重視され、2019年、ワシントン条約(CITES)の締約国会議において、コツメカワウソは附属書Ⅰ(商業目的の国際取引が原則禁止)に掲載されることが決定しました 。 ​日本は、ワシントン条約で規制される種の主要な輸入国であり、ある調査期間(2015~2019年)において、哺乳類(生体)の輸入実績は世界第2位、爬虫類(生体)は世界第7位でした 。この事実は、日本のエキゾチックアニマル市場が、世界の生物多様性の保全に対して極めて大きな影響力と責任を

負っていることを示しています。

まとめ

魅力と表裏

一体の重い責任​エキゾチックアニマルは、犬や猫とは異なる多様な生態、形態、そして行動様式を持ち、我々の知的好奇心を満たし、生活に潤いと癒しを与えてくれる存在です。​しかし、その飼育は「かわいい」という感情だけでは決して成り立ちません。フクロウの飼育が示すような、数十年単位の「終生飼育の覚悟」 、インコの鳴き声などが示す「近隣社会への配慮」 、そして過去の不適切な飼料(例:鳥類の鉄分過剰症)が引き起こした健康被害の教訓 が示す「対象種に関する正しい知識の習得」が不可欠です。

​結論

飼育の前に「知る」責任​エキゾチックアニマルを飼育するという行為は、それがどのような動物であれ、未知の生態系の一部を切り取り、個人の完全な管理下に置くことに他なりません。​したがって、飼育を検討する者は、その動物を迎える前に、果たすべき第一の、そして最も重要な責任があります。それは「知る」責任です。​本レポートで詳述したように、その動物が法的にどのような位置づけにあるのか(特定動物 や特定外来生物 に該当しないか)、どのような公衆衛生上のリスク(人獣共通感染症 )を持つのか、そしてその動物をペットとして消費する行為が、野生生物の保全(CITES )にどのような影響を与えているのか。 ​これらを事前に徹底的に調査し、その動物の生態的なニーズを満たし、かつ終生にわたり飼育する覚悟が持てるのかを自問すること。それこそが、エキゾチックアニマルと真に共生するための、飼育者に求められる最低限の倫理的基盤であると

結論付けます。

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。