◎ヒョウモントカゲモドキってどんなトカゲ(知らないといけない生態と知識) 

歴史

ヒョウモントカゲモドキは、 1854年に動物学者によってEublepharis maculariusとして初めて種として記載されました〔Pockman 1976〕。属名のEublepharisは、ギリシャ語のeu(良い)とblepharos(まぶた)を組み合わせたもので、眼瞼があることでこの亜科の種を他のヤモリと区別する特徴となっています。種小名のmaculariusは斑点模様を指してラテン語のmacula (斑点または傷)に由来しています。E.maculariusには5つの亜種があります。原産国が政情不安定などの理由により、現在は野生個体の流通は極端に少ないです。飼育下個体群の多くはパキスタン由来の血統に起源を持つとされれています。  

学名分布呼称
Eublepharis macularius afghanicusアフガニスタン南東部および東部、パキスタン北西部の一部アフガン、アフガニクス
Eublepharis macularius fasciolatusシンド州(ハイデラバード周辺)ファスキオラータス
Eublepharis macularius maculariusインド北西部、北部およびシンド州を除くパキスタンマキュラリウス、パンジャブ
(ハイイエローの元になったとされています)
Eublepharis macularius montanusシンド州(カフチ周辺)モンタヌス、モンテン
Eublepharis macularius smithiインド北部(ニューデリー周辺)
表:ヒョウモントカゲモドキの亜種

愛称はレオパ

和名や英名の通り、ヒョウ柄の黒い模様が入る小型のヤモリです。片手に乘るくらいのサイズです。ヤモリの仲間ですが、ヤモリとは異なる体の特徴があることから、トカゲモドキと呼ばれています。多くのカラーバリエーションがCB個体として作成され、とても人気が高い爬虫類です。

ヒョウモントカゲのカラーバリエーション(品種)の解説はコチラ

分類・生態

分類

有鱗目トカゲモドキ科ヒョウモントカゲモドキ属
学名Eublepharis macularius
英名:Leopard gecko
別名:レオパードゲッコー

分布

パキスタン、アフガニスタ南部、インド北西部

生態

環境

荒地や草原の岩の多い半乾燥~乾燥地帯(一般的に想像されるような砂丘が広がる「砂漠」ではない。むしろ、岩が多く点在する乾燥した草原、石の多い砂漠地帯、そして粘土質または砂混じりの固く締まった土壌を持つ低木地帯です) 。

ヒョウモントカゲモドキの飼育の詳細な解説はコチラ

行動

日中は高温や捕食者を避けるため、岩の割れ目、他の動物が掘った巣穴、あるいは緩んだ樹皮や枯れた多肉植物の下などに隠れて過ごし、夜に活動する夜行性です〔Friedrich-Wilhelm 1995〕。地上に生息する種ではありますが、ヒョウモントカゲモドキの爪のある趾は岩や枝に登ることができ、腹側から簡単に熱を吸収できます〔Hunziker 1994〕。オスは縄張りを持ち、1頭のオスに対し数頭のメスのハーレムをつくります。

生息地の気候は、顕著な温度変動が特徴です。夏の気温は40~45℃に達することがある一方、冬の気温は10℃以下にまで低下し、ヒョウモントカゲモドキは脂肪の蓄えを利用して冬眠に近い状態に入ります 。周囲の湿度は通常30~40%と低いですが、モンスーンの時期には70~80%に急上昇することがあります。しかし、巣穴内の微小環境はより安定しており、40~45%程度に保たれています。

活動パターンに関しては、文献によって見解が分かれています。伝統的には夜行性とされてきましたがが 、現在では多くの情報源が薄明薄暮性、すなわち夜明けと夕暮れに活動が活発になると分類しています 。さらに、日中に日光浴をするなど、散発的に活動する周日性の可能性を示唆する証拠も存在します。  

社会構造についても議論があります。ペット飼育では単独性と記述されることが多いですが 、学術的な情報源や野外観察では、緩やかなコロニーを形成し、隠れ家を共有することが示唆されています。オスは縄張り意識が非常に強く、他のオスと激しく争います。繁殖期には、1頭のオスが複数のメスを率いるハーレムを形成します。  


食性

動物食で、昆虫、クモなどの節足動物、小さいトカゲなどの小型爬虫類などを食べます。彼らは獲物に忍び寄り、一気に襲いかかる「Stalk and  Ambush型の狩りを行い、忍び寄って獲物に気づかれないように静かに奇襲をかけます。攻撃の直前に尾を細かく震わせる行動が観察されることがあります。 空気中の湿度は高いためか、岩や植物についた夜露や朝露を舐めて水分をとっています。

寿命

10~15年(最高記録で30年)〔Kramer 2002〕

身体

全長:18~25cm
体重:45~60g

性格・習性

温和

性格は温和で、行動もおっとりしているものが多いです。基本的に採食と排泄以外は、動かないているイメージがあるくらいです。しかし、嫌なことをされるとかみつくこともあるので注意して下さい。

目をなめる

舌は太く先端は分かれていません。頻繁に舌なめずりをし、鼻や目を舐めて衛生管理をしたり、乾燥を防いだり、また口周りについた水滴などを舐めとります。

特徴

トカゲモドキ科は分類的にヤモリですが、いくつかの点でヤモリよりもトカゲに近い特徴を持つことから、トカゲモドキと命名されました。

体幹

細長い頭と胴体と発達した大きなを尾を持ち、短い四肢をしています。

体色

幼体の体色は薄い黄褐色に太い黒色の帯模様をしていますが、成長に伴い模様が不明瞭になります。

成体では黒い不規則なヒョウ柄の斑紋になり、腹側は白色を帯びています。生息地により、色や模様が少しずつ異なります。

鱗の突起

体の鱗の表面には多数の小さなイボ状突起で覆われています。

腋下ポケット

腋下には腋下ポケットと呼ばれる窪みがある個体もおり、この窪みの役割は不明です。

【病気】トカゲモドキとヤモリの腋下ポケットと水疱の解説はコチラ

ヒョウモントカゲモドキは、脱皮の前になると全体が白色を帯びて、その一部に亀裂が入って皮が剥がれ落ちます。多くの場合、脱皮殻は一体となって剥がれ、それを自ら摂食します(食皮:keratophagy) 。  

尾は脂肪を蓄えるため、体よりも太くなることがあり、食料がない場合に栄養として利用できるエネルギー貯蔵庫として機能します〔Liz 2007〕。一方、栄養不足や疾病により尾は細くなり、スティックテール病と呼ばれています。ヒョウモントカゲモドキは狩りをするとき、獲物に近づくと尾をピクピクと動かしたり振ったりすることがあります。ヤモリが獲物を食べると、尾はリラックスした位置に戻ります〔Liz 2007〕。

【病気】ヒョウモントカゲモドキのスティックテール病の解説はコチラ

自切

天敵に襲われると、自ら尾を切って逃げることもします(自切)。これは、攻撃を受けた際に自ら尾を切り離す能力で、尾は切り離された後も30分ほどピクピクと動き続けることができ、捕食者から逃げる時間を稼ぐための気をそらすことができます〔Higham et al.2009〕。尾骨が骨折すると尾は簡単に離れ、急速な血管収縮により失血を最小限に抑えることができます。尾が切り離されると、貴重な脂肪の貯蔵庫が失われるため、ヤモリに大きなストレスがかかります。尾は切り離された直後から再生し始め、短30日で完了することもありますが、再生尾は元の尾には再生せず、類似した色を保っていることが多いですが、滑らかで元の尾よりも短く幅が広く、先端で突然終わるような形状です。

【解剖・生理】トカゲの尾の自切の解説はコチラ

他の夜行性であるイモリと同様に縦長のスリット状の瞳孔をしています。

歯は同形歯と呼ばれて小さい歯が並んでいます。そして、多生歯類で100本の歯を3~4ヵ月毎に生え変えることができます。

【解剖】爬虫類の同形歯(ギザギザ)の解説はコチラ

消化管

消化管は、食道、胃(胃底部および幽門部)、小腸、大腸から構成され、最終的に総排泄腔に開口します。虫を主に食べる動物として、彼らの消化管は草食動物に比べて比較的短く、単純な構造をしており、組織学的研究からは、潤滑のための粘液細胞や杯細胞、ペプシノーゲンと塩酸を分泌するオキシントペプシン細胞の存在など、食虫性に適応した特徴が確認されています 。彼らは咀嚼によって昆虫のキチン質の外骨格を物理的に破砕し、消化することが可能です。  

ヤモリのような趾の吸盤である指下薄板を欠くため、垂直の壁に張りつくことができません。指の先には細い爪があります。下の写真はヤモリの指下薄板です。

ヒョウモントカゲモドキの趾の数は前後肢ともに5本で、小さい爪が生えていますす。

ヒョウモントカゲモドキの足
ヒョウモントカゲモドキの爪

眼瞼

ヤモリ類は眼瞼を欠きますが、ヒョウモントカゲモドキは眼瞼があります。ヤモリの仲間なのに眼瞼を持つトカゲなためにトカゲモドキと命名されています。

 ポイントはコレ

・ヒョウモントカゲモドキはヤモリの仲間
・夜行性
・通称はレオパと呼ばれ、ヒョウ柄模様
・パキスタン周囲の乾燥した地域に生息する
・朝露や夜露をなめる
・昆虫食
・尾の太さで栄養状態が分かる
・ヤモリのような吸盤はない
・眼瞼がある

著:安川 雄一郎, 編集:安川 雄一郎
¥2,750 (2025/11/27 22:33時点 | Amazon調べ)
\ブラックフライデー開催中!/
Amazon
著:霍野 晋吉, 著:中田 友明
¥6,380 (2025/11/25 21:46時点 | Amazon調べ)
\ブラックフライデー開催中!/
Amazon

トカゲの獣医学オンデマンド配信セミナー

聴講希望はコチラから

爬虫類臨床の最終章!

参考文献

  • Friedrich-Wilhelm H.Geckoes:biology,husbandry,and reproduction.Wolfgang Schmidt.Malabar,Fla.Krieger.1995
  • Grenard S.An Owner’s Guide to a Happy Healthy Pet:The Bearded Dragon.Howell Book House.New York.1999
  • Higham TE.Russell AP.Flip, flop and fly:Modulated motor control and highly variable movement patterns of autotomized gecko tails.Biology Letters6(1):70-73.2009
  • Hunziker R.Leopard Geckoes: identification,care & breeding.TFH Publications Inc.Neptune City.NJ.1994
  • Johnson JD,Bearded Dragons.Exotic DVM8(5).Zoological Education Network:p38-44.2006
  •  Liz P.Leopard Geckos for Dummies.Wiley Publishing, Inc.2007
  • McKeown S.General husbandry and management.In Reptile medicine and surgery.Mader DR ed.WB Saunders.Philadelphia:p9-19.1996
  • Pockman R.1854.Proceedings of the Society.Report of the Curator,Zoological Department.Saurologica(2):1‐15.1976
  • Quinn AE,Georges A,Sarre SD,Guario F,Ezar T,Graves JA.Temperature sex reversal implies sex gene dosage in a reptile.Science316.411.2007
  • Tosney K.1996.”Caring for an Australian Bearded Dragon” (On-line). Accessed November 16.1999 at http://www.ualberta.ca/~rswan/ERAAS/bd.htm.
  • Zoffer D,MazorligT.The Guide to Owning a Bearded Dragon.TFH Publications.Neptune City.NJ.1997

この記事を書いた人

霍野 晋吉

霍野 晋吉

犬猫以外のペットドクター

1968年 茨城県生まれ、東京都在住、ふたご座、B型

犬猫以外のペットであるウサギやカメなどの専門獣医師。開業獣医師以外にも、獣医大学や動物看護士専門学校での非常勤講師、セミナーや講演、企業顧問、雑誌や書籍での執筆なども行っている。エキゾチックアニマルと呼ばれるペットの医学情報を発信し、これらの動物の福祉向上を願っている。

「ペットは犬や猫だけでなく、全ての動物がきちんとした診察を受けられるために、獣医学教育と動物病院の体制作りが必要である。人と動物が共生ができる幸せな社会を作りたい・・・」との信念で、日々奔走中。